表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
World Without Memory ~生きる希望を探して~  作者: 深山河 蜻蛉
第二章 夢の中の少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/15

15 ねがいごと

 入り口で穂乃実と偶然出会った俺は、スーパーを一緒に回っていた。

 どうも穂乃実は買い物や料理をする機会が多いようで、食品や野菜に関してやたら詳しい。


「じゃがいもにも種類があるんだよ? 有名なのは男爵芋にメークイン……あとキタアカリかな?」

「……それ、何が違うんだ?」


 けれどじゃがいもの種類なんて言われても、俺にはさっぱり違いが分からない。


「うーん、甘さや煮込んだときの溶けやすさが違うんだけど、カレーに入れるんだよね? それならメークインがいいかな。溶けにくくて形がしっかり残るんだよね」

「なら、それにするか」


 一応説明は聞いたが、俺はあまり深く考えずに答えた。


「あ、でもこれは私の好みだから、あんまり参考にならないかも。逆にトロみを出したいなら男爵芋やキタアカリの方がいいし……」


 すると、別に自分の好みに合わせる必要はないと、今度は他の選択肢の良さを説明し始める。


「別にいいよ。俺、そういうのよく分からないし。それに、穂乃実が美味しいと思うやつを試してみたい」


 説明してもらえることは素直にありがたいのだが、結局自分で食べて確かめてみないことには比べられない気がする。

 それとどうせ食べるなら、人が美味しいと思うものを食べてみたい。


「えへへ、ちょっと嬉しいな……」


 穂乃実が少し照れたように笑う。

 人に何かを共有し、それを肯定してもらえると嬉しいが、それが照れくさいというのはよく分かる。

 俺も穂乃実に自分のことを打ち明けた後、安堵と同時に、激しい羞恥心に襲われた。


 誰にも言えないが、夜寝る前に布団に潜り込み、「あ~~!?」と一人わしゃわしゃと髪を揉み散らかすほどに、あれは恥ずかしかった……。


 それから、豚のこま切れ肉と焙じ茶のティーバッグを入れ、俺は自分の買い物カゴの中を見直す。


「俺はあと花林糖くらいかな。穂乃実は、何かあるか?」


 ついでに、穂乃実が買うものも聞いてみた。

 一人で買い物をしているわけではないから、俺の買うものを入れて終わりというわけにはいかない。


「え~と、この前切れたお醤油は買ったし、お肉も買ったから……」


 穂乃実は自分の入れた物を指で差しながら、一つ一つあれこれと確認していく。


「うーん、……私も久しぶりに、お菓子買っちゃおうかな?」


 確認が終わると、躊躇うようにポツリと呟いた。

 俺が花林糖を買うためには、お菓子コーナーに行く必要がある。なら私もと、考えたのだろう。

 迷いはみえるが、お菓子を買うことに決めたようだ。

 

「うわ~、懐かしい~」


 お菓子コーナーの左奥に、ずらっと並べてある駄菓子を見て、穂乃実が感嘆の声を漏らす。

 ティーバッグが置かれていた場所の真裏で、意外にも目と鼻の先だった。

 穂乃実は全体をゆっくり見回したあと、ふと何かを見つけたようで、駄菓子が並べてある一番下の棚から、一つ手に取る。


「ねぇ、これ知ってる?」


 右手を膝に当ててしゃがみながら、手に取った物を見せるようにして俺に聞いてきた。

 四角くて長い、銀色のパッケージ。


「いや、知らないな」


 俺はそれを知らなかった。


「そっか、知らないんだ。ちょっと残念」

「……ごめん」

「べ、別に謝ることじゃないよ。ただ昔、よくこれで遊んだな~って思って。でも、そうだよね。杜遥くんは記憶、ないんだもんね……」


 心苦しいと言わんばかりの取り繕うような笑み。

 それを見て胸の奥にチクリと、何かが突き刺さるような感覚を覚える。

 でも、これは今回に限った話ではない。

 それに、誰が悪いというわけでもない。

 ただ、何も思い出せない自分に、どうしても自責の念を抱いてしまう。それだけだ。


「ごめんね? 嫌な空気にしちゃって……」

「俺こそごめん、何も思い出せなくて」

「杜遥くんは何も悪くないよ。思い出せないのは仕方ないことだもん」


 そう言われても、俺は何も返せない。


「……これね、プチっと占いチョコって言うの。表に『なやみごと』や『ねがいごと』、『れんあい』なんかが書いてあって、裏に◎、○、△、×があるの」

「表を見ながら開けて、裏を見て占うのか?」

「うん、そう。ちょうど二人分あるし、買ってみようよ」


 箱に入っている最後の一つを見て、穂乃実は左手にあるプチっと占いチョコを俺に差し出す。


 占いなんて、当たることはない。当たったとしても、それは運がいいだけであって、占いの力ではない。

 科学的に見ても、それは間違いないだろう。

 それでもそういったものに、人は惹かれてしまう。


 楽しいから。不安だから。あるいは夢をみたいから。


 きっとそこには色んな理由がある。

 けれど、それらは本当は全部繋がっていて、みんな幸せになりたいだけなんだと思う。


 穂乃実は今、笑っている。

 三十円のお菓子一つで、笑っている。

 だったら、わざわざ水を差すようなことを言うのは野暮だろう。


「そうだな」


 一言言って、頷きながら俺はそれを受け取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ