21 告げられた言葉
「ごちそうさまでした」という食後の決まり文句を言った後、立ち上がって各々が食器を片付ける。
「美味しかったね」
最後の一皿を水盤の上に乗せると、穂乃実が満足そうに微笑みかけてきた。
「ああ、美味しかったな」
俺も表情を緩め、鸚鵡返しのように言葉を返す。
「お昼、誘ってくれてありがとう」
「いや、大したことじゃないし、全然いいよ」
「私ね。お父さんは小さい頃に家を出ていっちゃったし、お母さんもいつも仕事で夜遅くに帰ってくるから、こうして誰かと一緒に食事をしたのは久しぶりだったんだ」
穂乃実は感傷的にでもなったのか、ふと何かに思いを巡らせるように、自分のことを語り出した。
「誰かと一緒に食事をするのも、悪くないだろ?」
俺はそんな彼女を見つめながら、確かめるように聞いてみる。
「うん、そうだね。もう慣れちゃったせいか、寂しいと感じることはないんだけど、たまに少しくらい賑やかなのもいいかなって思っちゃった」
きっと一人が嫌だとか、そういうことではないのだろう。
それでも大方の人間は、誰かとの繋がりを感じたいと思うはずだ。無論、俺もしかり。
「また来ればいいよ」
「……いいの?」
「都合がいいことに、俺はいつも、暇をしているからな」
しんみりとした空気を吹き飛ばそうと、俺は軽く戯けてみせる。
すると穂乃実は「何それ」というように右手で口元を隠し、ふふっとひっそり笑った。
それから少し間を置いて、「でも」と話を切り出す。
「だったら、今度は私が料理をご馳走するよ」
「……いいのか?」
「もちろん! 今日のお礼もしたいし……そうだ! このプチっと占いのチョコ、その時まで取っておこうよ」
穂乃実はおもむろにショルダーバッグからチョコを取り出すと、すっと俺の前に持ってくる。
「いいけど、別に次の機会にする必要もないんじゃないか?」
「だってそうすれば、また会える口実ができるでしょ?」
「それは……まぁ、そうかもしれない」
本音を言えば、会うための口実は必要ないと思う。けれど、それも穂乃実が納得するために必要だというのなら、敢えて断る必要もないだろう。
「それじゃあ私、今日はこれで帰るね」
「わかった。またな」
「うん。お婆ちゃんも今日はありがとうございました」
「はいよ。気をつけて帰りなね」
「はい!」
玄関先まで移動し、俺はそのまま彼女を見送った。
足音が聞こえなくなるのを確認して、皿洗いでもしようと台所の方へ足を向ける。
まさにその時――
「香織梨さんも、穂乃実ちゃんには本当のことを言えなかったみたいだね」
祖母が不穏なことを言った。
「え……?」
「穂乃実ちゃんのお父さんね。十年前に亡くなっているんだよ」
卒然と告げられた祖母の言葉に、俺はその場で絶句するしかなかった。




