11-9 朝、刻印された鍵
激動の一夜が明け、ソラリスの空に再び穏やかな朝日が差し込んだ。
中央指令室の冷たい床の上、俺たちは休息を終え、簡単な朝食を囲んでいた。
昨日までの極限の緊張状態が嘘のように、漂うスープの湯気が心を落ち着かせてくれる。
食後の静寂が訪れた頃、指令室の中央に再び淡い光が収束し、ソラリスのアバターが現れた。
『――旅人たちよ、休息は十分ですか?』
彼女の透明感のある声に、全員が背筋を伸ばす。
彼女は俺の傍らに置いてあった、立体地図を映し出す水晶球へと視線を向けた。
『二つ目の鍵……その所在を示す座標を、貴方たちの地図に刻み込みましょう』
彼女が水晶に触れると、指令室内が目も眩むような白銀の閃光に包まれた。
あまりの輝きに思わず目を閉じ、光が収まるのを待ってから再び視界を開く。
そこには、俺が持ち歩いている立体地図の上に、新たな光の道標が刻まれていた。
「……ここは、北の連峰にある山脈か」
俺は表示された座標の魔導波を読み取り、驚きに目を見開いた。
「以前、シグルドが潜伏していた古代神殿の跡地……。
俺たちはあそこを隅々まで調査したつもりだったが、まだ未捜索の領域が残されていたというのか?」
俺の疑問に、ソラリスのアバターは静かに首を振った。
『物理的な空間に隠されているのではありません。 それは権限の奥深くに封印されているのです。
……ルシ、あの神殿へ向かった時、ネロは一緒ではありませんでしたね?』
「ああ、あの時はまだ出会っていなかった」
『ならば、次はネロと共にその地へ向かいなさい。
王国軍の正規の階級を持つ彼がその場に立つことで、初めて開かれる鍵のゆりかごがあるはずです。
……彼こそが、真の鍵へと辿り着くための導き手となるでしょう』
「なるほど、特定の秘銘を必要とする秘匿領域というわけか。
……だが、北の連峰への道のりは険しい。 歩いて戻るには時間がかかりすぎるぞ」
『案ずることはありません。 このソラリスに配備されている最新鋭の飛行艇を使いなさい。 あれならば、険しい山脈も、荒れ狂う高高度の気流も、容易く飛び越えることができるでしょう』
「……感謝する。 だが、ソラリス。 君はなぜ、敵国の残滓である俺たちにここまで尽くしてくれるんだ?」
俺の問いに、アバターはしばしの沈黙を置いた。
その瞳の奥に、この世界のすべてを見透かしているような深淵な光が宿る。
『……世界樹ユグドラシルの崩壊の影響は、貴方の国だけに留まりません。
世界の理はすべて、目に見えない根っこで繋がっているのです。
連鎖反応的に、私たちの国が誇る巨大魚バハムート……その命を繋ぐ理にも、致命的な歪みを及ぼすでしょう』
「すべての国で運用されている理は、個別に独立しているのではなく、中枢で連結されている……。 話が早いな。
つまり、一箇所の致命的な破綻が、世界全体の崩壊を招くということか」
『その通りです。 故に、私は力を貸す。
特に世界樹ユグドラシルは、全文明の魔力循環を司る、理の基幹。
……必ずや、修復して見せなさい』
アバターの力強い言葉に、俺は拳を握りしめた。
「了解した。 魔導師として……いや、この世界に生きる一人の人間として、世界樹を崩壊から守り抜いて見せる」
『では、行きなさい。 残された時間は少ないのです。
……世界の明日は、今、貴方たちの双肩にかかっているのですから』
アバターが静かに光の中へ消えていく。
俺は振り返り、頼もしい仲間たちの顔を一人ずつ見つめた。
「みんな、聞いたか? 休んでいる暇はない。 直ちに出発するぞ!」
俺の呼びかけに、仲間たちが次々と力強い声を上げた。
「承知した! 飛空艇なら、山脈の魔獣どもも上空から素通りできるな!」
バナード師匠が不敵に笑い、剣の柄を叩く。
「北の寒さも、この情熱と剣で切り裂いてみせますわ。 ……参りましょう、ルシ殿!」
アイリスは軽装の鎧の具足を鳴らし、愛剣の柄を固く握りしめて決意を露にする。
「未知の古代術式、そして世界樹の真理……。我が知識のすべてを注ぎ込み、必ずや鍵の理を解き明かしてみせようぞ」
メギストス師父が知的好奇心に瞳を輝かせる。
「次は僕の番だね。 ……今度は、壊すためじゃなく、守るために僕の力を使い切ってみせるよ」
ネロが、吹っ切れたような晴れやかな表情でエルフィの手を握る。
「ルシ兄さまと一緒なら、どんな困難だって怖くない。
……行きましょう、世界の未来を取り戻すために!」
エルフィが紺碧の瞳を輝かせ、リーフもまた「私も、世界樹の娘として全力を尽くすわ」と静かに微笑んだ。
「よし、次は北の山脈にある古代神殿だ!」
俺たちはソラリスが用意してくれた、流線型の白い飛空艇へと向かう。
発着上には、一機の飛空艇が、重厚な魔導エンジンの唸りと共にスタンバイしていた。
もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、下記の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をいただけると、執筆の大きな励みになります!
皆様の応援が、物語を完結まで導く力になります。
よろしくお願いいたします!




