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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
スピンオフ それぞれの理由
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スピンオフ 弁護士清水 第Ⅰ章「最初に信じたもの」

清水がまだ幼かった頃。


家は広くて、静かだった。


広すぎる廊下。

磨かれた床。

無駄に大きい窓。

整いすぎた応接間。


どこを見ても、きちんとしていた。


父が代表取締役を務める大企業の家は、

生活の匂いよりも、機能と体裁の方が前に出ていた。


不自由はなかった。

欲しいものは、だいたい揃った。


勉強する環境も、食事も、服も、進学の道も、

最初から整えられていた。


でも。


父だけが、いなかった。


正確に言えば、存在はしていた。

ただ、生活の中にいなかった。


たまに帰ってくる。

スーツのまま、電話をしながら。


食卓に座っても、

どこか別の場所にいるみたいな顔で。


清水に向ける言葉は少なく、短く、

たいていは確認事項みたいなものだった。


「学校はどうだ」

「成績は」

「問題ないな」


愛されていない、とは思わなかった。

でも、触れられていない、とはずっと思っていた。


だから、清水は早くから

「一人で理解する」癖がついた。


大人を待たない。

説明も期待しない。


分からないことは、自分で調べる。


そうやって過ごしていたある日、

父の書斎に入った。


あまり入るなと言われていた部屋だった。

でも、たまたま扉が開いていて、誰もいなかった。


本棚が並んでいた。

分厚い本ばかりで、背表紙は難しい言葉だらけだった。


その中の一冊。


異様に重くて、硬くて、

でも妙に惹かれる本があった。


六法全書。


清水は、小さな手でそれを机の上に引きずるように置いて、ページをめくった。


もちろん、最初は何も分からなかった。


言葉は難しい。

文章は堅い。


何が書いてあるのか、半分も理解できない。


でも。


ページの端に、父がつけたらしい細い線や書き込みがあった。


そして、法律の解説書も何冊か並んでいた。


そこからだった。


条文には、誰かの生活があった。

争いがあった。


傷ついた人がいて、

守ろうとした人がいて、

ルールが生まれていた。


本は、ただの紙じゃなかった。


ここには、“人を助けようとした跡”が残っている。


幼い清水は、それに感動した。


誰かが誰かを殴った。

騙した。

奪った。


でも、それをそのままにしないために、

言葉がある。


ルールがある。

守るための線がある。


それが、たまらなく美しかった。


世界は冷たいかもしれない。

大人は忙しくて、自分を見ないかもしれない。


でも、この本は違う。


ここには、ちゃんと「守る意思」がある。


清水は、その日、決めた。


(弁護士になる)


(言葉で、守れる側に行く)


その決意は、まだ幼くて、青くて、

でも本物だった。

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