表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/177

『HOPE リバイバル』 第5章 残るものの設計



午後の光は、少しだけやわらかかった。



小さな喫茶店。



木のテーブル。

控えめな照明。

静かな音。



綾は、先に座っていた。



窓の外を、ぼんやり見る。



(……ここ、落ち着く)



特別な理由はない。



でも。



(ちゃんと、考えられる場所)



そう思う。




ドアのベルが鳴る。



世古が入ってくる。



いつも通り。



でも。



(違う)



綾は、少しだけ笑う。



「……きーくん」



呼ぶ。



自然に。



世古が、ほんの少しだけ足を止める。



でも。



すぐに、向かう。



「……こんにちは」



「こんにちは」



向かいに座る。




メニューを開く。



コーヒー。

紅茶。

軽食。



どれも普通。



でも。



(こういうの、初めてかも)



“会うために会う”。



それだけの時間。




注文を終える。



少しだけ沈黙。



でも。



気まずくない。




「……ねえ」



綾が言う。



「はい」



「この前の話」



一拍。



「覚えてる?」



世古が、わずかに頷く。



「はい」



「残るものを増やす、でしたね」



綾が、少しだけ笑う。



「それ」




カバンから、ノートを出す。



シンプルな、何も書かれていないもの。



テーブルに置く。



「書こう」



はっきり言う。




世古が、少しだけ目を細める。



「……何をでしょうか」



「未来」



即答。




一瞬、空気が止まる。



軽い言葉。



でも。



重い。




「……具体的には」



世古が、確認する。



綾は、ペンを取る。



「行きたい場所とか」



「やりたいこととか」



一拍。



「こうなりたい、みたいなやつ」



ラフに言う。



でも。



本気。




世古は、しばらく黙る。



考えている。



“未来を言語化すること”。



それは。



(責任を持つこと)



逃げ場をなくすこと。



でも。



(必要だ)




「……分かりました」



静かに言う。



ペンを取る。




書く。



・北海道へ再訪

・定期的な家族の食事

・静かな生活環境の確保



綾が、覗き込む。



「……地味」



即答。



世古が、少しだけ視線を上げる。



「現実的です」



「つまんない」



綾が笑う。



自分も書く。



・旅行いっぱい

・ちゃんとデート

・一緒に住む(保留)



世古の目が、少しだけ止まる。



「……保留ですか」



「うん」



少しだけ笑う。



「でも書いた」



その一言。



“逃げてない”。




沈黙。



でも。



やわらかい。




「……ねえ」



綾が、少しだけ真面目になる。



「これさ」



一拍。



「ちゃんとやる?」



世古は、迷わない。



「……はい」



短く。



でも。



重い。




「途中でやめない?」



「やめません」



「どっちかだけにならない?」



「なりません」



一拍。



「そのための条件を設定します」



綾が、少しだけ笑う。



「またそれ」



でも。



嬉しそう。




「……一方的にしないこと」



世古が言う。



「どちらも、選び続けること」



綾が、頷く。



「いいよ」



即答。




ペンを置く。



ノートを閉じる。



まだ、空白は多い。



でも。



(それでいい)



全部決める必要はない。



“続ける”ことが、大事。




コーヒーが来る。



湯気。



香り。



静かな時間。




綾が、ぽつりと言う。



「……ねえ」



「はい」



「これさ」



少しだけ間。



「残るね」



世古が、少しだけ目をやわらげる。



「……はい」



一拍。



「残します」




二人は、カップを手に取る。



同じ動き。



同じ時間。



でも。



意味が違う。




窓の外。



人が歩く。



車が通る。



日常が流れる。



その中で。



(作ってる)



綾は、そう思う。



未来を。



自分たちで。




店を出る。



ドアのベルが鳴る。



外の空気。



少しだけあたたかい。



歩き出す。



並んで。



同じ方向へ。




「……ねえ、きーくん」



「はい」



「これ、ちゃんと続けてね」



「はい」



「逃げないでね」



「逃げません」



一拍。



「綾さんも」



綾が、少しだけ笑う。



「うん」




夕方の光。



やわらかく、伸びる影。



未来は、まだ形がない。



でも。



“選び続ける”と決めた。



それでいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ