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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
スピンオフ それぞれの理由
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⸻ 距離が変わる、ほんの一歩

夕方のドラッグストアHOPE。


営業が落ち着いて、少しだけ静かな時間。


人の気配はあるけど、今は少ない。


外、青いコンテナ


世古は、壁に軽く寄りかかっていた。


まだ完全じゃない身体。


でも、立っているのは自然になってきた。


少しだけ目を閉じる。


――さっきの会話。


綾の声。


「きーくんだった」


あの言い方。


確信してるのに、責めてない。

押しつけてない。


でも、逃がさない。


(……やりにくいな)


小さく笑う。


でも。


嫌じゃない。


むしろ。


(……楽だな)


そう思ってる自分に、少しだけ気づく。


足音。


軽い。

でも、迷いがない。


振り向かなくても分かる。


「……どうしました?」


先に声をかける。


綾が、すぐ近くまで来て止まる。


少しだけ、距離が近い。


でも、不自然じゃない距離。


「……なんで分かったの」


「分かりますよ」


軽く返す。


「足音、同じです」


綾が、少しだけ笑う。


「そういうとこだよね」


「なにが、でしょうか?」


「見てるとこ」


世古は、少し肩をすくめる。


「見えるだけです」


綾は、じっと見てくる。


前より、逃げない目。


「ねえ」


「?」


「なんで、あのとき助けたの?」


唐突。


でも、まっすぐ。


世古は、一瞬だけ考える。


あの夜。

あの店。

あのクレーム。

あの子。


「……なんとなく……でしょうか、強いて言うなら、選びました」


いつも通りの答え。


でも。


綾は、首を横に振る。


「違う」


「……?」


「きーくん、なんとなくで動かない」


少しだけ、間。


「ちゃんと見て、ちゃんと決めて動く」


世古は、ほんの少しだけ目を細める。


(……見てるな)


綾は続ける。


「私のこと、見てたでしょ」


逃げ場を残さない言い方じゃない。


でも、逃がさない。


世古は、少しだけ視線を逸らしてから、ため息みたいに笑う。


「……まあ、否定はできません」


認めた。


軽く。


でも、ちゃんと。


綾は、それだけで十分だったみたいに、小さく頷く。


「やっぱり」


一歩、近づく。


「ねえ」


「?」


「私さ」


少しだけ言葉を探す。


「今は、ちゃんと笑えるよ」


世古が、少しだけ目を向ける。


綾は、ほんの少しだけ照れくさそうに笑う。


でも、逃げない。


「最初は全然ダメだったけど」


「今は、お客さんと普通に話せるし」


「ちゃんと楽しいって思える」


一拍。


「幸せだよ」


その一言。


軽くない。


世古は、何も言わない。


ただ、少しだけ視線を下げて。


それから、ゆっくり戻す。


「……そうですか」


短い。


でも。


それで十分だった。


綾は、少しだけ笑う。


「うん」


少しだけ沈黙。


でも、重くない。


むしろ。


静かに、噛み合ってる。


綾が、ふと視線を外して言う。


「ねえ」


「はい」


「これからも、見ててくれる?」


世古は、一瞬だけ止まる。


ほんの一瞬。


でも、ちゃんと考えてから。


「……見えてる範囲は」


曖昧。


でも、逃げてない。


綾は、それを聞いて少しだけ笑う。


「十分」


その距離は。


もう、あの頃とは違っていた。

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