世古 独白「終わらない夜の、その先」
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夜は、完全には終わらない。
街の明かりが消えないように。
人の気配が、どこかに残り続けるように。
静かに、形を変えながら続いていく。
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店の裏手。
さっきまでいた場所。
もう、誰もいない。
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少しだけ残る空気。
言葉の余韻。
笑い方の記憶。
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世古は、ひとりで立っている。
壁にもたれず。
まっすぐ。
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少しだけ空を見上げる。
星は、やっぱり少ない。
でも。
それでいいと思える。
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「……幸せ、か」
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小さく、呟く。
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あの夜。
泣いていた女の子。
何も言えなかった空気。
ただ、言葉だけを置いてきた時間。
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それが、
今、ちゃんと“届いた”形で返ってきた。
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(……ちゃんと残るんだな)
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自分の言葉が、
誰かの中で、時間を越えて残る。
そして。
その人の中で育って、
形を持って返ってくる。
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それは。
思っていたより、ずっと静かで。
思っていたより、ずっと重い。
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でも。
嫌じゃない。
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むしろ。
少しだけ、救われる。
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足音が遠くで聞こえる。
誰かが帰る音。
車が通る音。
街の夜は、普通に続いている。
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特別なことは、もう起きない。
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でも。
それでいい。
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“全部終わった”わけじゃない。
“何かが始まった”わけでもない。
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ただ。
ひとつの夜が、
ちゃんと“繋がった”。
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それだけ。
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でも。
それだけで、十分だった。
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世古は、ゆっくりと歩き出す。
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背中は、変わらない。
でも。
どこか少しだけ軽くなっている。
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夜は、まだ続く。
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でも。
もう、同じ夜ではない。
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そして。
次の夜も、また続いていく。
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終わらないまま。
少しずつ、変わりながら。




