特別編 同じ音
夜の店内は、少しだけ広く感じた。
人がいないだけで、こんなに違うのかと思う。
レジの前。
いつもの場所。
⸻
ピッ。
バーコードを通す音。
⸻
昼間と同じ動き。
同じ手順。
⸻
でも、
(……違う)
⸻
袋を開く。
商品を入れる。
お金を受け取る。
渡す。
⸻
全部、自分で選んでいる感覚がある。
⸻
(……ここにいる)
⸻
それだけで、少しだけ、静かになる。
⸻
最後の客が帰る。
⸻
自動ドアが開く。
あの音。
⸻
少しだけ、顔を上げる。
⸻
——知らない人。
⸻
(……そうだよね)
⸻
少しだけ、息を吐く。
⸻
期待していたわけじゃない。
⸻
でも、
(……重なることもある)
⸻
それだけで、十分だった。
⸻
レジを閉める。
片付ける。
電気を落とす。
⸻
外に出る。
⸻
夜の空気。
少しだけ、柔らかい。
⸻
歩き出す。
⸻
遠くで、車の音。
人の話し声。
⸻
日常。
⸻
変わらない。
⸻
ポケットの中で、指が触れる。
小さな紙。
⸻
メモ。
⸻
「必要なことを選ぶ」
⸻
いつ書いたのか、はっきりしない。
でも、今は分かる。
⸻
(……これでいい)
⸻
⸻
同じ頃。
⸻
少し離れた場所で、
世古は歩いていた。
⸻
夜道。
⸻
静かな足取り。
⸻
立ち止まる。
⸻
自動ドアの前。
コンビニの光。
⸻
開く音。
⸻
ほんの一瞬だけ、目を上げる。
⸻
(……同じ音だ)
⸻
それだけ。
⸻
中には入らない。
⸻
また歩き出す。
⸻
⸻
場所は違う。
時間も、少しだけ違う。
⸻
それでも、
⸻
同じ音が、鳴っている。
⸻
⸻
綾は、歩く。
⸻
世古も、歩く。
⸻
交わらない。
⸻
でも、
⸻
(……それでいい)
⸻
⸻
同じなのに、
少しだけ違う。
⸻
⸻
それが、
⸻
今の、自分だった。




