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捨てられた少女は銀の騎士と夜明けをさがす――黄昏の少女と薄明の騎士――  作者: 古東 白


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第二章 2部【謝罪と反省】


「少し兵舎を見てくるわ、その子が起きたら教えてくれる?」

「俺も、と言いたいけど。シアが起きた時困るか」


ケルヴィスはシアの方をチラリと見た。


「ええ、その方がいいでしょうね。じゃあ」


セレネは詰所の外に飛び出していく。


「さあて、まだいるといいけど」


セレネは歩くのが面倒なので、すぐにシルフを喚んだ。ふわりと体が舞う。


「ふふ、森の警備を抜けられるってことは、お仕事をあえてしなかった人が居るってことよね」


"境界の森"の警備は魔術や精霊術などが使える。もしくはケルヴィスのように身体能力が高い者が割り当てられる。


(ケルくんの場合はどちらも出来るけど、シアちゃんを連れて来たから、裏切り者ではない)


「だから、森を案内出来る人って限られちゃう」


今の警備は5人で交代している。

ケルヴィスを外すとあとは4人だ。


「さあて、誰かしら”裏切り者”は」


セレネは足取りもフワフワと兵舎に向かった。



 ◇ ◇ ◇


ケルヴィスは寝ているシアを眺める。


(気も張っていたし、疲れてたんだな)


シアの前髪が邪魔になって良く顔が見えない。


(後で髪を整えて貰った方が良さそうだ)


「う……ん、痛い……お願いやめて」

「シア?」


寝言を言いながら唸っているシアが心配になり、前髪を避け顔を見た。

長い睫毛がぴくっと動き目が開く。


「あ、悪い、起こしたか?」


シアはぼーっとして反応がない。


「あの、シア?」

手を顔の前でヒラヒラさせてシアの様子を窺った。


「あ……そうね、孤児院じゃなかった」


シアは寝ぼけて、孤児院と勘違いしたようだった。

ケルヴィスはシアから反応があったので安心する。


(もう悪夢なんて見ないようにさせてあげたいよな)


目の前の小さな子を見ながら、そう思う。


◇ ◇ ◇


「シアごめんな、起こして。唸ってたから心配になって」


シアは優しく声をかけられていた。ぼんやりした視界が少しずつはっきりして、ケルヴィスの心配そうな顔が見えてくる。


「ケルヴィスさん……心配して下さって、ありがとう……ございます」


くすぐったくて少し恥ずかしくなり、とっさに顔を隠そうとする。

その時、自分の肩に布が掛けられていることに気づいた。何だろうと広げて確認してみる。


「これってケルヴィスさんの上着じゃ」


顔を横に向けると、長袖のシャツ一枚になっている彼の姿に気づいた。顔が熱くなる。


「あ、ありがとうございます……お返しします」

「寒そうに見えたから掛けたんだが、もしかして臭かったか?」


ケルヴィスは、少し焦った表情で自分の上着の臭いを嗅ぎ始めた。

真剣に臭いを確認しているのを見て思わず笑ってしまう。


「ふ、ふふふ……大丈夫です……」

「それなら良かった。じゃあ、俺はこれから風呂に入って着替えてくる。シアも一緒に行こうか」

「え……あの」


言葉がうまく出てこない。急にとんでもない提案をされて心臓がバクバクする。


「お前も汚れただろうし、新しい服に着替えたほうがさっぱりするぞ」


(確かに汗でべたつくし、気持ち悪い。体をきれいにして着替え出来るならそうしたいけど、でも……)


「あの、教えて貰えれば私は自分で入れるから、大丈夫です」


シアは服を守るように両手で押さえながら、ケルヴィスから距離をとった。


「ご飯を食べたとはいえ、寝るくらい疲れてるんだから、風呂で1人で倒れたら大変だ」

「いいえ!本当に大丈夫なんです!」

「遠慮するな、ほら、行こう」


ケルヴィスはシアの手を軽く引っ張った。


(心配されるのは嬉しいけど、今はそうじゃないの!)


「ええと、じゃあ、セレネさん!セレネさんに頼みますから」


そこでケルヴィスは、はっとしたような表情になり、一度動きを止めた。


「そういや姉さんに起きたら連絡、と言われてたな」


ケルヴィスが何か小さな声で話した後、光が現れた。その光はくるっと回って鳥の形になって飛んでいった。


「……今の、なんですか」

「シアは初めてか。あれは光の精霊で、姉さん宛に使いを頼んだのさ」


(精霊、あれ、精霊なんだ。そういえば森でも――)


「それにしても、シアはそんなに風呂が嫌なのか」


(何か、色々と勘違いされてる)


「嫌というか、熱いお湯は入り慣れてなくて……体に染みるし」


とっさに理由をつけた。


「そっか、そうだな……って、もしかして、虐待とか……されていたのか」


ケルヴィスさんの表情がだんだん険しくなっていく。


「その、叩かれたりは時々ありましたけど……皆、平等に、連帯責任だって」


(嘘。私だけの時もしょっちゅうだったけど……)


ケルヴィスさんはさっきよりさらに怖い顔をして、じっと下を向いていた。そして、また聞いてきた。


「もしかして、シアにも体に……傷があるのか?……その、確認したいんだが」

「……は?」


(何を言っているの、この人)


「体を見せるのは……さすがにちょっと……」

ケルヴィスからさらに距離をとった。


「シア、すぐにすむから」


ケルヴィスは距離をつめ、シアの服に手をかけようとした瞬間――。



扉がガチャリと開く音がした。


「ケルくん、シアちゃん起きたって?」


ひょこっと、扉の隙間から顔を出したセレネの目に、二人はどう映ってたのか。


二人を見たエリスの表情が固まった。

そして無言のまま、疾風のごとく一気にケルヴィスの元へ向かって行く。


「恥を知りなさい!!」


――バチィィン!!――


セレネの渾身の一撃をくらったケルヴィスは勢いよくソファから転げ落ちた。


「痛っ、室内で風使うなんてやりすぎだろ……」

「自分の胸に聞いてみなさい!」


――数分後ーー


床に正座させられているケルヴィスの姿があった。頬はまだ赤く腫れていて痛そうだ。


セレネの目には――、


『シャツ1枚姿のケルくんが、怯えて後ずさるシアちゃんの服を掴んで襲おうとしている』


ーーように見えた。


「ケルくん、言い訳はある?」


手には魔術師の杖に使われるという木の棒が握られている。余談だが、この魔術師の杖は折れにくい=固くて痛い木で出来ているそうだ。


「……すみません、シアが女の子だと気づきませんでした……」


ケルヴィスは頭を垂れ、背中を丸めてしょんぼりとしている。


「あ、あの。言わなかった私が悪いので……」


見る人が見れば、シアが女だと気づかれていただろう。

性別を明かして良いことはないと思ったシアは、信頼出来るか確認できるまで、決して誰にも言わなかった。


セレネは女の子だと気付いていたらしい。


「シアちゃんはいいの。状況を考えたら性別隠すのも無理ないわよ。だけどケルくんは別」


「……反省してます」


ケルヴィスは謝りながら、頭を下げ続けて、とうとう床に額をつけた。


「嫌がる子を無理やりとか、紳士の風上にもおけないわね」


(……ですよね。ケルヴィスさんは確かに、少し強引だったかな)


「……はい、俺は紳士の風上にもおけない行動をしてしまいました。か弱い子供は守るべき存在です」

「復唱!」

「はい!俺は――」


ケルヴィスは同じ台詞を繰り返して復唱させられていた。

少し可哀想になってきたシアは、助けてあげることにした。


「セレネさん、ケルヴィスさんをそろそろ許してあげてください」


セレネを見上げてお願いした。

彼女はシアを見て苦笑した。そして、ケルヴィスに言った。


「仕方ない、この辺で許してあげる。シアちゃんに感謝するように」


ケルヴィスはシアに向かって頭を下げた。


「シア、すまなかった!あと、助かったよ。迷惑かけたな」


そこでふと真顔になって、思い出したように話し始めた。


「抱き上げた時赤くなったり、手を繋ぐのを恥ずかしがってたり。……思い返すと俺は気遣いなかったなあって。本当にごめん!」


また謝るケルヴィスさんを見ながらセレネさんが目を細める。


「ふぅん、そうだったのね。後で反省文提出。リオくんにも送るから2部よろしくね。帰ったら家族会議よ」

「……ハイ、兄さんにもこってり絞られそうだな……2枚で済むのか?」


「ふふふっ」


ケルヴィスの姿が怒られた大きな犬に見えて思わずシアは笑ってしまった。

年下のシアの前で情けなく怒られて、しかも笑われたと落ち込むケルヴィスと、「当然でしょ」と冷たくあしらうセレネの二人が羨ましくなった。


「……相手の事を思って叱って、こういうのいいなあ……」


思わず小さく口にしていたが、小さくても二人に聞こえないはずもなかったらしい。

二人からの視線を受け恥ずかしくなった。


「何を言ってるんだ。シアだって悪いことしたら怒るからな」

「そうよ。反省文かかせちゃうんだからね」


この二人が、家族になるつもりなのは決定らしい。



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