表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/177

外伝 選ばれないことを知って、それでも選ぶ人

選ばれないことを知って、それでも選ぶ人


夕方の光が、少しだけ強く差していた。


北山学園の正門前。

帰る人の流れが、ゆっくり動いている。



「……先生」


呼び止める声。



世古が振り返る。



そこにいたのは、あのモデルの子だった。


以前よりも、少しだけ表情が硬い。


軽いノリじゃない。



「……少し、いい?」



「はい」



周りの流れから、少し外れる。


校門の横。

木の影が落ちている場所。



少しだけ沈黙。



彼女は、まっすぐ世古を見る。


逃げない目。



「……この前の、あれさ」



「はい」



「本気じゃなかったと思ってる?」



世古は、少しだけ間を置く。



「……判断はしていません」



曖昧じゃない答え。



彼女は、小さく息を吐く。



「そっか」



一歩、近づく。



「じゃあ言うね」



その距離。


もう、冗談の距離じゃない。



「本気だよ」



はっきりと。



「最初はさ、なんか気になるなーくらいだった」



少しだけ笑う。



「でも、違った」



視線を逸らさない。



「ちゃんと見てくるし」


「ちゃんと話聞くし」


「ちゃんと、いなくならないし」



どこかで聞いた言葉。


でも、彼女の中で積み重ねたもの。



「……好きになった」



風が、少しだけ強く吹く。



世古は、動かない。



逃げない。



彼女は、さらに言う。



「でもさ」



少しだけ声が変わる。



「いるよね」



「もう一人」



世古の目が、わずかに揺れる。



「……はい」



隠さない。



彼女は、ほんの少しだけ笑う。



「やっぱり」



でも、その笑いは軽くない。



「……見てたから」



あの日。


手を繋いで歩く二人。



「でもさ」



一歩、さらに踏み込む。



「それでも、やめないよ」



言い切る。



「負けるって決まってるなら、やらないとか」



首を振る。



「そういうの、嫌いだから」



世古は、静かに聞く。



彼女の“選び方”を。



「……だから」



「ちゃんと、好きって言った」



「ちゃんと、残した」



それは、告白じゃなくて。



“自分の選択の証明”。



世古は、ゆっくりと息を整える。



「……ありがとうございます」



丁寧に言う。



彼女の目が、少しだけ揺れる。



でも、逃げない。



「……ただ」



ここで、はっきりと。



「私は、すでに選んでいます」



一切の曖昧さなし。



彼女の呼吸が、少しだけ止まる。



「……うん」



分かっている。



「……あの人でしょ」



「はい」



迷いなく。



彼女は、少しだけ目を閉じる。



「……そっか」



一瞬だけ、静寂。



でも。



すぐに、目を開ける。



「でもさ」



少しだけ笑う。



「それでも、いいや」



世古の目が、ほんのわずかに動く。



「好きって言ったの、消したくないし」



肩をすくめる。



「あとさ」



少しだけ、いたずらっぽく。



「ちょっとくらい、困らせたい」



それは、強がりじゃない。



ちゃんと選んだ上での、余白。



世古は、ほんの少しだけ目をやわらげる。



「……困ることは、ないと思います」



即答。



彼女が、少しだけ笑う。



「言うね」




その少し離れた場所で。



綾は、その会話の最後だけを見ていた。



近い距離。

真剣な顔。

そして、離れる二人。



胸が、またざわつく。



でも。



今回は、前と少し違う。



(……ちゃんと、言ったんだ)



彼女の顔を、見たから。



本気だった。



軽くなかった。



綾は、少しだけ息を吐く。



(……強いな)



素直に、そう思う。



逃げずに言える強さ。



少しだけ、悔しい。



でも。



それ以上に。



(……私も、言った)



自分の言葉を、思い出す。



“ちゃんと好きだよ”



あのときの自分。



逃げなかった。



綾は、ゆっくりと歩き出す。



世古の方へ。



「……終わった?」



いつもの声。


でも、少しだけ違う。



世古は、頷く。



「はい」



綾は、少しだけ彼の顔を見る。



嘘はない。



それで、分かる。



「……そっか」



それだけ言って。



自然に。



手を取る。



今度は、迷いなく。



「帰ろ」



短く。



世古は、ほんの少しだけ驚く。



でも。



すぐに、握り返す。



「はい」



そのまま、歩き出す。



後ろから、少しだけ視線を感じる。



振り返らない。



選んだのは、こっち。



綾は、少しだけ指に力を込める。



(……負けないから)



小さく、でも確かに思う。



夕方の光の中。



三人の距離は、はっきりと分かれた。



でも。



それぞれが、それぞれの“選択”を持っている。



それでいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ