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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
スピンオフ それぞれの理由
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通路の奥

少しだけ開いた扉の向こうで、

誰かの笑い声が遠くに響く。


日常は、普通に流れている。


でも。


この場所だけ、少し違う。


綾は、そのまま立っている。


さっきまでの言葉が、

まだ空気の中に残っているみたいだった。


世古は、壁から少しだけ身体を離す。


無理のない動き。


もう、あの頃みたいな“壊れ方”はしていない。


綾は、その変化も、ちゃんと見ている。


「ねえ」


小さく呼ぶ。


「はい」


「ちゃんと休んでる?」


少しだけ眉を寄せる。


世古は、ほんの少しだけ笑う。


「それなりに…ですかね」


曖昧。


でも、嘘ではない。


綾は、じっと見てから、軽く息を吐く。


「無理しないでよ」


強くない。


でも、ちゃんと届く言い方。


世古は、一瞬だけ視線を外して。


「……分かっています」


短く返す。


綾は、それ以上言わない。


昔の自分なら、

たぶん言えなかった言葉。


今は、言える。


でも、押しつけない。


その距離感。


それが、今の綾だった。


少しだけ沈黙。


世古が、ふと口を開く。


「綾さん」


「何?」


「今日は遅番ですか?」


「うん、もうちょっとある」


「そうですか」


それだけ。


でも。


ちゃんと気にしてる。


綾は、それが分かるから、少しだけ笑う。


「終わったらさ」


一拍。


「少しだけ、外出ない?」


世古が、少しだけ目を細める。


「外?ですか」


「うん」


少し照れた顔で。


「喫煙所、もうないけど」


「似たとこ、あるから」


その言葉。


軽い提案。


でも。


意味は、ちゃんと分かる。


“あの夜の続き”を、

今の時間でやり直すってこと。


世古は、少しだけ考える。


ほんの数秒。


それから。


「……分かりました」


短く。


でも、はっきり。


綾は、少しだけ安心したように笑う。


「じゃあ、あとで」


「はい」


それだけの約束。


でも。


軽くない。


綾が、少しだけ後ろに下がる。


「じゃ、仕事戻るね」


「いってらっしゃい」


自然に出た言葉。


綾は、一瞬だけ止まって、

少しだけ嬉しそうに笑った。


「……いってきます」


そのやり取り。


ほんの一瞬。


でも。


確かに、何かが変わっていた。


上下でも、恩でも、借りでもない。


ただ。


同じ場所に立って、同じ方向を見る関係。


通路に、また静けさが戻る。


でも。


さっきまでとは、少しだけ違う静けさだった。

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