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『HOPE リバイバル』 第2章 動き出す現実



夜は、いつもより静かだった。



家の中も、静かすぎる。



テレビはついている。

音は出ている。



でも。



(空っぽ)



綾は、そう思った。



テーブルの上。



封筒。



何通も。



開けられたもの。

開けていないもの。



全部、同じ匂いがする。



(終わりの匂い)




「……帰ってる?」



ドアの音。



父の声。



少しだけ掠れている。



「うん」



短く返す。



父が、靴を脱ぐ。



その動きが、少しだけ重い。



「……飯は?」



「あるよ」



用意はしてある。



でも。



(食べない)



分かっている。




父が、椅子に座る。



封筒を見る。



手を伸ばす。



でも、止まる。



「……これさ」



小さく言う。



「どうにもなんねえな」



笑う。



乾いた笑い。



綾は、何も言わない。



言葉がない。



(どうにもならない)



それは、事実だった。




「……悪かったな」



父が言う。



唐突に。



綾の手が、少しだけ止まる。



「なにが」



「全部だよ」



一拍。



「母さんのことも」



「金のことも」



「お前のことも」



全部。



まとめて。



謝る。




「……やめて」



綾が言う。



小さく。



でも、はっきり。



「それ、意味ないから」



父が、少しだけ目を細める。



「そうだな」



すぐに肯定する。



それが、逆にきつい。




沈黙。



テレビの音だけが流れる。



でも、誰も見ていない。




綾は、封筒を一つ取る。



開く。



数字。



見慣れない金額。



(……現実)



逃げられない。



でも。



(どうする)



分からない。




その夜。



綾は、外に出る。



理由はない。



でも。



(ここにいると、沈む)



歩く。



どこへでもなく。



そして。



気づくと。



青いコンテナの前にいる。




「……また来た」



小さく呟く。



煙はない。



でも。



同じ場所。




「……こんばんは」



声。



振り向く。



世古がいる。



変わらない。



整っている。



でも。



(違う)



今の自分が違う。




「……どうしましたか」



世古が聞く。



押さない。



でも、見ている。



綾は、少しだけ黙る。



(言う?)



迷う。



でも。



(どうせ隠せない)



「……詰んでる」



短く言う。



世古の目が、わずかに動く。



「……具体的には」



綾が、笑う。



「借金」



一拍。



「母親、病気」



もう一つ。



「父親、たぶん無理」



全部出す。



飾らない。




世古は、黙って聞く。



途中で遮らない。



評価もしない。



ただ、受け取る。




「……で」



綾が言う。



「どうにもならない」



結論。



世古は、少しだけ考える。



それから。



「……選択肢はあります」



綾が、少しだけ眉を上げる。



「なにそれ」



世古は、静かに続ける。



「借金の整理」



「仕事の再構築」



「医療の確保」



一つずつ。



淡々と。



「可能です」



言い切る。




綾は、少しだけ笑う。



「……無理でしょ」



即答。



現実を知っている。



簡単じゃない。




世古は、否定しない。



「はい」



一拍。



「簡単ではありません」



でも。



「可能です」



もう一度言う。




「……なんで分かるの」



綾が聞く。



世古は、短く答える。



「知っているからです」



それだけ。



説明しない。



でも。



(本当なんだろうな)



綾は、そう思う。



理由はない。



でも、分かる。




「……で?」



綾が言う。



「どうすんの」



世古は、少しだけ間を置く。



そして。



「……決めてください」



言う。



綾の表情が、変わる。



「は?」




「手段は用意できます」



静かに言う。



「しかし」



一拍。



「選ぶのは、綾さんです」



逃げない。



でも、背負わない。




「……丸投げじゃん」



綾が言う。



少しだけ、苛立ち。



でも。



「はい」



世古は、否定しない。




「……ふざけてる」



「はい」



「助ける気ないでしょ」



「あります」



即答。



でも。



「助け方が違うだけです」



その言葉。



綾の中に、残る。




沈黙。



夜の音。



遠くの車。



全部、少しだけ遠い。




(……選ぶ)



その言葉が、浮かぶ。



逃げるか。



向き合うか。



どっちも、選択。




綾は、少しだけ息を吐く。



「……考える」



小さく言う。



世古が、頷く。



「はい」



それで終わり。



押さない。



でも。



(逃げられない)




帰り道。



綾は、ゆっくり歩く。



頭の中は、ぐちゃぐちゃ。



でも。



(初めて)



“どうするか”を考えている。



今までは。



(どうにもならない)



で終わっていた。



でも。



(どうする)



に変わっている。




自動ドアの音が、後ろで鳴る。



同じ音。



でも。



(違う)



少しだけ。



前に進んでいる音。、

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