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捨てられた少女は銀の騎士と夜明けをさがす――黄昏の少女と薄明の騎士――  作者: 古東 白


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第一章 1部【夜の神殿】


光は東から昇り、西で闇と迎合(げいごう)する。そして黄昏を作り出す――

~大陸創世記・第1章~



ハルザム王国の西端の荒涼(こうりょう)とした大地。

国境近くに、苔むした古い神殿が佇んでいた。入り口奥は暗闇で何も見えない。

その中からは湿った風に乗ってかび臭さが漂い、不気味さが際立つ。


「ここが“冥府(めいふ)の門”……死者の魂が現れるらしい……」

「こんな寂れた場所が?中まで、陰気くせえな」


一時は闇の女神の信者達が訪れていたらしい。だが今は、管理する者がいない打ち捨てられた神殿。


神殿奥から地下に通じる長い階段を下りると、闇の女神を象徴する黒い魔力石が納められた祭壇がある。

かつて祈りの場であったそこには、何も残っていなかった。



◇ ◇ ◇


祭壇の上に立派な(ひつぎ)が置かれていて、何か(けもの)臭い血で描かれた魔方陣で囲まれている。

その側には、十数人の亜種族の子供たちが肩を寄せ合って座っていた。全員、両足に枷がつけられている。


子供達は兵士達に取り囲まれていた。皆、怯えた表情で震え、泣いている子もいる。

その度に兵士が「汚れた血のくせに、うるさい!」と怒鳴りつけた。

兵士達はハルザム王国の紋章をつけていて、亜人の子共達を蔑むような目で睨んでいる。


「ねえ、シア……私達、仕事に来たんだよね」


隣に座った獣人のマーシャが声をかけてきた。彼女は獣人の特徴である獣に似た耳を、怯えて伏せている。


「……そのつもりだったけど」


シアは少し目を伏せて答えた。

ここまでの出来事を思い返す。


孤児院出身のシアは仕事を探していたので紹介状を持って、仕事の斡旋所を訪ねた。そこで、仕事をくれるという男の人を紹介してもらう事になったのだ。

男はシアの身なりと持ち物を確認した後に、名前を与えて、ちょうど良い仕事があると言った。

一緒に仕事をするマーシャと知り合い、出されたお茶を飲み――その後は覚えていない。


次に目を覚ましたら、隣国との国境近くの森にいた。

そこで足枷をつけられた後、森を抜けて国境を越え、ハルザム王国の神殿まで歩かされた――


周りを見渡すと、この中で一番身分が高そうな人物が目に止まる。

黒髪に茶色の瞳。年の頃は壮年くらいだろうか。


「これで本当に甦るのだな」


うっすらと笑みを浮かべ、隣の黒いローブの人物に問い掛けている。

その虚ろな眼差しは遠くを見ている。


「あの芳しき薔薇のような、あの人が……」


「もちろんでございます、ハルザム王。儀式が無事終われば、貴方の最愛の方は蘇ります。このソーンが司祭として(とどこお)りなく勤めあげてみせます」


ソーンは自信ありげに話す。黒いローブを目深に被り、にやりと歪む口元だけが見えた。


「ふん、胡散臭(うさんくさ)いやつめ……」

ハルザム王がぼそりと呟く。


「ソーンよ、儀式が成功しなければ、お前の口がきけなくなると思え」


そう言うと、ソーンを睨みながら、無言で側に居た兵士に向かい剣を薙いだ。

血がハルザム王の顔にピチャリと跳ねる。

それを手で払い、剣に着いた血をソーンの服で拭き取る。


それを見ていた子ども達は、一瞬何が起きたのか分からなかった。兵が殺されたと理解した途端、指先から冷たくなっていく。


「……片付けろ」


切り捨てられた亡骸(なきがら)を無言で運び出す兵士達。

ハルザム王は剣をソーン司祭の喉元に突きつけた。その表情からは何の感情も読み取れない。


「ひっ……!か、必ず、必ず成功させます!新鮮な(にえ)もあり、お美しい前王妃様のお姿をきっと……!」


ソーン司祭は必死に声を搾り出して震える手で子供達を指差す。


「亜人の子どもが贄か……大丈夫なのか?」


ハルザム王は(いぶか)しげに、ゆっくりと子供達を見渡した。

その時、シアは王と目が合った。王は一瞬目を大きく見開いてシアを見つめた。唇が震え、目に光が宿ったように見えた――

しかし、興味をなくしたように、すぐに視線を逸らされる。その後、一切こちらを見ようとしなかった。


(……あれが、ハルザムの王?)


心臓が、どくんと一つ鳴った。



「怖いよ!」「嫌だ、帰りたい!」子供達が口々に騒ぎ出す。

子供達が騒いでもハルザム王は、無表情のままだ。



「ああ、麗しき我が女王よ……そなたの声を早く聞かせてくれ」


目を見開き天を仰ぎ見る国王の表情は恍惚として不気味さを増していた。


(大丈夫……きっと逃げるチャンスがくる……)


シアは震える体をギュッと抱き締め、手に力を込めた。何があっても、落ち着いて動けるように、深呼吸を何度もする。

目立たないように、体を小さくして気配を殺す。心臓の音だけが耳の奥で、響いていた。


「ハルザム王よ、夜が明けます。そろそろ、お時間かと」


ソーン司祭が、そう伝えた。


「では、我が王妃のための儀式を始めよ。子供を贄に……!」


兵士達が剣を抜き頭上に掲げた。


(まさか!?)


シアは、思わずひゅっと息を飲む。

血の気が引き、心臓が早鐘を打つ。


(お願い……静まって、私の心臓……逃げなきゃ。嫌だ、まだ死にたくない!)


国王が剣を振り下ろした仕草を合図に周りの兵士達が次々と子供達を刃にかけ、その度に子供達の悲鳴が響き渡っていく。


「キャアア!!」


子供達が兵士の手にかかる姿を見てマーシャは悲鳴をあげた。


シアは、信じられない光景を目にして、さらに呼吸が速くなり、全身震え始める。

しかし、このままでは死んでしまうと、自分の勇気を奮い立たせる。

ガクガクと震えている膝を叩いて、動けと命令した。そして、床に手をつき力を込めて肘を伸ばした。


「立つの……立って、逃げるの……」


声が震えるが、言葉にして自分に勇気を与える。

足枷が邪魔だけど、逃げられないほどではない。


「逃げよう……マーシャ」


シアは、よろめきながら立ち上がり、怯えているマーシャに手を差しのべた。

しっかり声に出してマーシャを呼ぶ。


「……どうやって……」


一言呟いたが、マーシャは動けない、恐怖で足がすくんでいるようだ。

シアは急かした。


「マーシャ、早く……」


流れ出た子供達の血が、描かれた魔方陣に触れると淡く光り始める。すると魔方陣から黒い糸が伸びてきた。


それは棺を開け、遺骸を包み込んだ。

そして、徐々に人の姿を形作っていく。


その異様な光景に兵士達も戸惑い始める。

全員がその光景に釘付けになった。

兵士も何が起きるか分からなかったようだ。


黒い糸に絡まれた人形は、目も口も、何もなく無機質だ。だが、シアにはそれが意思を持っているように見えた。


目がないはずなのに、こちらを"見て"いる。

さらに、微かに人形から”脈動”も、感じる。

全身にじっとりと嫌な汗が浮かんでくる。


(……何か怒っているみたい……違う、違うって……)


黒い人形から糸が伸びていく。蠢くそれは、近くの兵士の足に絡み付く。


「ぐあ、痛い!!い、嫌だ……やめてくれ、やめ……ギャああア、助けてくれ!!」


糸が触れた部分から皮膚が剥がれ肉と骨が見え始め、どす黒く変色して悪臭が漂った。


異様な光景に思わず息をのむ。

一呼吸する間に、黒い糸に全身を覆われた兵士はやがて声も聞こえなくなり、人だったと思われる形だけを残して物言わぬ塊となった。


「ひっ!俺は死にたくない!!」


それを見た兵士達はパニックを起こし、その場から逃げていく。


まだ殺されていない子供達も、泣く者、力が抜け動けなくなる者、逃げる者、ほとんどがその恐怖に支配されてていた。



 「……何だ"あれ"は……"あれ"が、あの人というのか!!」


国王がソーン司祭を憤怒の形相で怒鳴りつけ、剣を突きつけた。


「お、落ち着いてください……な、何をしているんだ!子供を早く殺してしまえ!生け贄、生け贄さえ捧げれば元の王妃さまの姿に――」


ソーン司祭は黒い人形の行った凄惨さに腰を抜かし、国王からの叱咤に青ざめ、地べたを這いながら震える声で命令した。

その命令で兵士の1人が近くにいたマーシャを殺そうとする。


「だめっ!!」


シアはそう叫ぶと同時に力を振り絞って兵士に体当たりをした。


「マーシャ、逃げてえ!!」


そう叫んだ途端、足下から暗闇が目の前に広がるような感覚が襲う。

シアは心臓がギュッと鷲掴みされて、冷たく恐ろしい何かに心の奥底まで蝕まれそうだった。

奥まで届くと思ったその時。


『ア……ア……イキテ……』


「何か声が……」


その声が聞こえてから、体の内側から熱いものが込み上げてきて、恐ろしく冷たい闇をはじき、逆に飲み込んでしまった。


(良く分からないけど……助かったの?)


シアは訳の分からないまま、安堵する。

そして、視界は暗転した。



――シアが目を覚ますと、フェルノートの"境界の森"の近くにいた。

周りには誰もいない。

辺りを見回すと、フェルノートとハルザムの国境にそびえる岩壁が少し遠くに見えた。その麓、神殿があった場所が、黒い霧に包まれている。


それを確認すると、シアはぐっと唇を噛みしめた。

そして振り返らずに、"境界の森"へと入っていった。


この選択が、後に自分の運命を大きく変える出会いに繋がるとは、今のシアには知る由もなかった。



 ◇ ◇ ◇


それから神殿があった場所は、今も黒い霧が立ち込めている。

あの場にいた者たちの消息は今も分からない――


 ◇ ◇ ◇


近くの村に住む男が、真夜中に寂れた神殿に入る一団を見たという。

灯りに照らされた豪奢な馬車に兵士。無理やり歩かされている亜人の子ども達。

一団が入って、夜が明ける前に様子がおかしくなり、黒い霧が神殿を覆い始めた。


好奇心から神殿に近づき、様子を見ていた男の側まで霧に覆われ、不穏な雰囲気を感じ取った男はその場から転げるように逃げ帰った。

その後、魔に侵され三日三晩うなされた男は光の神殿に助けを求めた。

そこで浄化をしてもらい、二度とあの神殿には近づくことはない。


この噂は、なぜか国内より先に――隣国フェルノートで広まり始めた。


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