第二章 5部【甘いケーキと苦い気持ち】
少し不穏だったり、ほのぼのだったり。
男女キャラで温度差出てますね( ̄▽ ̄;)
薄暗くじめっとした牢獄から地上に戻り、ケルヴィスが子供の誘拐犯について自警団に情報収集を依頼した。
「もう、ここですることはないな」
吐き出すように言って、重い気持ちで出口の扉に手を掛ける。
外に出て、太陽の眩しさに目を細めた。ゆっくりと新鮮な空気を吸い込む。
隣でシアが「はああ」と大きく息を吐いたのが見えた。
かび臭さと、肌に纏わりつく生ぬるい感覚。気づかぬうちに、二人とも息が詰まっていたのだろう。
安堵の表情のシアの横で、ケルヴィスにはドロリとした何とも言えない不快感と気持ち悪さが腹の底に残る。
(……くそっ!あの女の話を耳にするなんて!……あいつに会いに行こう。元々行く予定だったしな)
外に出たケルヴィスは押し黙ったまま歩き始める。歩幅が違うので、シアと距離が少しずつ開いていく。
「ケルヴィスさん、歩くの速いです」
返事がない。シアは少し不安になって、今度はもっと大きな声で呼びかけた。
「ケルヴィスさーん!」
「あ、ああ、シアどうした?」
やっと気づいて振り向いた。
「さっきから呼んでも反応なかったので、どうかしましたか?」
「悪い、思うところがあって、ぼーっとしてたみたいだ……少し寄りたいところがあるから、先に帰っててくれるか?」
そう言うとケルヴィスは光の精霊を鳥に変え飛ばした。
「セレネ姉さんが迎えに来てくれるから、少し待っていようか」
「はい、分かりました」
治安本部の前にあるベンチに座った。
(ここに来てしばらくは出会った時と調子が変わらなかったのに、どうしたのかな)
シアは不思議に思った。
「……シア、あのな、俺は昔……」
ケルヴィスは何か言いたそうにシアをチラチラ見るが、すぐに口ごもりはっきりしない。
(ケルヴィスさんが言いたいのは、さっきの"英雄"の話?言いにくそうだったのに、教えてくれるのかな)
ケルヴィスは、「あー」「うーん」などと、唸っている。
「ケルヴィスさん、姉さまが来るまでどれくらいかかりますか?」
「……20分くらいかな」
「じゃあ、私、ケーキっていうの食べたいんですけど……食べたことなくて、わがままですか?」
(……わざとらしかった?)
シアはドキドキしながら言った。
急にシアが『ケーキ』と言ったので、ケルヴィスは一瞬戸惑っていたが、その後笑いだした。
「はは、いいぞ。シアのわがままは聞いてやるよ。むしろ、わがままを言ってくれ。今まで孤児院で我慢した分も、な?」
悪戯っぽく笑うケルヴィスを見て、シアはほっとした。
「私、ケーキの種類とか分からないんですが」
「私が教えてあげる」
背後から声がした。
「セレネ姉さま!来てたんですか?」
「こちらに向かってる途中で伝言を受け取ったのよ」
ケルヴィスの方を見てセレネは話し始めた。
「"子供の人身売買"の件を上に報告したわ。調査の応援が来るとの連絡があったの。それを直接ケルくんに伝えるのと、シアちゃんの様子を見にね」
「ありがとう、姉さん。俺は少し用事を思い出したから、シアの事は頼みたいんだけど」
「もちろん、そのために来たから。行ってきていいわよ」
セレネはウインクをして、ケルヴィスを促した。
「よろしく頼む。シア、姉さんに連れていってもらってくれ。また後でな」
シアの頭をひと撫でしてからケルヴィスは走って行った。
「もう、子供扱いはしないで、と言ったのに」
「ふふ、子供扱いされたくないシアちゃんはケーキも大人っぽくする?」
「……ケーキは甘いのがいいです」
二人は笑い合ってケーキを食べられる店に向かった。
◇◇◇
ケルヴィスは、もう一度自警団事務所に戻る。
しばらくすると団員が情報を集めて来たので再び町中に出た。
「いらっしゃい。おや、久しぶりかな」
町の端にある酒場に入った。ここは目立たない立地なので、何か後ろ暗い奴らが出入りしやすい店だ。
「上物が入ったと情報を貰ったんだが」
ケルヴィスは酒場の雇われマスターに聞いてみた。
「ええ、ありますが。奥の部屋をご用意致します。お幾つご入り用ですか?」
「……物を確認してからだな」
そうやり取りすると、酒場の奥の部屋に通された。
そこには、人の良さそうな男がソファに座っていた。古い知り合いで情報屋をしている者だ。
「それで?英雄様は、何の情報が欲しいと」
「その英雄ってのをやめろリック。あれは俺の昔の失態だっての」
「ははは、分かってるよ、ケルヴィス。で、何があった?」
リックはにこにこしながら聞いてくる。
「情報はとっくに入っているだろうに、相変わらずなやつだ」
ケルヴィスはシルフを呼び出し、外へ声が聞こえないよう風で遮断する。
シアに起きた出来事を話して、人身売買に関わった人物の情報がないかと尋ねる。
「うーん、そのお嬢さんが体験した情報を貰えたのはこちらとしても有難い。下手に扱えない、国家レベルの情報だけど、な」
「それで、誘拐犯に接触してきたやつの情報はないのか?」
ケルヴィスはリックに詰めよった。
「急かすなよ………それなんだが、2人いたらしい。黒いローブで、司祭っぽい格好をした年老いた男。もう1人は金髪の真っ白な肌の女、らしい」
金髪の女。嫌な思い出が甦る。
「リック、その女って……まさか」
「……そうではないと願いたいが、顔半分に仮面をつけてたとか」
「まさか……あいつなのか!?お前の腕を……!」
「落ち着けケルヴィス、俺は大丈夫だから」
リックは、昔ケルヴィスと同じ騎士団見習いだった。
ある出来事で腕を片方失い、剣を持つことを諦めた。
「こうして生きていられるのも、お前のお陰だ。お前が辛そうな顔してどうする」
「……悪かったな」
「俺はこの仕事でお前の、ひいては国の役に立てるのを嬉しく思っているんだ。家族も分かってくれている」
(しんみりするのは嫌いだけど、リックを前にすると、どう言っていいか分からなくなる)
「そういや、お前が世話やいてる子。あの子がいた孤児院が分かったぞ」
リックはそういうと紙を渡してきた。
「ありがとう、助かるよ」
リックに感謝した。
するとリックは、にやりと笑って言ってきた。
「そこの孤児院、叩けば色々出てきそうだな。それにしても、お前がそんなに面倒見がいいとは思わなかった」
「関わった手前、最後までちゃんとしないとな」
「はは、そういうことにしておく。また何か情報が入ったら連絡をするよ」
「ああ、よろしく頼むな」
リックと別れ店を出た。
脳裏にあの女の嘲りと、あの男の冷酷な眼差しを思い出し、嫌な予感が渦巻く。
立ち止まって呼吸を整えた。
(俺が今怒りに囚われても何もならない。まだこれからだ。俺には守るものがある。慎重にいかないといけない)
ケルヴィスは、シア達が待っている店に向かった。
◇◇◇
セレネに連れられて、可愛らしい看板がかけてあるお店についた。
「ここよ、さあ入りましょ」
扉を開けるとチリンと音がして、店の扉のベルが鳴った。
「いらっしゃいませ、何名さまですか?」
可愛い制服のお姉さんが声をかけてくる。店の内装は白とピンクを基調にしていて、レースのカーテンにリボンなどの装飾、ぬいぐるみなども飾ってあった。
シアはきょろきょろと見回す。
「2人だけど、個室空いてるかしら」
「空いています。どうぞこちらへ」
店の奥に扉があった。中に案内される。ここは白と水色が基調の部屋だ。
レースのテーブルクロスがかかっている。
「どう?このお店、可愛いわよね」
にこにこしながらセレネが聞いてくる。
「はい!すごく可愛いですね」
「だと思った。シアちゃんの目もすごくキラキラしてるから」
(そんなにはしゃいでたかな、私)
シアの顔が少し赤くなる。
「女の子はそれでいいのよ。さあオーダーしましょう」
「はい」
セレネがシアにケーキを選んでくれた。
フルーツがたくさん乗ったタルトと、苺の甘いショートケーキ。
紅茶もお砂糖とミルクを入れてもらう。
二人でケーキの話しや服の話をして、とても充実した時間だった。
一通り食べた後、お茶のおかわりを貰った。
そこでシアはセレネに聞かれた。
「ねえ、シアちゃん気になってたけど、そのペンダント」
「これですか?」
(私がずっとつけているペンダント。なくしても戻ってくる、いわく付きの)
「それ、魔法がかかってると思うのだけど。気がついていた?」
「え!……全然気づきませんでした」
シアがびくっと体を震わせた。
(何か悪い魔法でもかかっているのかな。ちょっと怖い)
するとセレネがにっこり笑った。
「悪い魔法じゃないわ。むしろ守護魔法。少し見せてもらえるかな?」
(悪い魔法じゃなくて良かった)
シアは、ペンダントを外しセレネに渡す。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。これは……祝福の祈りの言葉が古代文字で細かく刻まれてるみたい。紋章と、名前も……」
「名前?名前って誰のですか」
シアは身を乗り出した。
「愛を込めて"エルシアナ"へ贈る。エルシアナという人物にむけてだわ」
「……このペンダント。なくしても、取られても、何故か私の所へ戻ってくるんです」
「おそらく……この名前は貴女の名前ね。シアちゃん、本名が分かって良かったわね」
セレネはシアの手をぎゅうっと握りしめてくれた。
「私……名前は"エルシアナ"だったんですね」
シアはペンダントを優しく撫でる。視界がぼやけて涙が手にかかった。
少し泣いた後、セレネがハンカチで涙を拭ってくれた。
(泣いてしまった……恥ずかしい)
シアが泣き止んだ後、セレネが呼び名について口にした。
「本名が"エルシアナ"なら、これまで通り"シアちゃん"でいいわね」
「はい、でもシアって人攫いの人がつけた名前のはずなんです」
「何でかしら?」
(シアって名前は……本名からだったのかも)
シアが考えていると扉の向こう。お店の入り口のほうが、騒がしくなった。
「あっ、ケルくんが着いたみたいね」
「えっ、何で分かるんですか?」
「シアちゃん、扉をそーっと開けて見てみなさい」
セレネに言われたとおり、シアは扉を少しだけ開けて覗いてみた。
ケルヴィスが立っている。
そして、その周りには女性が数人集まっていて、可愛い服を着た店員さんも何人か混ざっている。
セレネを振り返る。
「……あれは一体?」
「ケルくんね。顔はいいのよ、顔は。」
「あー、確かに。容姿はすごく素敵だと思います……」
セレネは、そこで何か思い付いたような顔をした。
「じゃあ、シアちゃんは。他にケルくんのどこが素敵だと思うのかな?」
「えーっと、ケルヴィスさんの素敵なところ」
「何でもいいわ。教えてくれる?」
(そう言われると、何て言えばいいのか)
セレネはわくわくした表情をしている。
「……容姿はもちろん素敵だと言いましたが、目の色が好きです。あと銀色の髪もとてもキラキラしていて」
セレネは「そうねえ」と、うんうんと頷いている。
「さすがに性別を勘違いされて、服に手をかけられた時はどうしようかと思いましたが……」
ここでセレネは「ぷふっ!」と、吹き出した。
「あはは……実は私、ケルヴィスさんを信用できるか疑っていました。他人は信用できないといじけていたんです。だけど、色々と気を遣って、こんな私に真っ直ぐ向き合ってくれて、すごく優しい人です」
セレネはにっこり、というよりにやにやしている。そして、シアの後ろを指で差した。
「ですってよ、ケルくん」
「え?」
勢い良く振り向くと、顔を真っ赤にしたケルヴィスが立っていた。
「い、いつのまにいたんですか!」
シアは思わず大きな声を出してしまった。
「あ……店員にこの部屋だって聞いて。扉が少し開いてたから……」
「……どこから……どの部分から聞いてましたか?」
「あ、あー……目が好きってところ……かな」
ケルヴィスは片手で口元を覆って耳まで真っ赤になっている。
「その、俺は……あまり、好かれるような男ではないから……」
(ほぼ初めから聞かれてた。今、私の人生の中でも一番恥ずかしい思いをしている最中だと思う)
「ケルくん、顔がにやけすぎでしょ」
「姉さん、うるさい!放っておいてくれ」
「シアちゃん、ケルくんはすっごい照れてるのよ。気にしないで」
そう言ってるセレネは、シアにはすごく楽しそうに見えた。
「――さて、ケルくんは用事終わり?」
「ああ、元気だったよ。土産も貰った」
ケルヴィスはセレネに紙を渡す。
「ありがと、王都に帰る途中でお土産を受け取っていきましょう」
「ああ、そうしよう」
さっきまでの二人の楽しげな雰囲気が一変した。
ちょっと近寄りがたい感じがする。
「じゃあ、ケルくんのお迎えも来たし、お店を出ましょうか」
「はい、あっお会計は」
「ケルくん、よろしくね」
「分かった。じゃあ、2人は少し待っていてくれ」
ケルヴィスがオーダーの紙を持って会計に向かった。
「シアちゃん。ケルくんをよーく見てるのよ」
何をよく見るのか分からないが、シアはとりあえずケルヴィスを見てた。
遠目に見ても、ケルヴィスは背が高くてすごくスタイルが良い。
「会計を」
ケルヴィスが店員に話しかけた。
すると、会計に店員がまた一人増えた。どんどん増える。
そしてケルヴィスの後ろにも会計の列が並ぶ。
(さっきまで誰もいなかったのに?)
「まだ、これからよ。少し近づきましょう」
「まだ……何かあるんですか?」
セレネの後ろをついていく。
(あっ、会計担当の店員さんが揉めている)
しばらくして、やっと落ち着いたのか、店員の1人が対応し始めた。ケルヴィスがお釣りを受け取ったが、店員が手をしっかり握って離さない
ケルヴィスの顔がひきつった。
「はは、そろそろ離して貰えませんか?」
「あっ、すみませえん。ついうっかりぃ」
店員がケルヴィスの手を撫でる。と、ケルヴィスが素早く手を引いて「じゃあ、ご馳走さま」と言い、会計を離れた。
すぐに女性に囲まれ質問責めにあった。
ケルヴィスの表情はだんだん真顔になっていく。それでも女性達は離れない。
「見てて面白いんだけど、そろそろ限界かなー?後で怒られちゃうから、シアちゃん行こうか」
そう言うとセレネは女性を掻き分けてケルヴィスの側に行く。
(姉さま……強い)
「ケルくーん、会計ありがとう」
「姉さん、シア!」
ケルヴィスは目線をセレネに向けた後、シアの方を見てぱっと笑顔を見せた。
さっきまで他の女性には仏頂面だったのに、ケルヴィスの笑顔が眩しく、シアはちょっとドキドキしてしまう。
と、同時にそこにいた女性から刺すような視線を感じる。
「あの女たちはどういう関係かしら?」
「エルフの方は姉らしいわ。じゃあ
あっちは妹?」
「子供だし恋人ではないんじゃない、でも親しげね」
ひそひそされて居心地が悪い。
「2人とも、行こう」
ケルヴィスがシアとセレネの背中を押し、店を出ていく。
後ろから『キャーキャー』というより、『ギャーギャー』と聞こえてきた。
(こ、こわい)
「はあ、姉さん。会計任せたのわざとだろ?」
「ケルくんの奢りなんだから、お財布出すのはケルくんに決まっているじゃない」
「俺は、ああいう女達が苦手なんだ。それに、怖がって叫んでた……」
「モテてるだけでしょう」
「……モテるわけないだろう。会計の時だって、硬直して手を離さなかったじゃないか」
ケルヴィスは心底嫌そうだ。
(え?あんなに、女の人達が頬を染めて見ていたのに!?)
シアが驚いていると、セレネに耳打ちをされた。
「気付かないのは本人だけよ。肌の色でモテないと思い込んでるの、面白……不憫よね」
(姉さま、言い直しましたね。……ケルヴィスさんは女の人に好かれるのが嫌なのかな)
「ケルヴィスさん。男性は女性が好きだと思ってました」
「なぜだ、シア」
「孤児院にいた時に、男の子や大人の男性が女性の友達の数を競っていたのを見たので」
「それは、その人達の中で競う基準なんだろう。俺は違うけどな」
シアは男の人はそういうのが自慢かと思っていた。
(ケルヴィスさんは違うんだ)
シアは何故だか、ほっとした。
「そうだったんですね」
「シアちゃん、安心した?」
「えっ!な、何がですか」
セレネは何か楽しそうだ。
「ふふふ、何かなー?じゃあ、そろそろ砦に帰りましょうか」
「そうだな、シアも疲れただろう」
「そうですね、結構歩いたので足が少し痛いです」
夕暮れが迫るなか、三人はセレネが乗ってきた馬車で砦まで帰った
次回はケルヴィス過去編に入ります!
一気にキャラが増えます((,,・д・))




