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11-2 古代の基地

 千年の沈黙を破り、重厚な石門が口を開いた。


 王国側の古代前線基地。


 湿り気を帯びた埃っぽい空気の中へと、俺たちは足を踏み入れた。


 ネロの正規認証によって開錠されたためか、防衛システムが作動する気配はない。


 暗闇の中に並ぶ魔導回路の結節点が、侵入者を拒む赤ではなく、迎え入れる静かな青に明滅していた。


 俺はすぐさま解析眼を起動し、基地内部の状態をスキャンする。


「……なるほど、端末の基幹部分は生きているな。

 ただ、経年劣化でいくつかの術式回路が物理的に断線している。

 ……だが、致命的じゃない」


 これほど状態が良いのは、ひとえにこの施設がオーロ・グランデの絶縁結界に守られ、外部の魔力汚染や略奪から隔離されていたからだろう。


 俺は埃を払い、操作パネルの前に立った。


 指先から微細な魔力を流し込み、システムの深層を探る。


「自己修復機能、スタンバイ……。 強制再起動、実行」


 俺が端末を叩くと、基地全体がかすかに震動を始めた。


 壁の裏側で、予備の魔力タンクからエネルギーが供給され、断線していた回路が魔法の糸を紡ぐようにして接合されていく。


 やがて、正面の壁を覆う巨大な魔導スクリーンに、外の景色――静まり返った大河の映像が映し出された。


 それと同時に、室内に無機質なアナウンスが響き渡る。


『識別信号(ID)を確認……ネロ・シリーズ、帰還を許可します。

 兵装の換装、およびエネルギー充填シグナルを受理しました』


 ネロが、唇を噛み締めて複雑な表情を浮かべる。


 自分を人間ではなく兵装ぶきとして扱う、かつての戦友たちの亡霊。


 その声は、ネロにとって祝福ではなく呪詛に近い。


 そんな彼の機微を察したエルフィが、すかさずネロの隣に立ち、その頭を優しくなでた。


「大丈夫だよ、ネロ。 今は、みんな一緒だから」


「……うん。ありがとう、エルフィ」


 少女の掌の温もりが、少年の心を蝕む過去の震えを静めていく。


 俺は端末の操作を続け、この施設に保管されているはずの足を探した。


「――あった。 格納庫に三台。 どれも保存状態は良好だ」


 俺は魔導船を保管しているドックへの扉を解放した。


 分厚い隔壁がスライドし、その奥に流線型のシルエットが姿を現す。


「行けそうだ。 そこの扉から乗り込んでくれ。 一番右の船が最も魔力伝達率が高い。

 ……リーフ、操縦を頼めるか?」


「任せて。 基本操作は今の魔導船と変わらないみたいね」


 リーフが代表して力強く頷き、一行を引き連れて船内へ。


 基地のシステムを自動出撃モードへ移行させた。


 俺はハッチを閉め、自分も助手席に滑り込み、計器類を確認する。


 轟音と共にドックが開き、船体が磁力に弾かれるようにして外へと射出された。


 その瞬間、船は水面を滑るのではなく、重力を無視して天空へと駆け上がった。


「おおっ!? 船なのに、空を飛んでおるぞ!」


 窓の外を見て、メギストス師父が歓喜の声を上げる。


「見て見よ、この高度! 水面がもうあんなに下に見えるわい。

 浮遊魔法の理屈とは根本的に異なる、空間固定術式か!

 実に、実に興味深い!」


 師父は船内をあちこち這い回り、計器の目盛りを食い入るように観察し始めた。


 対照的なのは、バナード師匠とアイリスだ。


 二人は以前、飛空艇アトラハシウス号が墜落した際の恐怖を思い出したのか、座席のベルトを力いっぱい握りしめ、借りてきた猫のように大人しくなっている。


 メギストス師父もあの時は気絶していたはずだが、彼の場合は未知への好奇心が死の恐怖を完全に上書きしてしまっているらしい。


 ネロはエルフィの膝に頭を乗せ、彼女に髪をなでてもらっていた。


 窓の外に見える大河の中央――かつて自分が墜落し、全てを奪われたあの忌まわしき領域が近づくにつれ、彼の体は再び微かに震え始めていた。


 エルフィはその震えを吸い取るように、静かに、優しく、慈しむように彼を慰め続けている。


 古代の魔導船は、エンジンの唸り声を上げながら、順調にオーロ・グランデの中央へと飛行を続ける。


 だが、肉眼では前方には何一つ見えない。ただ、どこまでも続く、青い虚無の空と水があるだけだ。


 しかし、俺の掌の立体地図上では、目的地を示す光点が、刻一刻と俺たちの現在位置に重なろうとしていた。


 目に見えない世界の境界線が、すぐそこに迫っている。

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