表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
番外編 エピローグを遡って
108/177

特別編 言葉の置き方

夜は、少しだけ明るかった。


街灯のせいか、空のせいか、分からない。



並んで歩く。


いつもと同じ道。


いつもと同じ距離。



でも、


(……違う)



名前を知っている。


呼んでいる。


それだけで、何かが変わっている。



「……公士さん」


綾が言う。



「はい」


すぐに返る声。



その距離が、少しだけ近い。




少しだけ、歩く。



言葉を探す。



(……選ぶ)



うまく言えなくてもいい。


正確じゃなくてもいい。




「……あの」



足が、ほんの少しだけゆっくりになる。



世古も、それに合わせる。



急かさない。




「……一緒にいると」



言葉が、少しだけ途切れる。



でも、やめない。




「……楽です」




それだけ。




完璧じゃない。



でも、


嘘でもない。




空気が、少しだけ静かになる。



音が、遠くなる。




世古は、すぐには答えない。



少しだけ間を置く。



軽く扱わないための時間。




「……ありがとうございます」



静かな声。



評価もしない。


押し返しもしない。



ただ、


受け取る。




綾は、少しだけ息を吐く。



(……言えた)



それだけで、少し軽くなる。




少しだけ歩く。




「……公士さんは」



綾が、続ける。




世古が、視線を向ける。



待つ。




「……どうですか」




問いかける。



でも、答えを強く求めない。




世古は、少しだけ考える。



言葉を選ぶ。




「……そうですね」




短く、息を整える。




「……私も、落ち着きます」




それだけ。




大きな言葉は使わない。



でも、



嘘はない。




綾は、少しだけ視線を落とす。



(……同じだ)




それが、少しだけ嬉しい。




歩く。



並んで。




何も変わっていない。



街も、


時間も、


現実も。




でも、



(……これでいい)




店の前に着く。



自動ドアの前。



あの音が鳴る直前。




「……ありがとうございました」



「こちらこそ」




ほんの少し、間。




綾が、言う。




「……また、一緒に」




途中で止める。



でも、それで伝わる。




世古が、静かに頷く。




「はい」




それだけ。



約束はしない。



でも、



続く。




自動ドアが開く。



あの音。




同じなのに、




少しだけ、やわらかい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ