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11-5 役立たずの真実

 メギストス師父とエルフィの案内に従い、俺たちは空中都市ソラリスの心臓部、中央司令塔へと歩みを進めた。


 かつては数千人の魔導師や兵士が行き交っていたであろう広大な回廊も、今は冷たい静寂に支配されている。


 司令塔へと続く巨大な渡り廊下の中ほどで、俺たちは最初の関門に直面した。


 宙を浮遊する水晶の多面体が網膜走査のような赤い光を放ち、侵入者の行く手を阻む検問所だ。


 不穏な警告音が響き渡る中、エルフィがふと立ち止まり、俺の方を振り返った。


「ルシ兄さま。 私が行っても……良いですか?」


 先ほどの一件を気にしてのことだろう。


 許可を求める彼女の真剣な眼差しに、俺は小さく頷いた。


「ああ。 無理はしないでくれ。 何かあったらすぐに俺たちが介入する」


「はい!」


 トコトコと迷いのない足取りで検問所へ向かう彼女の背中を見守りながら、俺は胸の奥が温かくなるのを感じた。


 本当に健気で、良い子だ。


 だが、検問所の装置の前に立った瞬間、エルフィの様子が劇的に変化した。


 彼女の象徴である深い紺碧色の髪が、まるで魔法のヴェールを被ったかのように、さらさらとした輝かしい金髪へと変色していく。


 それは隣国の民に多く見られる、陽光を溶かしたような色彩だった。


 背中を向けているため瞳の色までは確認できなかったが、その立ち振る舞い、空気感までもがエルフィとは別の何者かに入れ替わっている。


(……やはり、あの村から連れ去られた子の人格か)


 彼女の中に眠る十二人の犠牲者の一人が、かつての自分の故郷のシステムと対話するために、表層へと現れたのだろう。


 数分後。


 装置の警告音が止まり、静かな駆動音と共にゲートが開かれた。


 こちらへ戻ってきたときには、彼女の髪はいつもの落ち着いた紺碧色へと戻っていた。


「許可が出ました。 ……これを皆さんで持っていてください。

 司令塔の各部屋に入るときの、魔法のキーカードです」


 エルフィは、淡く発光する平べったい水晶のカードを人数分、俺たちに手渡した。


 その手元は少し震えていたが、彼女は誇らしげに胸を張っていた。


 その後、俺たちは司令塔の最上階に近い中央指令室へと足を踏み入れた。


 そこは、無数の魔導スクリーンが壁一面を覆う、巨大な情報の中枢だった。


 メギストス師父が手慣れた様子でコンソールを操作し、都市の各ブロックの状況を前面のメインスクリーンに映し出していく。


 師父の指が踊るように動き、やがて施設の記憶の書庫アーカイブへと深く潜り込んでいった。


「……見つけたぞ。 これは、当時の王国側魔導師の調書じゃな」


 メギストス師父が特定したデータ。


 それは、かつての大戦で捕虜となった王国の開発チームによる、血を吐くような独白の記録だった。


 そこには、ネロがなぜ役立たずと罵られ、深い眠りに封印されたのかという、戦史の裏に隠された真実が記されていた。


 スクリーンに映し出された文字を、俺たちは固唾を飲んで追った。


 ネロは、決して失敗作ではなかった。


 むしろ、その性能は当時の基準を遥かに超越していた。


 しかし、開発に関わった魔導師の一部が、彼を兵器として完成させることに耐えられなかったのだ。


 彼らは、実験体として捧げられた子供たちの純粋さに触れるうちに、彼らに人間としての愛着を抱いてしまった。


 だからこそ、魂を改造する最終工程において、彼らは致命的な改変をあえて施さなかった。


 兵器としての冷酷な心ではなく、人としての慈しみと、痛みを感じる心を、ネロに残したのだ。


 ふと、世界樹の根でネロの魂に初めて接触した時のことを思い出す。


 あの時、彼の本質は戦うことを激しく拒絶していた。


 しかし、胸に刻まれた卑劣な強制執行(刻印魔法)によって、その心は檻に閉じ込められ、意思に反して剣を振るわされていたのだ。


 捕虜となった魔導師の独白は、さらに続く。


『……ネロの魂は、あまりにも透明で脆い。 これ以上の重荷を背負わせたくはない。

 だから私は、彼の出力をあえて最低限にまで抑制し、実戦での価値を低く見せかけた。

 もしこの戦いが王国の敗北で終われば、彼は、役立たずとして廃棄されるか、封印されるだろう。 それこそが、彼が生き延びる唯一の道なのだ……』


 あとは、自分の都合でネロを、そしてネロを生み出すために犠牲になった十二人の子供たちを地獄へ突き落としたことへの、際限のない懺悔の羅列だった。


 ネロとエルフィは、寄り添うようにしてその記録を読んでいた。


 自分たちが無能だったから捨てられたのではなく、誰かの祈りによって守られ、あえて戦場から遠ざけられていたという事実。


 俺たちは、かけるべき言葉を見つけられなかった。


 それが、あまりにも身勝手で、同時にあまりにも深い愛情の形だったからだ。


 ネロの震える背中。


 エルフィの悲しげな横顔。


 今、彼らが自分たちの過去という巨大な幽霊と対峙しているのを、俺たちはただ、静かに見守ることしかできなかった。

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