第二章 1部【シアとエルセレネ】
登場人物が増えます!
「さあ、腹も膨れたし、そろそろいこうか」
シアに向かってケルヴィスが手を差しのべた。
「……一人で歩けます」
シアに突っぱねられたケルヴィスは、つい苦笑いをする。
「いいから、迷子になったら困る。それに変なやつに絡まれると嫌だろう?俺がついていれば安心だぞ」
砦には、怪しい者は入れないはずだ。
しかし用心に越した事はない。
シアは少しだけ迷った後。
「仕方ないから、繋いでおいてあげます」
ケルヴィスの提案を渋々受け入れてくれた。
(シアは素直で可愛いな。妹ってこんな感じだったか)
砦は四方が石で出来た高い壁で囲まれていて、ケルヴィスはシアに施設を案内しながら歩く。
真ん中は広場になっていて、井戸もあり、その周りには行商人達が小さな店を開いている。
「もっと生活しにくい場所かと思っていました」
シアはそんな感想を口にした。
「俺も砦に来る前はそう思ってた。でも、これくらい施設があれば生活には困らないんだ」
ケルヴィスにとって、以前住んでた王都での暮らしは大変だった。若気の至りとはいえ、気分が沈むくらいには苦い記憶となっている。
砦での生活は王都なんかで生活するよりずっと気楽だ。そんな事を考えながらシアと一緒に歩いていた。
砦の出入口は南の正門以外、東西2ヵ所に人が出入り出来るだけの小さな扉がある。
北に詰所、その東隣に兵舎、厩舎が見える。
真っ直ぐに詰所に向かった。詰所は柵で囲われている。
その中ですれ違う人間は砦の兵達だけだ。シアは手に力を込めてぎゅっと握ってきた。
兵士に殺されかけたから、警戒しているのだろうか。
シアは、ケルヴィスの陰に隠れるように、小走りで歩いている。
シアには歩幅が大きかったらしい、一度足を止めた。
「あ、悪い。少し歩くのが早かったな。詰所に用事があって気が急いてた」
見ると、シアの息が少し上がっていた。
「用事ですか。外で待ってますか?」と聞いてくる。
ケルヴィスは、自分より小さい子に気を遣わせていることに、気まずくなった。
「お前は気を遣わなくていいんだ、詰所の中には一緒に行こう。少し驚くかもしれない……先に言っておくからな」
シアに一言、覚悟を促した。
◇ ◇ ◇
ケルヴィスの言葉に疑問を持ったが、シアはとりあえず心構えをしておいた。
「人と会う予定なんだ。一緒に来てくれ」
ケルヴィスに言われ、シアは頷いた。
詰所に入ったあと、まっすぐ廊下を進んで行く。左右には数えるほどしか扉がない、小さな詰所だ。
「シア、ここが応接室だ」
ケルヴィスは奥の突き当たりの部屋の前で一度ため息をついた。
そして、コンコンと叩いて扉を開けた。
「姉さん、待たせたか?」
部屋の中には水色の髪の、若くて綺麗な女性が1人居る。耳が長いのでエルフ族らしい。
シアが、ぼーっと眺めていたら目が合った。
目が合ったと思った瞬間、もう目の前にいて、何故か手を握られていた。
「ケルくん、この可愛い子だれ!どこに隠してたのかなあ、お姉さんに教えないなんて、ずるいじゃない」
その言葉を聞くより早く、シアはエルフに抱きつかれていた。
小さい子供以外に抱きつかれるなんて初めてで、緊張で体がこわばる。でも、心はふわふわと温かくて、不思議な気持ちになった。
突然の事にどうして良いか分からず、シアはケルヴィスに目線で助けを求めた。
「はあ、こうなると思ってたんだ。セレネ姉さん、シアを離してくれないか?」
「なによ、ケルくんのけち」
「姉さん、その子が困ってるだろ」
姉と弟で言い合いが始まった。
ケルヴィスがエルフの女性を引き剥がしてくれたので、シアは、とりあえず挨拶をした。
「あの、ケルヴィスさんのお姉さんですか?」
「そうなの、私はエルセレネ。セレネでいいわよ。この不肖の義弟の姉をやっているわ」
「……姉さん、ちょっと待て。話しがあるんだ。シア、そこの椅子に座って待っていてくれるか?」
「あっ、はい。分かりました」
言われた通りソファに座って待つことにした。
セレネは、もっと話したい、と文句を言っていたがケルヴィスに連れていかれた。
パタン。2人が出てった後に1人になったシアは長く長く息を吐いた。
「はああ、この先やっていけるのかな……私……」
ソファに寄りかかって応接室の天井を見上げる。
(騙されて、神殿で生け贄にされそうになって、ケルヴィスさんに保護されて……お家に一緒に行こうって)
そこまで思い出して、ちょっと笑みがこぼれる。
「私にも家が出来る……どんな生活になるんだろう。期待しても、いいのかな?……ふぁあ……」
シアの目蓋が、だんだんと下りてきた。
シアは自分で思うより疲れが溜まっていたらしく、ものの数分もしないうちに深い眠りに入っていった。
◇ ◇ ◇
「姉さん、勝手な事ですまないと思っている。だけど、シアを家に迎え入れたいんだ。あの子は、昔の俺を見ているみたいで、放っておけない」
(シアと話して決めた。家に迎え入れてあげたい)
ケルヴィスはセレネに頭を下げた。
「うーん、リオ君がなんと言うかだけど、反対はしないと思う。私としてもむさ苦しい義弟よりは可愛い子の方がいいもの」
セレネは頬に手を当てながら悩む素振りを見せる。
「アリオス義兄さんも、俺が説得するよ」
(アリオス義兄さんは、優しいから。シアの境遇を知れば首をきっと縦に振るはずだ)
「でも、愛玩動物とは違うんだから、きちんと保護者としての責任が必要なの。それは分かっているの?」
「ああ。完璧に出来るかは分からないけど……あの子が喜ぶ事を、たくさん与えてやりたいんだ。昔の俺みたいにはさせたくない」
(姉さんが言うことも分かってる。シアの人生を背負うことになるんだ。絶対にシアは俺が不幸にはさせない。神に誓ってそうする)
「ふふ、ケルくんが誰かをそんな風に思うなんて……初めてね?」
「……からかうなよ」
ケルヴィスは少し照れくさくてそっぽを向いた。
そんなケルヴィスを、セレネは少しだけ複雑そうな表情で見ていた。
「あとシアとは関係ないが、ここに裏切り者がいる。」
先ほどとは違い、声のトーンを落として話しを切り出した。
小さくてもセレネには聞こえてるはずだ。長い耳をぴくっとさせて静かに聞いている。
「……"冥府の門"の神殿で異変が起きた。砦に知らせたが返事はなかったよ」
セレネは腕を組みじっと話を聞いていた。
「……おかしな話、ね。そんな大事が起きたら私にも報告が来るはずよ」
「ああ、確実にな。あと、シアも、あの子の他にもフェルノートから隣国へと連れていかれた。」
セレネは国直属の魔術師団所属で実力は折り紙つきだ。
今回は派遣という形で、定期的に"境界の森"の視察に来ている。
「何か……きな臭いんだよな」
「……うーん、じゃあ、とりあえず"ここ"のお掃除していいかしら。久々に、腕がなるわあ」
楽しそうな声色だが、彼女の目は笑っていなかった。
「おいおい、姉さん。シアもいるんだから、ほどほどにしろよな」
セレネがシアにどんな悪影響を及ぼすかと想像して、ケルヴィスは慌てた。
「あら、もうあの子の保護者気取りかしら?」
面白い物を見るような目でケルヴィスを見る。
「義姉さんの行動は子供の教育には悪いんだよ。影響を受けてしまった、この俺を見てみろよ」
「えー?聞こえないなあ。ケルくんは自分ですくすく育ったでしょう?」
子供を慰めるように、ケルヴィスの頭を撫でた。
「……はあ」
(この人にとって俺はまだ子供扱いだな)
「大丈夫大丈夫!やり過ぎないように気を付けるから、任せてくれる?」
「じゃあその件は姉さんよろしく。シアを待たせすぎたな」
2人で応接室の中に戻った。
「あら、ふふふ、可愛い寝顔」
「よほど疲れてたんだな」
シアはソファに座ったままで天井に顔を向け、すっかり寝息をたてている。
「ケルくん、顔がゆるゆるになってるわよ」
「そっ、そんなことはないだろ!」
「おもいっきり動揺してるじゃない。……シアちゃんは、少し寝かせてあげましょうね」
シアをソファに横に寝かせ、ケルヴィスは自分の上着を掛けてやった。
お姉さんキャラが増えました。
エルセレネをよろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ




