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捨てられた少女は銀の騎士と夜明けをさがす――黄昏の少女と薄明の騎士――  作者: 古東 白


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第一章 5部【この先の話】

二人のやり取り、少し長くなっています。


「シアは何か今後の希望とかあるか?」


ケルヴィスが聞いてみたが、シアは無言で頭を振った。じっとテーブルに視線を落としたまま、シアは動かない。


(いきなり身の振り方を決めろ、は難しいよな)


ケルヴィスは自分の方針を決めた。

知り合いに子供のいない夫婦が居たことを思い出す。


(何人かいたな、引き合わせてみるか。もしくは――)


全く見知らぬ他人に任せて、心配や後悔するよりはずっといいかもしれない、と考える。

ふぅ、と息を吐き肩の力を抜いた。


(緊張するな。こういうの俺の柄じゃないんだけど)


頭をガシガシとかいた。

シアの反応が怖くて中々言葉が出てこない。

唸りながら、シアに向けてやっと言葉をかけた。


「……シア、いきなりで驚くかもしれない。でもお前にとっては悪くない話だと思ってる」


「……どんな話、ですか?」


シアは一瞬、身を強ばらせた。ゆっくり顔を見上げてくる。

ケルヴィスはそれを見逃さず、真っ直ぐに目を合わせた。



 ◇ ◇ ◇


この時、シアは初めてケルヴィスの顔を正面から見た。

助けて貰ったけど、大人に良くない印象しか持っていないシアは、ケルヴィスに対しても内心怯えて向き合えなかった。


ケルヴィスはハーフエルフ。


――小麦色の肌と対照的な白銀の髪。それを頭の後ろで無造作に結い上げている。

光で色が変化する、オレンジにピンクが混ざった朝焼けみたいな黄金の目。それを縁取る長い睫毛。スッと通った鼻筋にやや薄い唇。

控えめに見ても美しい中性的な顔立ち――。


「……どうかしたか?」


思わずシアはじっと見つめてしまい、ケルヴィスに声をかけられて我に帰る。


「す、すみません。じろじろ見てしまって!」


慌てて頭を下げた。


「……いいや、見られるのには慣れているから大丈夫だ。肌が濃い色のエルフも珍しいだろう?」


ケルヴィスは目を伏せながら答えた。

シアはその反応に少し引っ掛かったが、失礼な態度だったと、反省した。


「あの!……いえ、肌の色ではなくて、綺麗な目だなって。思わず見惚れて……すみませんでした」


シアは見惚れて、のところで恥ずかしさがこみ上げてきた。思わず視線を落とし、声が小さくなる。


ケルヴィスから反応がない。少し間があり、シアがおそるおそる顔を上げてみた。すると、ケルヴィスは驚いたような表情でこちらを見ていた。



 ◇ ◇ ◇



(肌の色で忌避されたわけではないのか)


――エルフ族には、エルフとダークエルフがいる。

両者の違いは、肌の色と魔術の系統くらいのものだ。

しかし、善悪に分かれている等の風説を信じている者もいる。ケルヴィスもそのような扱いを受けたことがあった。


ケルヴィスは、シアの視線に少し身構えたが一気に毒気を抜かれてしまった。

そんなに身構えてた自分が、何だか可笑しく思えた。


「っく……はは、あははは!そうか、そう思ったのか」


シアはケルヴィスがいきなり笑い始めたので戸惑っていた。


「はー……すまない、思わなかった言葉を聞いたからな。俺の眼はそんなに綺麗か?」


もう一度確認したくて、聞いてみた。


「はい……朝陽が射した空の色みたいで綺麗だと思います……もしかして、例えが変でしたか?」


シアは自分が変な事を言ったかと心配そうにしている。

ケルヴィスはふと、既視感を感じた。


昔、似たような事を言われた気がする。

思い出そうとすると、頭がズキンと痛んだ。ケルヴィスはその思考を振り払う。


「変でしたら、すみません。あの、あまり学がないもので……って、言い訳ですね」


目の前でしどろもどろになっているシアを見てケルヴィスは思わず頬が緩む。

微笑ましいと思いながら、シアに改めて話を切り出した。


「シア、今後の身の振り方についてだが、どうすれば安心してこの先暮らしていけるか。選択肢を幾つか考えたんだ」


「私が安心して……ケルヴィスさん、どんな選択があるか教えてください」


ケルヴィスの話しを、シアはじっと静かに聞いていた。


「考えてみたんだ……けど、俺にはどれもしっくりこなくて。だから最後に残った一つの選択を、シアに与えようと思う」


シアの今後について、彼女の悩みを解決するつもりで言った。

けれども、シアはその言葉にだんだん顔が青くなった。



◇ ◇ ◇


「それは……どういう事ですか。私、この先の事、選べないんですか?」


シアは気持ちが奈落に落ちるようだった。


孤児院の事を思い出す。

暗くて狭い反省部屋の冷たい床、薄い毛布。上澄みだけの粥、穴の空いた服にあかぎれだらけの手。


あそこでは大人が子供達を値踏みし、器量のよい子は養子に貰われていく。

シアは、赤い髪は血の色で気持ち悪い。ひょろっとして、痩せ過ぎだと相手にされなかった。

何度か養子の話しもでたが、大人と話すと愛嬌もなく可愛げがないと拒否された。


院長や世話役の大人達には『赤いのはまた売れ残ったの』と嗤われたり『あんた愛想がなく、可愛くないのよね』と嫌われた。

そして体罰を受け、食事を減らされ、死を覚悟した事もある。


院長が子供達を差別するのは、養子先の家から寄付金という名の賄賂を貰えるからだろう。


大人がこうだから、年齢が高い子供達の態度はもっとあからさまだった。

無視や嫌がらせは日常的にされ、感情は少しずつ麻痺した。

結局、成長し"売れ残った"シアは金にならないと追い出されたのだ。


(差別や蔑みで辛かった孤児院をやっと出た。自立して私は自由になれると思ったのに……ケルヴィスさんも、あの大人達と一緒で自由はくれないの?)


体が小刻みに震え始め、じんわり涙が浮かんでくる。


(……ケルヴィスさんに、私をいつまでも保護する理由はない。むしろここまで助けてくれた事に感謝するべきだよね)


シアは、ケルヴィスは悪くないし、むしろ彼はいい人だと思った。

"境界の森"で守衛の仕事をしていただけだと、理解している。

でもシアの感情は、理性についてきてくれない。


(分かっている。私が勝手に期待しただけ。……泣いちゃ駄目、泣いても何も変わらない)


ぐっと唇を噛み締め必死に涙を堪えた。

シアの顔が青ざめていく様子に気づいたケルヴィスが戸惑い、慌てだした。


「ああ!違う誤解するな!」


目の前で震えているシアを慰めようとしたのか、頭を撫でてくれた。

しかし、シアの心の中はざわざわしていた。


「誤解って……私にもう、優しくして期待させないで……期待して裏切られるのは嫌なの!!」


シアは我慢できず、心から叫んだ。ケルヴィスはその訴えに目を見張った。


「……ふぅっ……うっうっ……」


更に涙が止まらなくなった。

ケルヴィスはシアの両手を握って、小さな子供に言い聞かせるように優しい声で話しを続ける。


「シア!シア、聞いてくれ……そうじゃないんだよ。……あーくそっ!俺の言い方が不味かったか!」


失敗したと、内心頭を抱えた。


「――ええとな。ようは……俺の家に来ないかって事を言いたくて……」


シアは自分の耳を疑った。


「………え?ケルヴィスさんのお家……ですか?何故……」


顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり震えていたが、ケルヴィスの言葉の意味を確認しようと少しだけ顔を上げた。


◇ ◇ ◇


「俺の家は姉と兄が一緒に住んでいるんだ。でも、全員血は繋がってない。まあ、姉さんは従姉妹だけど……そして種族もバラバラなんだよ」


ケルヴィスは家の事を話し始めた。


「姉と兄は……優しい人達だし、他所にいくより居心地は快適だ。お前の居場所になると保証してやる」


ケルヴィスが必死になって説明を続ける。


「俺は正直……何故か分からないけど、シアの事を放ってはおけないんだ。

だから、うちはどうだ?……っておい、お願いだから泣かないでくれ!」


シアはケルヴィスの誘いを聞いたら涙が溢れでて止まらなくなった。


(私と一緒に居てくれるの?嬉しい……でも、誘い方が遠回しで、下手過ぎる)


「……それならそうと……早く言えばいいじゃないですか!私はっ、もう誰かに期待しちゃ駄目って……諦めてたのに……ケルヴィスさんの馬鹿!!」


シアは緊張と安堵と相反する感情が溢れだし、思わずケルヴィスにあたってしまった。


(でも、私が気持ちを爆発させたのはケルヴィスさんのせいだ)


そうしてしばらくシアは泣いていた。


「シア、俺は子供に泣かれるとどうしていいか分からないんだ」


すると、ケルヴィスが、眉をハの字にしてオロオロしはじめた。


「俺、子育てとかしたことなくて、その……こういう場合はお菓子か玩具を与えるのか?子守唄?……ああもう!どうするんだこれ……」


多分、本当に困っているのだろう。

髪の毛をくしゃくしゃとかき上げぶつぶつ言っている。

その姿を見てだんだん可笑しくなってきた。あんなに堂々としていた男の人のこんな姿。


「……ふふっ……ふふふ」


シアは耐えきれなくなって思わず笑ってしまった。


「……俺何かおかしな事をしたか?」


ポカンとした顔が面白くて、シアはついに笑いが止まらなくなった。


「……まあ、笑ったから良いか。理由が分からないけど」


ケルヴィスはそう言って、シアが笑い終わるのを待っててくれた。

やっと落ち着いた頃に、返事を催促される。


「やっと止まったな。それでシア、答えを聞かせてくれるか?」


シアが慌てて涙を手で拭うと、ケルヴィスからキレイに折り畳まれたハンカチが差し出された。


「ほら、顔を拭け」


それを受け取り顔をごしごし拭う。


(さすがに鼻をかむのは悪いよね)


と、シアが思っていたら。


「ちゃんと鼻もふけよ。俺は小さいことは気にしない。」


ケルヴィスはそう言ってくれたが、それでもシアが躊躇していると。


「ほら、貸せ。上向け」

強制的にケルヴィスに鼻を拭かれた後に解放された。鼻先がツンとして、別の涙が出る。


「痛いです!」


と抗議するとケルヴィスにじっと見られた。


「はは、ごめんな。シア、お前さ……男の子の割に案外可愛い顔してるな……やっぱり危険だな」


最後の一言は小さくてあまり良く聞き取れなかった。


「さあ、改めて返事を聞かせてくれるか?」


シアは、ケルヴィスに真正面からきちんと向き合い、返答した。


「あ!はい、ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」


挨拶も兼ねてきちんと答えた。嬉しくて思わず顔が笑ってしまう。ケルヴィスは目を細めて微笑を浮かべていた。


「ふふ、何か嫁入りみたいな挨拶だな」


ケルヴィスは、シアをからかいながら笑っていた。そして、お互いによろしくと握手をした。


(でも、ここで私からケルヴィスさんに言っておかなきゃいけない事がある)


「ケルヴィスさんに、保護者として受け入れてもらえるなら1つだけ言いたいです」


「なんだ?」

ケルヴィスは不思議そうに首を傾げた。


「私は子供じゃありません、子供扱いするのは遠慮します。もう15歳なんです!」


シアが口を尖らせ抗議する。すると、ケルヴィスはニヤニヤしながらシアの頬をつつく。


「まだ子供だろ、俺より食べて、俺より大きくなったら認めてやる」


勝ち誇った顔でシアにそう言ってきた。


「ケルヴィスさんて、やっぱり意地悪ですね。あと……鈍いです」


シアはケルヴィスから「ふん」と顔をそらした。


「何を言う。俺は優しいぞ、特に女子供には」


ケルヴィスは、不遜な笑みを浮かべ、自慢げに言い放った。


ここで一章区切りです!

この後の展開もお楽しみください。

(*・ω・)*_ _)ペコリ

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