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5 涼月の再会⑤

 リビングの片付けと自分の部屋の整理が終わったので、ヒマリはシャワーを浴びるため薄暗い廊下を歩き階段の方へ向かおうとしたが。


 (……ん?)


 1階に行くためホシドとヒナドの部屋の前を通り抜ける必要があるのだが、ホシドの部屋だけ灯りが付いていた。


 中から小さく話し声が聴こえてきたので思わず立ち止まる。


「……あの女を夢へ堕とせ。お前がやることは1つだ。分かってるな?」


 ヒナドやホシドでも無い。知らない男であろう声が聴こえてきた。


(あの女を夢へ堕とせ……どういうこと?誰とホシドは話しているんだろう)


 隙間からそっと覗くが話している相手が見えない。


 それに声も途切れながらで上手く聴き取れなかった。


「……あぁ。分かってる」


 たまたまこちらへ顔を向けたホシドと目が合った気がする。


 ヒマリは慌てながらも静かに階段を駆け下りて脱衣所へと入った。


(あれ……聞いたらまずかった?でも……何か知りたい……明日にでも聞いてみようかな)


「……今日は疲れたな」とヒマリは溜め息を付きながら、シャワーを浴びるために服を脱ぎ始める。


 数十分後。


(ん……サッパリして気持ち良かった)


 体の汚れを洗い終えて、ヒマリが下着を付けようとしている最中であった。


 ――ガチャ。


 いきなり脱衣所の扉が開いたと思えば、開けてきた張本人とバッチリ目が合って相手は目を丸くしている様子である。


「ッッッ?!……ほ、ホシ」


 ヒマリが「ホシド!?」と驚きの声を上げる前に、ホシドは音も立てず速やかに扉を閉めた。


「……すまない。次からは気をつける」


 扉の奥から謝る声が聴こえてきたが、頭が真っ白になったヒマリは頬を苺のような赤に染めて、両手で顔を抑えてその場で座り込んでしまう。


(ほ、ほ、ホシドに裸を見られ……?!無理無理無理、これじゃ嫁に行けな……て、ハイドも見られたってコトになるの?!でも、好きピ³なハイドになら……じゃないッ!私のバカバカバカ)


 羞恥心と他に湧き上がる自身の邪心に心が荒ぶったが、ふと先ほどの事を思いだす。


 沸騰した湯の中へ大量の氷をいれたような勢いで熱が冷めていったので、ホシドが立ち去る前に扉越しで声を掛けた。


「ほ、ホシド!まだいる?」


「……どうした」


「さっきさ部屋の中で、誰かと話してたのが聞こえたんだけど……ヒナド以外に誰かいるの?」


 いるなら即答できるはずの返事だが、少し妙な沈黙の時間が流れた後にホシドから返事がくる。


「……ヒマリの気のせいだ。ヒナドと俺以外この家にはいないよ。疲れてるんじゃないのか?早く寝た方が良い」


 そう言い終えたホシドは歩き出したのか、ドア越しから足音が聞こえてきて遠ざかって行った。


(あんなハッキリした会話……気のせいなんかじゃない……ホシドは何かを隠してる……?)


 色々と考えながら着替え終えたヒマリは、明日ヒナドにホシドの件を聞いてみることにした。


 部屋に戻ったヒマリは時間も遅いのでさっさと朝に備えて寝ることにしたが……。


(んーッッッ、あれはマズイッッッ!)


 ベッドの中で大好きなハイドに裸を見られた事を思い出して、興奮してなかなか眠れずに左右に体をゴロゴロと動かしながら悶えていた。


 ◆◇


『……またイジメられてるの?ヒマリちゃんは、周りから好かれないタイプだから仕方ないし、それは産まれつきだしねぇ……可哀想に……駄目な子ね』


『……私は駄目で可哀想な子なの?そうだねお母さん。迷惑掛けてごめんなさい』


 いつの日かにあった母親とのやり取りが夢の中で出てきたと思えば、ふと目が覚めヒマリはベッドからゆっくりと体を起こした。


(……母は"そういう"人だけど、こんな会話したっけ……イジメ?まぁ、夢だから何でもありか)


 それにしてもだ。


「夢の中の私よっわ!もっと言い返してやればいいのに……」


 思わずそう声をあげながら上半身をグイッと伸ばしたヒマリは、ベッドサイドの横にあるテーブルに置かれた時計を見る。


「……やっば」


 昨日ホシドとヒナドの2人とリビングの片付けをしていた最中に、ヒマリは夏休み中は暇なのでバーでバイトをしたいと、2人へ頼み働かせてもらえることになったのだが。


(遅刻するッッッ)


 時計の針は集合する数十分前を指しており、ヒマリは慌ててベッドから飛び出して身支度を始めた。


 自分がやらかして、不幸中の幸いだと思ったのがバーがシェアハウスを出て目の前である事だった。


(これならギリ間に合う)


 すでに姿の無い2人の部屋の前を走り抜けて、階段を駆け下りる。


 広めの玄関で急いで靴を履いて、戸締まりをすると目の前にあるバーの裏口へ走り抜けてく。


(そうだ、昨日あったホシドの事をヒナドに聞いてみよ……)


 ヒマリは昨日の事を思い出しながら、バイトの遅刻ギリギリで裏口の扉を開いて中にいた2人へ挨拶をした。


 ◆◇


「体がキツすぎる……」


 昨日と同じく時刻はてっぺんを超えており、ヒマリは今日こそ早めに寝ようとベッドへ潜り込んでいた。 


(自分で申し出たバイトだから、そう簡単に根を上げてたまるか……にしても)


 今日はバイト中にヒナドと2人で買い出しのタイミングがあったので、ホシドの件を聞いてみたが「兄貴が夜中に誰かと会話してた?他に住んでる奴なんていないし、独り言なんて……想像つかねえよ」と言われ


 挙げ句の果てに「信じてやりたいけど証拠がないしな……」と返ってきた。


(来たばかりだし信じてもらえないのは当たり前か……)


 ヒマリは「……はぁ」と小さく溜め息をすると眠りにつくことにする。


(ホシドもかたくなに「気のせいだ」って言うし……私の勘違いだったのかな)


 最後にそう思いながら目を瞑ったヒマリは夢の世界に誘われるかのように、意識が遠のいていった。

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