『HOPE リバイバル』 決めるということ
夜の街は、少しだけあたたかかった。
⸻
風は穏やかで、
音もやわらかい。
⸻
二人で歩く。
⸻
特別な場所じゃない。
⸻
でも。
⸻
(今は、ここでいい)
⸻
綾は、そう思っていた。
⸻
⸻
「……ねえ」
⸻
先に口を開く。
⸻
「はい」
⸻
「この前さ」
⸻
少しだけ考える。
⸻
「“残るものを増やす”って言ってたじゃん」
⸻
世古が、わずかに頷く。
⸻
「はい」
⸻
「まだ、そう思ってる?」
⸻
静かな問い。
⸻
世古は、迷わない。
⸻
「……はい」
⸻
一拍。
⸻
「それが、必要だと考えています」
⸻
綾が、少しだけ笑う。
⸻
「だよね」
⸻
⸻
少し歩く。
⸻
足音が、揃う。
⸻
無理に合わせていない。
⸻
でも、揃っている。
⸻
⸻
「……じゃあさ」
⸻
綾が、立ち止まる。
⸻
世古も止まる。
⸻
「増やそうよ」
⸻
はっきり言う。
⸻
「ちゃんと」
⸻
一拍。
⸻
「“決めて”」
⸻
その言葉。
⸻
今までと違う重さ。
⸻
⸻
世古は、少しだけ息を整える。
⸻
分かっている。
⸻
この先の意味。
⸻
「……具体的には」
⸻
確認する。
⸻
綾は、迷わない。
⸻
「一緒にいること」
⸻
そのまま。
⸻
飾らない。
⸻
逃げない。
⸻
⸻
世古の中で、何かが静かに動く。
⸻
これは、“流れ”じゃない。
⸻
“選択”。
⸻
逃げ道のない。
⸻
でも、望んでいる選択。
⸻
⸻
「……はい」
⸻
短く言う。
⸻
でも。
⸻
それで終わらせない。
⸻
「ただ」
⸻
一拍。
⸻
「条件があります」
⸻
綾が、少しだけ眉を上げる。
⸻
「なにそれ」
⸻
少し笑う。
⸻
でも、ちゃんと聞く。
⸻
⸻
「……一方的にならないこと」
⸻
静かに言う。
⸻
「支える側と、支えられる側に固定しない」
⸻
一拍。
⸻
「どちらも、選び続けること」
⸻
その言葉。
⸻
HOPEの核。
⸻
⸻
綾は、少しだけ黙る。
⸻
考える。
⸻
でも。
⸻
すぐに、頷く。
⸻
「いいよ」
⸻
即答。
⸻
「その方が楽しいし」
⸻
少し笑う。
⸻
「ちゃんと生きてる感じする」
⸻
⸻
世古の目が、わずかにやわらぐ。
⸻
「……そうですね」
⸻
短く。
⸻
でも、確かに同意。
⸻
⸻
綾は、一歩近づく。
⸻
距離が、ほとんどなくなる。
⸻
「じゃあさ」
⸻
静かに言う。
⸻
「決定ね」
⸻
一拍。
⸻
「一緒にいる」
⸻
言い切る。
⸻
⸻
世古は、少しだけ目を閉じる。
⸻
逃げない。
⸻
迷わない。
⸻
そして。
⸻
「……はい」
⸻
その一言。
⸻
今までで一番、重くて、やわらかい。
⸻
⸻
手を取る。
⸻
自然に。
⸻
でも、今回は少し違う。
⸻
“決めて”繋ぐ。
⸻
⸻
風が、少しだけ吹く。
⸻
夜の音が、やわらかく流れる。
⸻
特別な何かは起きない。
⸻
指輪もない。
言葉も多くない。
⸻
でも。
⸻
(これでいい)
⸻
綾は、そう思う。
⸻
⸻
歩き出す。
⸻
並んで。
⸻
同じ方向へ。
⸻
⸻
「……ねえ」
⸻
綾が、少しだけ笑う。
⸻
「はい」
⸻
「これさ」
⸻
少しだけ間。
⸻
「もう戻れないね」
⸻
世古は、迷わない。
⸻
「……はい」
⸻
一拍。
⸻
「戻る必要がありませんので」
⸻
綾が、少しだけ吹き出す。
⸻
「ほんと、それ」
⸻
⸻
夜は、静かに続く。
⸻
何も変わらないようで。
⸻
すべてが変わったあと。
⸻
“決める”ということ。
⸻
それは、終わりじゃない。
⸻
“始める”ことだった。




