15 ねがいごと
入り口で穂乃実と偶然出会った俺は、スーパーを一緒に回っていた。
どうも穂乃実は買い物や料理をする機会が多いようで、食品や野菜に関してやたら詳しい。
「じゃがいもにも種類があるんだよ? 有名なのは男爵芋にメークイン……あとキタアカリかな?」
「……それ、何が違うんだ?」
けれどじゃがいもの種類なんて言われても、俺にはさっぱり違いが分からない。
「うーん、甘さや煮込んだときの溶けやすさが違うんだけど、カレーに入れるんだよね? それならメークインがいいかな。溶けにくくて形がしっかり残るんだよね」
「なら、それにするか」
一応説明は聞いたが、俺はあまり深く考えずに答えた。
「あ、でもこれは私の好みだから、あんまり参考にならないかも。逆にトロみを出したいなら男爵芋やキタアカリの方がいいし……」
すると、別に自分の好みに合わせる必要はないと、今度は他の選択肢の良さを説明し始める。
「別にいいよ。俺、そういうのよく分からないし。それに、穂乃実が美味しいと思うやつを試してみたい」
説明してもらえることは素直にありがたいのだが、結局自分で食べて確かめてみないことには比べられない気がする。
それとどうせ食べるなら、人が美味しいと思うものを食べてみたい。
「えへへ、ちょっと嬉しいな……」
穂乃実が少し照れたように笑う。
人に何かを共有し、それを肯定してもらえると嬉しいが、それが照れくさいというのはよく分かる。
俺も穂乃実に自分のことを打ち明けた後、安堵と同時に、激しい羞恥心に襲われた。
誰にも言えないが、夜寝る前に布団に潜り込み、「あ~~!?」と一人わしゃわしゃと髪を揉み散らかすほどに、あれは恥ずかしかった……。
それから、豚のこま切れ肉と焙じ茶のティーバッグを入れ、俺は自分の買い物カゴの中を見直す。
「俺はあと花林糖くらいかな。穂乃実は、何かあるか?」
ついでに、穂乃実が買うものも聞いてみた。
一人で買い物をしているわけではないから、俺の買うものを入れて終わりというわけにはいかない。
「え~と、この前切れたお醤油は買ったし、お肉も買ったから……」
穂乃実は自分の入れた物を指で差しながら、一つ一つあれこれと確認していく。
「うーん、……私も久しぶりに、お菓子買っちゃおうかな?」
確認が終わると、躊躇うようにポツリと呟いた。
俺が花林糖を買うためには、お菓子コーナーに行く必要がある。なら私もと、考えたのだろう。
迷いはみえるが、お菓子を買うことに決めたようだ。
「うわ~、懐かしい~」
お菓子コーナーの左奥に、ずらっと並べてある駄菓子を見て、穂乃実が感嘆の声を漏らす。
ティーバッグが置かれていた場所の真裏で、意外にも目と鼻の先だった。
穂乃実は全体をゆっくり見回したあと、ふと何かを見つけたようで、駄菓子が並べてある一番下の棚から、一つ手に取る。
「ねぇ、これ知ってる?」
右手を膝に当ててしゃがみながら、手に取った物を見せるようにして俺に聞いてきた。
四角くて長い、銀色のパッケージ。
「いや、知らないな」
俺はそれを知らなかった。
「そっか、知らないんだ。ちょっと残念」
「……ごめん」
「べ、別に謝ることじゃないよ。ただ昔、よくこれで遊んだな~って思って。でも、そうだよね。杜遥くんは記憶、ないんだもんね……」
心苦しいと言わんばかりの取り繕うような笑み。
それを見て胸の奥にチクリと、何かが突き刺さるような感覚を覚える。
でも、これは今回に限った話ではない。
それに、誰が悪いというわけでもない。
ただ、何も思い出せない自分に、どうしても自責の念を抱いてしまう。それだけだ。
「ごめんね? 嫌な空気にしちゃって……」
「俺こそごめん、何も思い出せなくて」
「杜遥くんは何も悪くないよ。思い出せないのは仕方ないことだもん」
そう言われても、俺は何も返せない。
「……これね、プチっと占いチョコって言うの。表に『なやみごと』や『ねがいごと』、『れんあい』なんかが書いてあって、裏に◎、○、△、×があるの」
「表を見ながら開けて、裏を見て占うのか?」
「うん、そう。ちょうど二人分あるし、買ってみようよ」
箱に入っている最後の一つを見て、穂乃実は左手にあるプチっと占いチョコを俺に差し出す。
占いなんて、当たることはない。当たったとしても、それは運がいいだけであって、占いの力ではない。
科学的に見ても、それは間違いないだろう。
それでもそういったものに、人は惹かれてしまう。
楽しいから。不安だから。あるいは夢をみたいから。
きっとそこには色んな理由がある。
けれど、それらは本当は全部繋がっていて、みんな幸せになりたいだけなんだと思う。
穂乃実は今、笑っている。
三十円のお菓子一つで、笑っている。
だったら、わざわざ水を差すようなことを言うのは野暮だろう。
「そうだな」
一言言って、頷きながら俺はそれを受け取った。




