外伝 レジ越しの距離
自動ドアの音は、いつも一定だ。
押されるでもなく、引かれるでもなく、
ただ条件が揃えば開く。
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世古は、その音を聞きながら店に入る。
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ドラッグストア。
明るい照明。
整えられた棚。
均一に流れる時間。
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(……変わらない)
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そう思う。
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でも。
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(変わっている)
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分かっている。
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視線を、少しだけ動かす。
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レジ。
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綾がいる。
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同じ制服。
同じ立ち方。
同じ手の動き。
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でも。
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(違う)
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ほんのわずかに、柔らかい。
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以前は、正確だった。
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今は、正確で、その上に何かがある。
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世古は、店内を一周する。
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必要なものを手に取る。
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その行動も、以前と同じ。
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でも。
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(来る理由が違う)
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必要だから来るのではない。
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(ここにいる人に会うため)
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その事実を、静かに受け入れている。
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レジに向かう。
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前に一人。
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そのやり取りを、少し離れて見る。
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「ポイントカードお持ちですか」
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綾の声。
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変わらないトーン。
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でも。
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(届いている)
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相手の反応が、少しだけやわらぐ。
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小さなやり取り。
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それが、積み重なっている。
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(……すごいな)
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素直に思う。
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自分の番。
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商品を置く。
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「お願いします」
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「はい」
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短い会話。
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業務の範囲。
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でも。
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視線が、一瞬だけ重なる。
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それだけで、十分。
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バーコードを通す音。
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ピッ、ピッ。
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同じ音。
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でも。
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(違う)
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この距離。
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手が届きそうで、届かない。
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でも、ちゃんと繋がっている。
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「袋は」
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「結構です」
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無駄のないやり取り。
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その中に。
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(選んでいる)
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お互いが。
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「……お疲れさまです」
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口にする。
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本来は、必要のない言葉。
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でも。
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今は、必要な言葉。
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綾が、少しだけ目を上げる。
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「……そっちも」
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短い返答。
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それでいい。
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それ以上は、いらない。
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会計が終わる。
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「ありがとうございました」
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その声を背に、店を出る。
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自動ドアの音。
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同じ音。
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でも。
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(戻る場所)
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その意味を持っている。
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外の空気。
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少し冷たい。
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手に持った袋。
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重さは、たいしたことはない。
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でも。
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(残っている)
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今日の時間。
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レジ越しの距離。
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視線。
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言葉。
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全部。
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小さい。
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でも。
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(十分だ)
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スマホを取り出す。
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短く打つ。
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『お疲れさまでした』
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送信。
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すぐに歩き出す。
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少しして、返信。
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『そっちも』
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それだけ。
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でも。
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世古は、ほんの少しだけ目をやわらげる。
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(……はい)
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声には出さない。
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でも、確かに。
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今日も、選ばれた時間だった。




