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挫折した天才道士は俗世の加減がわからない ~趙旭傳 江湖逍遥録~  作者: 恋思川幹


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第十二話 帷幄の計

「昭霊護国公主様からの紹介状、確かに承りました」


 皇祖帝宮の責任者である、年配の知宮観事(ちきゅうかんじ)は姚凌霜様からの紹介状を恭しく受け取りました。


「趙旭殿に昭霊護国皇祖帝宮《しょうれいごこくこうそていきゅう》の一隅をお貸しいたします。客分の道士として、ご自由にお使いくださいませ」

「感謝いたします、知宮観事殿」


 どうやら都での後ろ盾を得ることができたようで、私はほっとします。



 寮房に借りた部屋で、趙旭様と私は作戦のおさらいをはじめました。

 魏修くんと貞衡ちゃんには魏成ちゃんをあやしてもらっています。


「姚師姐(スーシェ)のおかげで、計画の第一段階は達成できましたね」


 皇祖帝宮の後ろ盾をもらったことで、道士として都で活動することが容易になりました。


「ああ、ここから後宮の奥にいる妖魔を釣り上げる。そのためには釣り餌が必要だ」

「妖魔が垂涎を垂らして求めるもの。そして、後宮の妃が求めても不自然にならないもの、でしたね?」


 私は趙旭様が事前に立てていた作戦に基づいて、釣り餌の条件を口にします。


「妖魔も、魄と肉体は私たち妖精人と同じものですから……」


 半年ちょっと前の事件、鰐の妖精人である渡谷さんたちの顔を思い出します。

 彼らは霊気を浴びることができる池で霊力を手に入れようとして、事件を起こしました。


「霊力たっぷりの霊薬には食いついてくるでしょう」

「そうだな。そして、その霊薬は後宮の妃が求めても不自然ではないものがよい」

「……それでいて、皇帝陛下が買い与えたくなるようなものがいいですね」

「……買い与えたくなるような、ものか。何かあるか?」


 趙旭様がじっと私のほうを見つめてきます。

 私に妙案を出すようにと求められているのでしょうか。


「それにくわえて、効能が早く出て、噂が広がりやすいものがいいですね」

「効能と噂?」

「はい、効能が早く出なければ、噂になるのに時間がかかります。噂にならなければ、後宮の妃にまで話が届きません」


 霊薬と一言でいっても、種類は色々とあります。

 その中でわかりやすい効能が得られて、効果が早くでるものは。


「ここはやはり、若返りの薬ではないでしょうか?」


 女性たちの間で話題にしてもらうには、やはり美容に関する薬だろうと趙旭様に提案します。


「一杯飲めばたちどころに十歳若返る仙人霊薬……とはいかずとも、肌の潤いを取り戻し、小ジワも取り去れる下山道士の霊薬です」


 私たち修仙者が不老をえることは周知の事実であるので、その点も薬の権威を高めることに有効です。


「できなくはないが、不老である妖魔に必要なものか?」

「世の女性には必要なものですし、妖魔は効能がなんであれ、霊力がたっぷり含まれていればいいのです」

「そういうものか。この辺りで採れる霊草ならば適した調合は……」


 趙旭様が顎に手を添えて、実際に調合する薬を考えはじめています。


「あの……よろしいですか?」


 と、魏修くんが口をだしてきました。


「どうしましたか、魏修くん」


 話に参加したい様子でしたので、私が魏成ちゃんを代わりに抱き上げました。


「妃の身分であればお毒味役がつくのではないでしょうか?」

「いや、薬はあくまで釣り餌で飲ませるものではない。針はこちらのほうだ」


 魏修くんの疑問に、趙旭様は袖の中から茶碗を一つ取り出します。

 なんの変哲もない緑釉の茶碗です。


「こうした茶碗の底にあらかじめ符を描き込むことで、警戒される間を作らずに術を発動することができる」

「どんな術を仕込むのですか?」

「妖魔を妃の身体から追い出す逐邪離身(ちくじゃりしん)の術だ」


 事前に用意した符印を使うことで、口訣や道印、禹歩を省略して術を発動することができます。

 薬をいれた茶碗で薬湯を献じるふりをして、術の射程に収めれば目的達成ということです。

 茶碗を受け取った魏修くんはそれをぐるぐると眺めて考え込んでいます。


「この魯国は皇祖帝君や昭霊護国公主に守られている国です。ですから、修仙の術に対しても造詣の深い官吏も少なくありません」


 魏修くんがそのように告げました。


「茶碗に符が書き込まれていたら、毒と同じように宮廷に持ち込むことはできないと思います」

「母様に聞いたことがあります。父上のお召し物の柄にも誤解されないように注意が必要なのだそうです」


 貞衡ちゃんも話題に参加してきます。

 幼い二人ではありますが、やはり身近に触れられる情報の有無は大きいですね。


「そうなると、もう一工夫が必要になるか。助言に感謝する」

「はい」


 趙旭様が感謝の気持ちを伝えると、二人は誇らしそうな様子を見せました。

 国のために、父の仇討ちのために妖魔退治に貢献できているという気持ちがあるのでしょう。


「その辺りの手立てはおいおい考えるとして、霊薬作りからはじめよう」


 趙旭様は紙と筆を取り出し、さらさらと書き付けると私に突きつけてきました。

 そこには霊草、霊果、霊水と霊薬の素材が並びます。


「美桜(ビオウ)、そなたが集めてくる分だ」

「これを、私一人でですか?!」


 書き連ねられた霊草や霊果の名は、どれも霊山の奥、猛獣や妖獣がうろつくような場所で採れるものばかりです。


「危険なダンジョンでレア素材集めといったところですね」

「危険な霊山に魏修たちは連れて行けない。だが、子供たちだけを置いていくことはできない」

「それはそうですが……」

「修行と思って励んでくるといい」


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