4 涼月の再会④
「ヒナドとホシドって何でバーをやったり配信者をしてるの?」
「……ん〜、配信は僕が無理くり兄貴を誘ったんだけど……」
問われたヒナドは、苦笑いを浮かべるような表情で頬に指を当てながら、聞かれたら困るような仕草をした。
「俺らのことを知っているヒマリには、隠す必要も無いだろ」
ヒナドが着替えていた部屋から、人間姿のホシドが出てきて、自分の着ている残りのシャツのボタンを閉めながら、弟に言ったあと続ける。
「配信に関してはヒナドの言う通りだ。俺は好んでしている訳じゃなくて、あくまで稼ぐための手段だ」
彼はカウンター裏へ向かい、洗い物をしながら答える。
(あ〜……だから、しかめっ面をしていたのか。いざ面と向かって言われると……こう、なんというか)
ホシドから伝えられた言葉で、大好きなハイドの夢から覚めそうになり、思わず下を向いて唇を噛んだ。
「稼ぐと言っても、全てはマスターへの恩返しの為だ……」
「恩返し……?」
私欲を満たすためでは無いと分かり、安心して顔を上げた。
「兄貴の言う通りで、僕たちはマスターへの恩返しで配信者をしたりコンセプトバーを経営してる」
間に入ってきたヒナドの言葉にヒマリは「へ〜」と頷いてから
「そのマスターさんって、今どこに?」
と聞くとヒナドが、苦笑いのような反応をして答えた。
「マスターは放浪癖があって、今は海外旅行中〜」
◆◇
「さてと、色々とありがとうございました」
荷物を片手に電子レンジを背負ったヒマリはお礼を2人に伝えた。
「今更だけど電子レンジって……っく……」
ヒナドはヒマリの姿を見てツボに入ったのか、肩を震わせて顔を伏せ笑いを堪えてるように見える。
「わ、笑わないでよ。引越し先に電子レンジって必要でしょ?もはや3種の神器の1つだと思ってるんだから」
ホシドも「……っ」と笑いを堪えてそうな声でヒマリに一言。
「そ、そうか」
「そうに決まってるっしょ」
ヒマリは両頬を軽く膨らませて、ホシドに断言した。
「ところで、今からキミを引越し先に連れて行くが場所はどこなんだ?」
「えっと……あ、この店のすぐ裏だから歩いて行くよ」
スカートのポケットからタブレットを取り出し、ヒマリは画面上に地図を広げながら答えたが、ホシドとヒナドは2人揃って「ん……?」と神妙な面持ちと呼べるような表情でその地図を見た。
「まじか」
ヒナドがポツリと呟く。
「え?どうしたの2人とも」
よく分からない彼らの反応に対してヒマリが話すと、その次にホシドが話し始めた。
「そこは俺たちが住む"シェアハウス"だ」
彼の口から"シェアハウス"と聞き、すぐに意味を理解したヒマリは腰が抜けるよりも先に、寿命が縮んだような気分となり「え"ぇッッ!?」と悲鳴が出てしまう。
「僕らも今日誰か来るとは聞いてたんだけど、まさかヒマリだとはね……てか、共有の部屋を片付けてねーから……やべぇ兄貴……」
「はぁ、俺に言うな。お前が汚してるんだろうが」
3人は店の出入り口の施錠を終える。
裏口へ行くと外の空気は昼間よりも軽く感じて、周りは暗闇に包まれていた。
足元の左右に並んだお洒落なランプがシェアハウスまで続いており明るかった。
ホシドとヒナドは部屋の片付けをしたいのか、さっさとシェアハウスに向かって歩いて行ってしまう。
ヒマリは歩く時に足と手が同時に出る、ロボットのようなぎこちない動きをしながら彼らの後を追いかけた。
(やばいのは私の方だって……)
◆◇
「いやー、悪いな。疲れてんのに部屋の片付けを手伝わせちまって」
「私も共有で使うスペースだから、別にいいよ(……にしても)」
汚い……でなく、だらしがないなとヒマリは呆れた。
開放感を感じる吹き抜けのリビングをこれから暮らす3人で片付けている。
周りにはヒナドが放置した私物や飲み終えたジュース缶しかなかった。
「手伝わせてすまない。ヒマリ」
「ホシドとヒナドは仕事が忙しいでしょ?だから部屋が散らかっても仕方ないよ」
「……だそうだ。ヒナド」
ヒマリの言葉に乗っかるホシドがヒナドを睨むような目付きを飛ばす。
「……ヒマリごめんなー、気を使ってくれて」
兄に睨まれて眉を八の字にしながら謝るヒナドが、可哀想になり思わず笑いながらヒマリは答える。
「あはは、いいよ。気にしないで!」
「優しいなぁー……そういえばさ、ヒマリはなんで此処に来たの?」
「……えっと」
いずれ聞かれるだろうとヒマリは思っていたが、正直返事に困った。
何度も繰り返す夏から抜け出すため、と言っても信じてはもらえない。
ならもう1つの理由である、母親が嫌いなので出てきたと正直に言おうか。
……その返答は、なんとなく躊躇った。
「わ、私の学校さ夏休みが長くて、気分転換で引っ越しとか良いかな〜って!」
「あっ……へー。すげぇ大胆な気分転換じゃん」
ヒナドはヒマリの返事に察したのか、気まずいと思ったような表情で軽く笑い答えた。
近くにいたホシドはやり取りを見ていたと思うが「……」と黙って片付けの作業を続けている。
気を使わせてしまったと感じたので、言える範囲で話すことにした。
「……気分転換の引っ越しね、間違ってはいないんだけど、本当は母親が嫌で離れたくなったんだ」
「そっか。なんか話してもらって悪いな」
ヒナドへ「いやいや、こっちこそなんか気を使わせてごめん」とヒマリが謝った。




