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11-7 遠距離狙撃作戦

 空中都市ソラリスの心臓部、中央指令室。


 先ほどまでの静寂は嘘のように消え去り、そこは今、世界の崩壊を食い止めるための戦場と化していた。


「全員、各セクションへ!

 これより、超長距離魔導狙撃による加圧ポンプの無力化作戦を開始する!」


 俺の号令と共に、7人が一斉に動き出した。


 俺が選んだのは、基地全体の破壊ではない。


 暴走している加圧ポンプの基幹回路だけをピンポイントで撃ち抜き、周囲の土地への魔力吸引を物理的に遮断する、極めて精密な外科手術的狙撃だった。


「座標、固定作業に入るぞ! リーフ、手を貸してくれ!」


「ええ、任せて! オーロ・グランデの絶縁層による屈折率を計算……魔力の逆流ポイントを逆探知するわ!」


 メギストス師父とリーフが、巨大な立体地図の上に浮かび上がる不規則な魔力のうねりを解析していく。


 絶縁体の河を挟んだ遠距離狙撃だ。


 わずか一ミリの誤差がターゲットを逸れれば、最悪の爆発を招くことになる。


 その横では、ネロとエルフィが、俺の照準を補正するための補助数式を編み上げていた。


 ネロの表情は硬い。


 かつて自分を木偶の棒へと追い込んだ因縁の地、ソラリス。


 その心臓部に立っているという事実に、彼の心は千々に乱れていた。


 バナード師匠とアイリスは、エネルギー貯蔵庫の監視に回った。


「主砲への魔導力蓄積、現在八十パーセント! 船底の回路が熱を持ち始めておるぞ!」


「冷却水、全開! まだ、まだ耐えてちょうだいな、ソラリス!」


 そして俺は、中枢で約千八百京の術式を展開していた。


 皆から上がってくる膨大な報告をすべて脳内で統合し、前線基地の加圧ポンプ――その心臓部を割り出していく。


 スクリーンの端では、砂漠化のシミュレーションが刻一刻と赤く染まっていた。


「……見えた。 そこだ!」


 俺が引き金に指をかけようとした、その時だった。


 指令室の照明が激しく明滅し、封印されていたはずの施設の記憶の書庫アーカイブが、ひとりでに起動した。


「な、なんじゃ!? 術式が勝手に書き換えられておるぞ!」


 メギストス師父の驚愕の声が響く。


 メインスクリーンの中央に、柔らかな、星屑を溶かしたような光を伴って一人の女性の姿が映し出された。


 それは、金色の髪をなびかせ、古い隣国の礼装に身を包んだ、慈愛に満ちた表情の女性だった。


 彼女の瞳には、千年の孤独を包み込むような、圧倒的な優しさが宿っていた。


『――不具合を正そうとする旅人たちよ。 恐れることはありません』


 彼女の声は、直接脳裏に響く。


 それは戦場の冷たさとは無縁の、母が子をあやすような穏やかな響きだった。


「誰だ……? 管理術式か?」


『私は、ソラリス。

 ……かつてこの街に住み、この空を愛した人々の想いが、千年の時を経て意志を持った影です。

 ……今、大河の対岸で、古い憎しみの残滓が大地を乾かそうとしています。

 それを止めるために、私の残された全ての光を貴方に託しましょう』


 彼女はそう言うと、視線をネロへと向けた。


 ネロが、驚いたように目を見開く。


『……迷える兵士の子よ。 かつて私の防衛機構が、貴方を傷つけ、その誇りを奪ってしまった。 ……悲しい戦いの中、貴方を優しく迎えられなかったことを、この街を代表して謝らせてください』


「ソラリスが……僕に、謝っているのか……?」


『ええ。 貴方はもう、壊されるためにここへ来たのではありません。

 ……今度は、世界を救うために。 この街と一緒に、あの呪縛を解き放つのです。

 ……おかえりなさい。 貴方を、ひとりの人として、私は心から歓迎します』


 ソラリスの意志そのものが、かつての敵であるネロに微笑み、その存在を肯定した。


 ネロの瞳から、こわばりが消える。


 彼は力強く頷くと、俺の照準補正へとさらに深く意識を同調させた。


「……ありがとう、ソラリス。 ……ルシ兄さん、準備はできた。 いつでもいけるよ」


 アバターが両手を広げた瞬間、ソラリス全体が黄金の輝きに包まれた。


『主砲、全出力解放。 ……過去の悲しみを、明日を守るための光に変えて。

 ……放ちなさい!』


 アバターが差し出した祈りと、仲間たちが繋いだ力。


 今、千年の時を超えた究極の修正が、大河を越えて放たれようとしていた。

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