表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/177

外伝 同じ店、違う未来



自動ドアの音が、やわらかく鳴る。



「いらっしゃいませー」



店内に、明るい声が広がる。



平日の昼過ぎ。


少しだけ落ち着いた時間帯。



その中に。



小さな足音。



「……ママ、ここ?」



綾が、少しだけ笑う。



「うん、ここだよ」



手を引く。



小さな手。



まだ少し頼りない。



でも、ちゃんと握り返してくる。



「ママ、ここでおしごと?」



「そうだよ」



少しだけ懐かしい。



この場所。



変わらない棚。

変わらない配置。

変わらない光。



でも。



(……全部、違う)




レジの奥から。



「あれ、綾ちゃん?」



同僚の声。



「久しぶりー!」



「おひさしぶりです」



軽く頭を下げる。



「え、なにその子!」



「……うちの」



少しだけ照れる。



「かわいい〜!」



子どもが、少しだけ隠れる。



綾の後ろに。



でも、少しだけ顔を出す。



「……こんにちは」



小さな声。



「こんにちはー!」



笑いが広がる。




店内を歩く。



棚を見る。



手を伸ばす。



商品を取る。



あの頃と同じ動き。



でも。



(……違う)



隣に、誰かがいる。



「ママ、これなに?」



「それはね——」



説明する。



言葉を選ぶ。



伝える。




ふと。



視線が、レジに向く。



あの場所。



立っていた場所。



何度も繰り返した動き。



(……ここで)



息を吸って、吐いて。



止まっていた時間。



でも。



(ちゃんと動いた)




自動ドアの音。



振り向く。



そこに。



世古がいる。



スーツ姿。

少しだけ疲れている顔。



でも。



変わらない。



「……来た」



綾が、小さく言う。



子どもが、顔を上げる。



「だれ?」



綾が、少しだけ笑う。



「……パパ」



世古が、ほんの一瞬だけ止まる。



でも。



すぐに歩み寄る。



「……お待たせしました」



「ううん」



子どもが、じっと見る。



少しだけ警戒。



でも。



「……こんにちは」



世古が、ゆっくりしゃがむ。



目線を合わせる。



「こんにちは」



子どもが、小さく返す。




レジに向かう。



「ママ、ここ?」



「そうだよ」



「おしごとするの?」



「今日はお客さん」



少しだけ笑う。



世古が、商品を置く。



あのときと同じ動き。



綾が、レジの前に立つ。



一瞬だけ。



時間が重なる。



「……お願いします」



「はい」



バーコードを通す。



ピッ、ピッ。



同じ音。



でも。



(違う)



手の動き。



隣の存在。



全部。




「袋は」



「お願いします」



子どもが、横から言う。



「わたし、もつ」



綾が、少しだけ驚く。



「持てる?」



「うん」



世古が、袋を渡す。



少し軽いもの。



「……お願いします」



子どもが、受け取る。



少しだけふらつく。



でも、持つ。



「……えらいね」



綾が、笑う。




会計が終わる。



「ありがとうございました」



綾が言う。



世古が、軽く頷く。



子どもも、小さく頭を下げる。



「ありがとう」



その言葉が、少しだけ響く。




自動ドアの音。



三人で、外に出る。



同じ音。



でも。



(……違う)



綾は、少しだけ立ち止まる。



振り返る。



店。



あの場所。



「……ねえ」



「はい」



「ここさ」



少しだけ間。



「全部、変わったね」



世古が、少しだけ考える。



「……はい」



「同じですが」



一拍。



「意味は変わっています」



綾が、少しだけ笑う。



「だよね」



子どもが、手を引く。



「いこう?」



綾が、頷く。



「うん」



世古も、並ぶ。



手を取る。



片方は、綾。



もう片方は、小さな手。



三人で、歩き出す。



自動ドアの音が、後ろで鳴る。



同じ音。



でも。



もう、ただの音じゃない。



「帰る音」だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ