2 涼月の再会②
「買い物帰りでキミが此処にいるとは思わず、声を掛けたんだ」
「驚いちゃった……こんな場所でまた会うなんて……あ、2年前は本当にありがとう。溺れた時に私を助けてくれて」
ヒマリにとってホシドは幼馴染であり、彼と共に遊んだ時に海で溺れたのを助けてくれた命の恩人でもあった。
「キミを助けた……?……あぁ。そうだったな、どういたしまして。ところでヒマリはなぜ此処に」
「えっとね……あっ……」
幼馴染との再会で喜びたかったが、水分補給もしていなかったヒマリの体は、暑さで限界を迎えており足元がフラついてそのまま倒れ込んでしまいそうになる。
地面へと体が崩れる落ちる前に、ホシドは察してヒマリの体を受け止めた。
「大丈夫か?!」
意識が朦朧として気を失う瞬間、ホシドの問いかけが聞こえてきたが、ヒマリは答えられなかった。
◆◇
(……ん)
冷たい風が体を包む感覚がする。
(夏なのに冷たい風。エアコンの風?)
分からないままヒマリはそっと目を開ける。
どうやら寝ていたらしくて、目の前に見知らぬ薄暗い天井が広がる。
(此処はどこだろうか?)
「おはよう。ヒマリちゃん」
「!?」
いきなり男性と思われる声が横から聞こえて来たので、慌ててヒマリが振り向くと話し掛けてきた本人と目があった。
「ん、あれ。ホシド……いつの間にかイメチェンでもした?」
「なに言ってんの?僕はヒナドだけど」
「は?ヒ、ヒナド?……」
ヒマリは何がなんだか分からないが、目の前に映るのはホシド……と物凄く似た男である。
よく見れば瞳の色がホシドとは違い、青色と対称的な赤色。
髪色は同じだが前髪をセンターに分けており先ほどと服装も違う。
思い出せばホシドには双子の弟がいると、聞いたことがあったような気がした。
「もしかして、ホシドの弟……さんですか?」
「なんだ、知ってんの?そうだよ、ホシドは僕の兄貴。とりあえず体調はどうよ」
「ん。大丈夫そう……です」
ソファで寝ていたヒマリが体を起こして、彼女と話しているヒナドの2人の間へ「……なら良かった」と誰か入ってきた。
入ってきた人を見るとヒマリは表情が明るくなる。
「ホシド!……もしかして、また助けてくれたの?……迷惑掛けてごめん。ありがとう」
「どういたしまして。ところでヒマリ、あの暑さだったから喉が乾いているだろ」
ホシドは片手で持つトレイの上から、ジュース?の入ったグラスを差し出してくる。
赤紫色でシュワシュワと美味しそうな音を鳴らし、中にはブルーベリーが浮かびグラスの縁にはレモンが刺さっていた。
「ここってバー……だよね。それ……お酒なんじゃ」
ヒマリはグラスを受け取ると部屋の中を見渡す。
今いるソファの斜め前には立派なカウンターがあり、背が高めの椅子が並んでいる。
カウンター裏には犬の顔のような形に縁取られたネオンサインがあり、その中に"cage"と文字が書かれた看板が飾られていた。
看板横の棚には色んな酒の入ったボトルが陳列されている。
部屋は先程の街なかと違って、ビンテージを感じる落ち着きある茶色がメインの内装をしていた。
「キミは未成年なんだから、酒を出すわけないだろ。これはカシスソーダのモクテルだ」
「モクテル?」
「そう。アルコールが入っていないドリンク」
「へ〜……ジュースありがとう。ホシドってバーテンダーやってたんだ」
「あぁ、そうだ。キミの横にいるヒナドも同じくな」
ホシドの話を聞きながら、モクテルへ口を付けて少し飲んだ後にヒマリは「そうなんですね。ヒナドさん」と彼の弟に話しかける。
「あぁ〜、なんかヒナド"さん"って辞めね?兄貴のこと呼び捨てだし……僕もヒマリって呼ぶからさ、呼び捨てで良いよ」
「あ、じゃあ。ヒナド……って呼びます」
「敬語も使わなくていいよ」とヒナドは軽く笑ったようにハハッと笑みを浮かべると、「そういえば」と続けて
「ヒマリはハイドのこと好きなの?」
「えっ!え?!」
急に好きなアイドルの名前を出されたので知ってる人がいたのかと、嬉しくなって脈が早くなり顔が赤くなる。
「僕、知り合いだからさぁ。彼の事をよーく知ってるんだよ。ヒマリのバッグにハイドのマスコット付いてるじゃん?だから気になってさ」
ヒナドは何故かニヤニヤしたような表情で、ヒマリのバッグを指さしながら聞いた。
「ヒナドはハ、ハイド様と知り合いなの?!す、好きというか。推しというか。いや、好きなのかな?初期の配信からずっと観ていて……」
ヒマリは思ってもいない情報を得たのと、語り出したい気持ちでつい早口になり頭がパニックとなる。
「好きなんだね。それにしてもハイド"様"か……ッ。良かったじゃんッ」
笑いをこらえる様にヒナドは肩を震わせて呟いた。
「……良かったじゃんって、どういうこと?」
「ははっ。何でもないよ……て、ヒマリと話していたら仕事の時間が近づいてきたから準備するか。行こうぜー兄貴」
「……」
「あ、ヒマリは体が良くなるまで此処で好きにしてて良いよ」
「あ、ありがとうヒナド」
状況がよく分からないままヒマリは、カウンターの横にある扉の中へ消えていくヒナドとホシドを見守る。
ヒナドに呼びかけられた時のホシドは凄くしかめっ面をしていたような気がするが、何故かは分からなかった。




