表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/177

外伝  レジ越しの距離



自動ドアの音は、いつも一定だ。


押されるでもなく、引かれるでもなく、

ただ条件が揃えば開く。



世古は、その音を聞きながら店に入る。



ドラッグストア。


明るい照明。

整えられた棚。

均一に流れる時間。



(……変わらない)



そう思う。



でも。



(変わっている)



分かっている。



視線を、少しだけ動かす。



レジ。



綾がいる。



同じ制服。

同じ立ち方。

同じ手の動き。



でも。



(違う)



ほんのわずかに、柔らかい。



以前は、正確だった。



今は、正確で、その上に何かがある。



世古は、店内を一周する。



必要なものを手に取る。



その行動も、以前と同じ。



でも。



(来る理由が違う)



必要だから来るのではない。



(ここにいる人に会うため)



その事実を、静かに受け入れている。




レジに向かう。



前に一人。



そのやり取りを、少し離れて見る。



「ポイントカードお持ちですか」



綾の声。



変わらないトーン。



でも。



(届いている)



相手の反応が、少しだけやわらぐ。



小さなやり取り。



それが、積み重なっている。



(……すごいな)



素直に思う。




自分の番。



商品を置く。



「お願いします」



「はい」



短い会話。



業務の範囲。



でも。



視線が、一瞬だけ重なる。



それだけで、十分。



バーコードを通す音。



ピッ、ピッ。



同じ音。



でも。



(違う)



この距離。



手が届きそうで、届かない。



でも、ちゃんと繋がっている。



「袋は」



「結構です」



無駄のないやり取り。



その中に。



(選んでいる)



お互いが。




「……お疲れさまです」



口にする。



本来は、必要のない言葉。



でも。



今は、必要な言葉。



綾が、少しだけ目を上げる。



「……そっちも」



短い返答。



それでいい。



それ以上は、いらない。




会計が終わる。



「ありがとうございました」



その声を背に、店を出る。



自動ドアの音。



同じ音。



でも。



(戻る場所)



その意味を持っている。




外の空気。



少し冷たい。



手に持った袋。



重さは、たいしたことはない。



でも。



(残っている)



今日の時間。



レジ越しの距離。



視線。



言葉。



全部。



小さい。



でも。



(十分だ)




スマホを取り出す。



短く打つ。



『お疲れさまでした』



送信。



すぐに歩き出す。



少しして、返信。



『そっちも』



それだけ。



でも。



世古は、ほんの少しだけ目をやわらげる。



(……はい)



声には出さない。



でも、確かに。



今日も、選ばれた時間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ