表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
World Without Memory ~生きる希望を探して~  作者: 深山河 蜻蛉
第二章 夢の中の少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/15

14 雨の日のお使い

 夢。夢を見る。

 夢の中で、幼い(・・)少女が泣いている。

 暗闇に包まれ、一人(うずくま)っている。

 どうして泣いているのか。泣いているのが誰なのか。

 気がつくと、彼女に向かって歩き出していた。


 それなのに、一向に前に進まない。

 焦りだけが募り、胸を締め付ける。

 どうしても彼女に声をかけたくて、必死になって走り出した。


 そうしてようやく彼女の元にたどり着くと、彼女がこちらに振り返る。

 泣きながら、何かを言っている気がする。けれど、何を言っているのか分からない。


 彼女に何かを伝えようとしてーー





「また……この夢か」


 朝、目が覚める。

 最近よく同じ夢を見る。暗闇の中、幼い(・・)少女がただひたすらに泣いている夢。

 俺は泣いている理由も、誰が泣いているのかも分からない。

 それでも夢の中で、彼女に何かを伝えようとした。その思いだけは目覚めたあとも強く残っている。


 あれは俺の過去と関係しているのだろうか……。


「考えても仕方ない……か」


 いくら考えたところで答えは出ない。思い出せないとは、そういうものである。

 俺は起き上がり、自分が寝ていた布団を畳む。


 今日は久しぶりに雨が降っていた。

 晴れた日のカラッとした暑さとは違い、じめじめとした暑さが身を包む。

 ザーッという雨音を聞く分にはいいのだが、こうも蒸し暑いとどうしても気分が上がらない。

 それに雨の日は一日中家の中で過ごすことになる。

 することがないというのも、俺にとっては苦痛なのだ。


 少しどんよりとした気持ちで、昨晩の残りの味噌汁と焼き魚にかって朝食を食べる。

 すると、食べ終わりに祖母がやってきて、お使いを頼まれた。

 いつも自分で買い出しをしているはずなのに、今日は他に何かやることでもあるのだろうか。


「スーパーへの行き方と買ってきてほしいものは紙に書いたからの。ゆっくりでいいすけな」


 そう言って、祖母は自分の寝室に歩いていった。


 食器を片付け、出掛ける準備をする。

 傘をさし、雨の日にこうして外出するのは初めてだ。

 心が躍るというほどでもないが、雨に濡れたアスファルトの匂いといい、思っていたよりも新鮮な気持ちになった。


 祖母のメモを頼りに、二十分くらい歩いたところでようやくスーパーにたどり着く。

 田舎で建物があまりないというのもあるが、他の建物に比べても明らかに大きく、遠くからでもスーパーを見つけることができた。


 傘を折り畳み、傘置に入れる。

 そうして祖母の買ってきてほしいものリストを眺めていると、


「あれ? 杜遥くん?」


 後ろから聞き覚えのある声が響く。


「偶然だね。こんなところで会うなんて」


 慌てて振り向くと、すぐ側に穂乃実が立っていた。

 白いトップスにベージュの薄手のカーディガンを軽く羽織り、淡い水色のロングスカートをひらひらと揺らしている。

 ウェーブのかかった長い髪をいつもなら肩の下あたりまで伸ばしているのだが、今日は後ろで結び、ポニーテールを垂らしていた。


「穂乃実も買い物に来たのか?」


 それ以外にないだろ、と自分でも思うが、とりあえず真っ先に頭に浮かんだ質問をしてみる。


「うん。私、基本的にお母さんも昼間は仕事でいないから、よくここに来るんだよね」

「……一人なのか?」

「え? そうだよ? あ、でも別にいつものことだし、寂しいとかはないかなぁ」

「そうか」


 一瞬目をぱちくりさせ、驚く素振りを見せるが、人差し指を顎に当てながら考えるように首を傾けた。

 初めて合ったときの、どこか切な気な表情が頭を過る。

 けれど本人が寂しいと感じていないのなら、俺が気にすることではない。


「杜遥くんはどうしたの?」

「俺は……祖母にお使いを頼まれたんだ」

「そうなんだ。何を買うの?」

「ちょうど、今それを確認してたところ」


 彼女は「ふーん」といって俺の右隣から、祖母の書いたメモを覗き込む。

 人参、じゃがいも、玉ねぎ、茄子、豚肉……


「これ、カレーの材料……?」

「みたいだな……」


 前に一度、俺は料理をしたことがある。

 その時に作ったのが、カレーだ。

 一日中家にいる俺に「カレーでも作っておくれ」と、祖母がやることを与えてくれた。

 ひょっとすると、今日も同じようにカレー作ってほしいということなのかもしれない。

 もちろん花林糖や(ほう)じ茶のティーバッグなど、それ以外にも色々書かれているが、どうしても一番上にあるものが目に入る。


「そっか。それじゃあ買い物しよ?」


 彼女は近くにある買い物カゴを二つ手に取り、差し出すようにして、俺に買い物を促す。


「え、一緒にか……?」


 思いがけない行動に、俺は彼女に問い返した。

 まさかとは思うが、一緒に回るつもりなのだろうか。


「あ、ごめん……嫌だった?」


 彼女はハッとしたような表情で、申し訳なさそうに聞いてくる。


 俺は別に、嫌なわけではなかった。

 むしろ一人で買い物をするより、きっと楽しいだろうと思った。

 ただ、スーパーには多くの人がいる。俺たちだけではない。

 だから二人で回るのは、少々恥ずかしかったのだ。


「いや、嫌なわけじゃないよ。一緒に回ると思ってなくて、ちょっと驚いただけ」


 だけどそれを直接口にするのは、もっと恥ずかしかった。


「な~んだ、よかった。私てっきり、嫌われてるのかと思っちゃったよ」


 彼女はほっと安堵するように笑う。

 嫌われてるとか、そこまで深刻に考えるようなものでもないと思うのだが、年頃の女の子がどう考えているかなんて、俺がわかるはずがない。


 とりあえず、俺は穂乃実と一緒に買い物をすることになった。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


 ようやくここまで連載することができました。

 もうお気づきかと思いますが、「第二章 夢の中の少女」は凪沢穂乃実を中心とした物語になります。


 次回からは穂乃実の魅力を多く描いていきますので、少しでも「可愛い」と思っていただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ