8 悪夢な記憶①
夢か現実か分からない狭間で感じた、脳裏に焼き付いた記憶が次々に浮かんでくる。
「……ここでは、死にはしない。ただ"下に堕ちる"だけだ」
あの時、ホシドの手から冷たい物が腹部へ刺された。
("ハイドの姿"をしたホシドから、刺されたのは怖かったし痛かった……でも、彼はそれ以上に何かを抱えていそうな、苦しい表情をしていた)
『お前はオレの世界に近づきすぎた。終わりだヒマリ……お前には懐かしさを感じる記憶なんて残されていない』
(私を知っていた誰かの声。懐かしさを感じない?何を言ってるの?)
分からない事だらけの世界から、ヒマリは突然に目を覚ました。
「……え?」
見慣れた天井が視界に入ってきたので、思わずそう声を出してベッドから体を起こす。
(どうなって……)
枕元に置かれていた自分のタブレットを拾い上げてスイッチを押すと、画面上に7月9日の00:30と表示されていた。
(戻されてる……?)
ヒマリは夜にあった出来事を思い出す。
(記憶が正しければ、リビング掃除の後だからホシドがあの声の主と会話をして……それから下に向かうはず……)
夢の世界でホシドから、時間の流れが違うと聞いたのを思い出したヒマリは、ループから抜ける手掛かりに繋がるかもしれないと思い、タブレットを持ち出してホシドの部屋の前へ向かった。
(このチャンス……活かさなきゃ。ヒナドに協力してもらおう)
ホシドの部屋は予想通りに灯りが付いており、ヒマリはそっと扉の隙間からタブレットの録画機能をオンにした。
「……あの女を夢へ堕とせ。お前がやることは1つだ。分かってるな?」
「……あぁ。分かってる」
(やっぱり……あの時と同じだ!)
ヒナドへ協力してもらうための、証拠を得たヒマリはタブレットをオフにして急ぎ足で音を立てずに自室へと戻る。
(もし、この後にホシドが下へ向かうなら夢の世界の話を聞いてみる……?)
数十分経った後にヒマリは下の脱衣所に向かった。
(この扉の先にホシドがいるか、いないかは分からないけど……えいッ)
――ガチャッ。
まさか本当にいるとは思わず、風呂上がりであろう体中が濡れたホシドと目があった。
彼は目をまん丸にして驚いた様子である。
「ヒマリ?」
「ご、ご、ごめんなさいッ」
そして勢いよく扉を閉める。
脱衣所から出てくるまで待っていれば良かったと、後悔したヒマリだったがふとホシドの体を見て思った事があった。
(背中……凄い傷だらけで痛々しかったし、腰のあたりに幾何学模様?ラインのようなタトゥーが上に向かって伸びてたな……なんだろう)
そのことについて考える暇もなく、閉じた扉の先からホシドが話しかけてくる。
「キミもシャワーを浴びたかったのか?」
「う、うん」
返事のついでに、はぐらかされる覚悟で夢の世界についてヒマリは聞いてみることにした。
「あのさホシド……信じてくれないだろうけど、聞いてほしいことがあって」
「なんだ?」
「私、ある夢を見たの。パステル色した可愛い不思議な世界でねハイドに出会って……それで、貴方は誰かの意思で私を消さなきゃいけなくて………"誰かの意思"は私の事を知ってて……で夢から覚めたら、日付けが戻ってるの……」
ヒマリが話を終えると夏なのに空気が冷えるような沈黙が長く続いた。




