3 涼月の再会③
貰ったモクテルを飲み終えて、しばらく座っていたヒマリの前へ、別の部屋にいたホシドとヒナドが戻ってきたが。
「ッ!えッッッ、は?!え」
その2人の姿を見た瞬間に頭の中が真っ白になるのと、先ほどヒナドとの会話で自分が言った事を思い出して、頬がリンゴのように真っ赤になり、視界が滲む。
色んな感情がヒマリの中を駆け巡り、言葉を出すことが出来ない口元を両手で覆い、更に目を丸くして彼らを見つめた。
ホシドとヒナドは……。
「ジ、キル……とハイド……様じゃん?!」
ヒマリの目の前にいる彼らは、彼女が好きでやまないアヤカシアイドル配信者の2人であった。
ジキルは白や赤色を基調とした軍服のような衣装を着ており、ハイドは同じ衣装で装飾が彼と反対に付けられており、黒と青色で色違い。
2人に共通してるのは頭の上にピアスを付けた獣耳があり、立派なフサフサと触り心地が良さそうな長い尾も生えていた。もちろん本物。
自分と同じアヤカシだと自覚させられる姿である。
「改めまして、ヒマリ。僕は狼のアヤカシで配信者とバーテンダーをやってる。活動名がジキルなんだ。よろしく」
ジキルことヒナドが近くに手を差し出してきたので、思わずヒマリも手を恐る恐る出すと握手された。
「ッッッん」
緊張と嬉しさが混じり、変な声を上げそうであるがこらえる。
「で、僕の隣りにいるのが……ヒマリの大夢中な……例の彼」
(恥ずかしいから言うな!)とヒマリは叫びたくなるほどの羞恥心で、下を向いてしまった。
「……ヒマリ。顔をあげてくれ」
「無理ッ」
飛び出したのは即答である。
「その……キミは俺の事を知っていると思っていたから……」
確かにホシドとハイドは似てると感じてはいた。
そもそもアヤカシ姿になっても顔は同じだし彼の声で気が付くべきであったが、ハイドに対して"恋は盲目"に近い状態すぎて全然気にしていなかった。
それよりも。
(どうしよう。幼馴染のホシドが……ハイド様なんて……私はどう接すれば……)
ヒマリは俗に言う"ガチ恋²"をハイドにしている為、命の恩人であり幼馴染としか見ていなかったホシドが"ガチ恋"の相手となるので非常に困るしか無かった。
(……もう、普通の目でホシドを見られなくなるじゃん。ただの幼馴染なのに?こんなの他のファンにバレたらヤバい……怒られる)
「ヒマリ。顔を上げてくれないか?」
「む、無理……です」
「ヒマリ……」
ふと、両方の頬に手を添えられて顔をゆっくり持ち上げられた。
(顔が近い、良い匂い。頭おかしくなる)
「み、見ないでよ」とヒマリは赤くなってしまっている頬と抑えられない脈の早さに戸惑い、顔を持ち上げてきたホシドから目を逸らそうとしたが彼と目が合い……。
「……キミの気持ちが"ハイドに向けられたもの"だとしても……嬉しいよ。ありがとう」
(――ッ。……?)
目の先にいたホシドは、一瞬戸惑って視線を外したと思ったが、ヒマリを見つめながら応える。
彼も同じように頬が赤くなり恥ずかしがってる……?でも、どこか悲しみが伝わってくるような表情であった。
「ホシ……ド?」
ホシドはヒマリの頬から手を離すと表情は瞬時にクールな顔付きへと戻る。
「……さて、と。仕事の時間だヒナド」
「はいよ。んじゃ、ヒマリは僕たちの仕事が終わるまでそこで待ってるか、好きにしていいぜ」
「ありがとう。でも、私は引越し先に行かないと……」
「さっきは向かう途中だったのか。なら終わった後に俺が連れて行ってやるから、座って休んでるといい」
「ッッッん。は、はい」
ヒマリはホシドにそう言われると、声にならないような返事を素直にする。
(は、ハイド様の顔でそんなことを言わないでよ)
複雑な気持ちを抱えたヒマリは、再び戸惑い両手で顔を覆うと下を向いた。
(はぁ〜、ハイド様……ガチしゅき。生で見れるとか最高すぎかッッ)
思わず心の声が漏れそうになりながら、悶えたが聞かれたら恥ずかしいのでグッと堪えた。
時刻は23時のテッペンを過ぎて、ハイドとジキルが経営するバーから客が出ていき店内に静寂が訪れる。
ヒマリは客の邪魔にならないように、奥の席で座って話題の2人を眺めていた。
客同士が彼らの話をしていたので、こっそり会話を聞いていたら、どうやら此処はコンセプトバーらしい。
昔から2人を配信で観ていたが、その見た目のままでバーを経営してるのは知らなかった。
(ハイド様の歌……良すぎでしょ。夏を感じる明るい歌なのに、誰かを深しているみたいで少し切なくなったな……最高の新曲すぎ……でも、なんでバーを経営したり配信者をしてるんだろ?)
先に着替えをすませて、人間の姿に戻っているヒナドが別の部屋から出てくる。
「ヒナド!お疲れ様、めっちゃ最高だったよ」
「あぁ、ありがとな」
ヒナドは微笑みながら返事をすると、店内の片付けをし始めたので手伝う事にした。
「ヒナド手伝うよ」
「ん?助かる」
短いやり取りの間で、ヒマリはバーの事などを聞いてみることにした。




