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World Without Memory ~生きる希望を探して~  作者: 深山河 蜻蛉
第二章 夢の中の少女

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13 遠い眼差し

 大きなストーリーの変更はありませんが、描写がやや淡々としていたため、加筆・修正のうえ再投稿しました。


 より楽しんでいただける内容になっていれば幸いです。

 夢。夢を見る。

 夢の中で、幼い(・・)少女が泣いている。

 暗闇に包まれ、一人(うずくま)っている。

 どうして泣いているのか。泣いているのが誰なのか。

 気がつくと、彼女に向かって歩き出していた。


 それなのに、一向に前に進まない。

 焦りだけが募り、胸を締め付ける。

 どうしても彼女に声をかけたくて、必死になって走り出したーー








 翌日、あの寂れた公園へ行くと、俺は一度自分の目を疑った。


 公園に入る前から、子どもたちの楽しそうな笑い声が響く。

 十数人の子どもたちが虫かごを囲うように集まっていて、その後ろでは親らしき人たちが談笑していた。


 この前来たときは時間が止まったとさえ感じるほど静かだったはずなのに、今日は驚くほどに賑やかだった。


 祐介たちに声をかけようと、俺は子どもたちの方へ足を向ける。

 そして一人、同年代くらいで見覚えのない人がいることに気付き、目を留めた。

 大人びた顔立ちをした、綺麗な女性。

 笑いながら、中腰になって子どもたちと会話をしている。


「あれ、東雲(しののめ)先輩もいるんですか?」


 偶然にも燦もその女の人に気付き、声をかける。


「あら、燦ちゃんじゃない。久しぶりね」

「お久しぶりです」


 彼女は中腰の姿勢からゆっくりと立ち上がって、落ち着いた様子でそれに応えた。

 先輩ーーそう呼んでいたが、いったいどういう関係なのだろうか。

 燦が丁寧に敬語を使う姿を初めて見たというのもあるが、目を細める表情といい、どことなく嬉しそうだった。


「その、今日はどうしたんですか?」

「え? ああ、昨日の夕方、祐介くんに誘われてね。珍しいものも捕まえたから、是非きてくれって」

「でも先輩、虫は嫌いでしたよね?」

「まぁ嫌いなんだけどね……。たまにはこうして顔を出すのもいいかなって」

「そうだったんですね」


 燦が相槌を打つように頷く。やはりいつもより、ほんの少しだけ声のトーンが高い気がする。

 俺は静かに、そんな二人のやり取りを後ろから眺めていた。 

 ほどなくして話が一区切りついたからか、不意に彼女が俺に視線を向ける。


「それで、そっちの君は誰なの?」


 当然の疑問。俺が彼女のことを知らないのと同じで、彼女もまた、俺のことを知らないのだ。


「俺は……」


 俺は応えようと口を開く。

 だが、


「彼は水瀬(みなせ)杜遥(もとはる)で、水瀬のお婆ちゃんの孫らしいですね」


 燦が振り返り、遮るように説明を始めた。


「そうなの? あのお婆ちゃんに孫がいたなんて驚きだわ」


 最初会ったときに燦に言われた感想と、同様の感想が返ってくる。

 元々俺と妹は都会で暮らし、祖母は一人暮らしをしていたようだし、周囲からは孫がいるようには見えないのかもしれない。

 それにしても、いささか驚きすぎな気もするが。


「私は東雲(しののめ)透架(とうか)。高三だから、燦たちとは一つ上の学年ね。あなたは?」

「え? えっと……」


 突然の問いかけに、俺は返答に窮す。

 俺は今、高校に通っていない。だからどう答えるのが正解なのか分からず、戸惑ってしまった。


「彼は私と同い年ですよ。」


 すると、燦が助け船を出すようにそれに答えた。

 何故知っているのか少し疑問だが、思い当たる節がないわけでもない。

 大方、祖母か祐介が話したのだろう。


「そうなんだ。えっと、杜遥くん……だっけ? よろしくね」

「はい。東雲先輩ですね、よろしくお願いします。」

「あはは……、初対面で急に先輩と言われるとちょっと恥ずかしいかも……。普通に呼び捨てでいいわよ」


 俺が先輩と呼ぶと、東雲先輩は照れたのか、含羞(はにか)むように呼び捨てを勧めた。

 けれど、すぐさま「それは駄目ですよ。」と燦が止めに入る。


「え、でも……」

「先輩は先輩ですから」


 流石に止められるとは思っていなかったようで、動揺する素振りを見せる。

 それでも燦が念押しをするように追い討ちをかけ、渋々といった様子で引き下がっていた。


 自分より歳上の人を呼び捨てにするのはこっちが気まずいので、正直ありがたい。



 それから、子どもたちと一緒に昆虫を観賞したり、祐介の作った昆虫にまつわるクイズなんかを解いたりした。

 途中、穂乃実が遅れてやって来たりもしていたが、やはり子どもたちにとってこういったイベントは珍しいのか、皆夢中になって楽しんでいた。


 特に子どもたちはゆっくりと動くオオクワガタに興味津々で、


「でっけぇ!」

「カッコよすぎだろ!」


 などと口々に騒ぎ、祐介も


「やっぱ森の王たる風格があるよな!」


 と、一緒になって盛り上がっていた。



 一つ、気になったことがあったとすれば、それは東雲先輩だ。

 どうやら彼女は地域の人や子どもたちに相当好かれているようで、自然と輪の中心にいた。

 祐介たちによると、燦はそんな彼女に憧れを抱いているらしい。


 だが、そんな彼女も、もしかすると何かを抱えているのかもしれない。


 そう思ったのは、東雲先輩が不意にこんなことを口にしたからだ。


「杜遥くんは、大人になるって何だと思う?」


 彼女はどこか遠くを見るように、夢中になっている子どもたちを見つめていた。

 俺は答えられなかったし、彼女もそれ以上は聞いてこなかった。


 けれど、その時に一瞬だけ、彼女の憂いを帯びた横顔が垣間見えた気がしたーー

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