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『HOPE リバイバル』 最終章 同じ音、違う意味

時計は、止まらない。



16時47分。



その数字だけが、やけに鮮明に残る。



白い天井。

消毒液の匂い。

規則的な電子音。



そして。



「……確認します」



井上の声。



低く、落ち着いている。



でも。



その奥にあるものを、世古は知っている。




「16時47分」



一拍。



「死亡を確認しました」



静寂。



すべての音が、消える。




世古は、目を閉じていた。



苦しくない。



痛みもない。



ただ。



(……終わりか)



そう思う。



不思議と、穏やかだった。



(遅れたか)



その言葉が、浮かぶ。



でも。



(今回は)



少しだけ違う。



守った。

選んだ。

残した。



だから。



(これでいい)



納得に近い何かが、そこにある。




暗い場所。



音も、光もない。



ただ、静か。



そこに。



一人、立っている。



女性。



懐かしい気配。



「……もういいの?」



声。



過去。



世古は、少しだけ目を伏せる。



「……はい」



静かに答える。



「今回は、遅れませんでした」



女性が、少しだけ微笑む。



「そう」



一拍。



「じゃあ、どうするの?」



問い。



選択。



最後の。




世古は、少しだけ考える。



そして。



「……戻ります」



迷いなく。




その瞬間。



音が、戻る。



強く。



現実へ。




「戻ってきて!」



綾の声。



叫び。



壊れた声。



「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌——!!」



涙。



言葉にならない拒絶。




心電図が、跳ねる。



一度。



二度。



三度。




「……っ」



世古が、息を吸う。



苦しい。



でも。



(来た)




「……きーくん」



綾の声。



震えている。



でも。



確かに、そこにいる。




目を開ける。



光。



白。



そして。



綾。



泣いている。



壊れたまま。



でも。



生きている。




「……遅れていません」



小さく言う。



誰に向けてか分からない。



でも。



確かに。



間に合った。




綾が、崩れる。



そのまま、抱きしめる。



強く。



壊れそうなくらい。




「……戻ってきてくれた」



小さな声。



でも。



全部が詰まっている。




時間が、進む。



少しずつ。



現実が、戻る。




数ヶ月後。



別の場所。



柔らかい光。



小さな部屋。



綾が、息を整えている。



汗。

呼吸。

痛み。



でも。



(怖くない)



隣にいる。



分かっている。




「……きーくん」



呼ぶ。



「はい」



すぐに返る声。



変わらない。




「来てる?」



「はい」



一拍。



「遅れていません」



その言葉。



綾が、少しだけ笑う。



「うん」




小さな泣き声。



弱く。



でも、確かに。



生きている音。




「……おめでとうございます」



井上の声。



やわらかい。



「元気な子ですよ」




世古は、言葉が出ない。



ただ、見ている。



小さな存在。



呼吸。



温度。



(……間に合った)




綾が、小さく言う。



「……きーくん」



「はい」



「来たね」



同じ言葉。



でも。



意味が違う。




数年後。



昼。



ドラッグストア。



自動ドアの音。



開く。



「いらっしゃいませー」



同じ声。



同じ場所。



でも。



違う。




「ママ、ここ?」



小さな声。



綾が、手を引く。



「そうだよ」



隣に、世古。



そして。



小さな手。




レジ。



あの場所。



バーコードの音。



ピッ。



同じ音。



でも。



(違う)



全部。




「……パパ?」



小さな声。



綾が、少しだけ笑う。



「うん」




世古が、しゃがむ。



目線を合わせる。



「こんにちは」



「こんにちは」




会計。



同じ流れ。



同じ動き。



でも。



意味が違う。




「ありがとうございました」



声が響く。




外へ出る。



自動ドアの音。



閉じる。




綾が、少しだけ立ち止まる。



振り返る。



店。



音。




(……同じ)



でも。



(違う)




世古が、隣に立つ。



何も言わない。



でも、分かる。




「……ねえ」



綾が言う。



「はい」



「これさ」



一拍。



「全部、繋がってるね」



世古が、少しだけ目をやわらげる。



「……はい」



短く。



でも。



全部を含んでいる。




小さな手が、二人を引く。



「いこう」



綾が、頷く。



「うん」



世古も、並ぶ。




歩き出す。



三人で。




自動ドアの音が、後ろで鳴る。



同じ音。



でも。



今は。



“帰る音”だった。




END

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