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『異世界マーケティング ~剣も魔法も使えない俺は、勝てる仕組みで仲間を最強にする~』  作者: ポチ
黄金獅子編

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第二十八話 乙女たちの超必殺


 森の奥から姿を現した魔物の群れは、報告で聞いていた以上に多かった。


 獣型だけではない。岩肌を這う甲殻種に、低空を飛ぶ翼獣まで混じっている。旧街道を追われた魔物たちが、逃げる途中で同じ方向へ流れ込んできたのだろう。


「来るぞ!」


 ガルドの矢が先頭の一体を射抜いた。


 倒れた魔物を踏み越え、後続が押し寄せる。リゼットが剣を抜き、真正面へ飛び出した。


「ここから先には行かせないわよ!」


 一体を斬り伏せ、返す刃でもう一体の爪を弾く。右の斜面へ回り込もうとした魔物はガルドの二射目が落とし、反対側を抜けようとする個体にはフィーネの結界が立ちはだかった。


 その隙へセラの魔法が飛ぶ。


 三つの小さな魔法陣から放たれた炎が、狙った魔物だけを正確に撃ち抜いた。


「ああもう……! いつもなら、あそこ全部まとめて吹き飛ばせるのに!」


「絶対やめてよ!」


 リゼットが魔物の牙をかわしながら叫ぶ。


「橋まで吹き飛ばしたら、親方に殺されるわよ!」


「分かってるから我慢してるの!」


 本来のセラなら、もっと広く、もっと強く撃てる。


 だが、すぐ後ろには六十日かけて造ってきた石橋がある。その先では、職人や手伝いに来ていた住人たちの避難が続いていた。


 細かな魔力制御ができるからこそ戦えている。同時に、それが彼女の最大火力を封じてもいた。


「左から二体!」


 ノアの声にリゼットが反応する。


 一体へ踏み込み、もう一体はフィーネの結界が止めた。


「助かった!」


「まだ来ます!」


 五人の連携は崩れない。


 数は多い。それでも一体ずつ確実に倒し、橋へ続く道を守っていく。


 このままなら押し切れる。


 そう思い始めた、その時だった。


 ドン――。


 腹の底へ響くような衝撃が、山を揺らした。


 森の奥で太い木が倒れる。続けてもう一本。


 小型の魔物たちが道を開けるように散り、その向こうから巨大な影が現れた。


「……あれか」


 ノアが表情を引き締める。


 四足の大型魔獣。


 人間の倍以上ある巨体を岩のような外殻が覆い、額から突き出した太い角が樹木を容易くへし折っている。


 周囲の魔物など意に介さず、その視線は真っ直ぐ石橋へ向いていた。


「来る!」


 リゼットが前へ出る。


 大型魔獣が地面を蹴った。巨体からは想像できない速度だった。


 衝突する直前、リゼットは角をかわして側面へ回り込み、外殻へ剣を叩き込む。


 硬い金属音が響いた。


「っ……!」


 刃は入った。


 だが、浅い。


 大型魔獣が身体を振っただけで、リゼットは大きく押し戻された。


 ガルドの矢も目を狙ったが、頭を振られて額の外殻に弾かれる。


 セラが杖を構えた。


 大きな魔法陣が一瞬だけ浮かび――消えた。


「……ここじゃ撃てないわね」


「倒せないの?」


「逆。倒すだけならできる。でも橋まで巻き込む」


「それは絶対やめて!」


「だから撃ってないでしょう!」


 大型魔獣が再び迫る。


 リゼットが斬り込むが、やはり致命傷には遠い。


 その剣を見ていたセラの目が、不意に輝いた。


「リゼット! その剣、魔力の通りがいいのよね?」


「そうだけど?」


「じゃあ、私の魔力を全部そこに入れちゃえばいいんじゃない?」


 リゼットが一瞬だけ振り返る。


「……全部?」


「広く撃てないなら、一本に集めればいいのよ!」


「そんなことできるの?」


「やったことない!」


「ないの!?」


「でも面白そうじゃない!」


「面白そうでやること!?」


 そう言い返しながらも、リゼットの口元が少し緩んでいた。


「待ってください!」


 フィーネが慌てて二人を見る。


「それだけの魔力を一気に流したら、剣から溢れますよ!」


「あ」


「『あ』じゃありません!」


 セラは一瞬考え、今度はフィーネへ顔を向けた。


「じゃあ、フィーネが結界で閉じ込めて」


「私もですか!?」


「ベルナードの時、私たち二人で合わせたでしょう? 今回はその進化版よ」


「全然違うと思いますけど……!」


 セラはもう完全に楽しくなっていた。


「決まり! 可愛いヒロイン三人の、友情と絆の超必殺技よ!」


「急にすごく大げさになりました!」


「何よ。私たち、一緒に戦って、一緒に旅して、一緒に買い物して、枕投げまでした仲じゃない!」


「最後の二つ、今の戦いに関係あります!?」


「あるわよ。友情に!」


「そういうものなんですか……!?」


 大型魔獣の咆哮が三人の声をかき消した。


 リゼットが剣を構え直す。


「……でも、私たちならできるかも」


 セラの顔がぱっと明るくなる。


「でしょ!」


「リゼットさんまで楽しそうにしないでくださーい!」


 そう言いながらも、フィーネももう笑っていた。


 ノアが三人を見る。


「できそうか?」


「たぶん!」


「た、たぶんです!」


 セラとフィーネの返事に、ノアが一瞬黙った。


 最後にリゼットが言う。


「できるわ」


 迷いはなかった。


「分かった。じゃあ、その一撃を撃てる時間を作る。ガルド!」


「何秒いる」


「五秒!」


「長いな」


「頑張って!」


 ガルドはそれ以上何も言わず、矢を番えた。


 残った魔物が三人へ近づかないよう、次々と射抜いていく。ノアも戦場全体を見ながら、抜けようとする魔物の位置を伝え続けた。


 その間にフィーネが、大型魔獣の正面へ結界を展開する。


「いきます!」


 透明な壁へ巨体が激突した。


 凄まじい衝撃にフィーネの身体が揺れる。


「っ……長くは持ちません!」


「十分!」


 セラがリゼットの剣へ杖を向けた。


「じゃあ、いくわよ!」


「来て!」


 魔力が一気に流れ込む。


 青白い光が刀身を走り、リゼットの手の中で剣が低く震えた。


「こんなに!?」


 セラは満面の笑みだった。


「特大サービス!」


「まだ入るの?」


「最高の一撃にするんでしょ!」


 さらに光が強くなる。


 リゼットも楽しくなってきたのか、剣を見ながら笑った。


「……いいわね。じゃあセラ、全力ちょうだい!」


「喜んで!」


「リゼットさんまで乗らないでくださーい!」


 フィーネの声が響く。


 だが次の瞬間、彼女も杖を握り直した。


「もう……! 三人で最高の一撃にするんですよね!」


「もちろん!」


「だったら――私も全力です!」


 フィーネの結界がリゼットの剣を薄く包む。


 外へ溢れかけていた魔力がぴたりと止まり、すべてが一本の刃へ押し戻された。


「フィーネ、すごい!」


「まだです! もっと締めます!」


「じゃあ私ももっと入れる!」


「だから入れすぎですって!」


 三人とも笑っていた。


 セラの膨大な魔力。


 フィーネの精密な結界。


 それらを受け止めるリゼットの剣。


 三人の力が、一つになっていく。


「リゼット!」


「お願いします!」


 二人の声が重なった。


 その瞬間、正面の結界に大きな亀裂が走る。


 次の一撃で砕けた。


 大型魔獣が再び突進する。


 リゼットも地面を蹴った。


「――任せて!」


 真正面。


 巨大な角が迫る。


 それでもリゼットの顔には笑みがあった。


 剣の中には二人の力がある。


 背中にも二人がいる。


 セラも笑っていた。


 フィーネも笑っていた。


 三人とも、これから放つ一撃を心から楽しんでいるような、眩しい笑顔だった。


 リゼットの剣が閃く。



 世界が、白く染まった。



 斬撃が大型魔獣へ届いた瞬間、三人分の力が一気に解放された。


 だが、その力は四方へ爆ぜなかった。


 極限まで収束された魔力は大型魔獣の巨体を貫き、そのまま真上へ駆け上がる。


 轟音とともに、青白い光の柱が山から天へ突き立った。


 雲まで貫いてしまいそうなほど高く、目が眩むほど眩しい。


 なのに、誰も目を逸らせなかった。


 光の中を魔力が星屑のように煌めき、砕けた結界の粒子が無数の光片となって舞う。


 凄まじい。


 それ以上に――美しかった。


「……綺麗」


 避難していた誰かが、思わず呟いた。


 職人たちも、ラグナートから来ていた住人たちも、ノアも。


 ガルドさえ、一瞬だけ戦いを忘れて空を見上げていた。


 やがて光柱が細くなり、消えていく。


 その下で、大型魔獣の巨体がゆっくりと傾いた。


 そして地響きを立てて崩れ落ちる。


「……やった」


 フィーネが息を弾ませた。


 セラはすぐに胸を張る。


「当然でしょ! 友情と絆の超必殺技なんだから!」


「まだ言うんですか!」


 リゼットも剣を見ながら笑った。


「でも……今のは、さすがに凄かったわね」


「凄かったどころじゃないわよ! 天まで届いたのよ!?」


「分かってるわよ!」


 三人の笑い声が響く。


 その時、周囲に残っていた魔物たちが一斉に後ずさった。


 一体が森へ逃げ込む。


 それを合図に、残りも次々と反転した。


 巨大な仲間を一撃で倒され、そのうえ天まで届く光柱まで見せつけられたのだ。もう戦う気など残っていなかった。


「追うか?」


 ガルドが弓を構え直す。


 ノアは逃げていく群れを見送り、首を振った。


「いや。もう橋には来ないだろ」


 視線を戻す。


 石橋は立っていた。


 守り切った。



 ◇



 戦闘の余波で仮設足場の一部に歪みは出たが、橋そのものに大きな損傷はなかった。


 親方が一通り確認し、ノアへ振り返る。


「直しで一日か二日ってところだ」


「残り三十日しかないですけど……」


「二日遅れたなら、二日取り返しゃいい」


 周囲では、既に職人たちが倒れた道具を起こし、住人たちも散らばった資材を集め始めている。


「ほら、見物は終わりだ! 今日できるところまで片付けるぞ!」


 親方の声に、いくつもの返事が重なった。


 魔物に襲われたくらいで、ここまで積み重ねてきた仕事を止める者はいなかった。



 ◇



 残り三十日。


 競争は、最後の追い込みへ入った。



 《翠嶺の砦》では、ローディンが吊り橋の中央に立ち、通過試験を見守っていた。


 荷を満載した大型荷車が、ゆっくりと橋へ入る。


 最初の試験では、中央付近で橋床の揺れが予想以上に大きくなった。さらに風が谷を抜けると、横方向への揺れまで加わる。


 人が歩くだけなら問題ない。


 軽い荷車なら通せる。


 だが今回必要なのは、何年も大型荷車を通し続けられる橋だった。


「もう一度、補強する」


 ローディンは即断した。


「期限まで二十日もありません」


「分かっている」


「今でも通せないわけでは――」


「一度通ればいい橋を造ってるんじゃない」


 ローディンは橋を見上げた。


「完成させるなら、使えるものを完成させる」


 追加で呼ばれた橋梁に詳しい職人たちと、固定部や橋床を見直す。


 補強して、試す。


 また問題を見つけて、直す。


 時間は削られていった。


 それでも最終的に、大型荷車が安全に渡れるところまで仕上げてみせた。


 連続して何台も入れることはできない。


 荷車同士には十分な間隔を取る必要があり、強風時には通行を止める。


 制約は残った。


 だが、新街道そのものは安全で、勾配も緩やかだった。


 谷を大きく迂回せずに済む、十分に価値のある物流路だった。


「よし」


 最後の荷車が向こう岸へ渡り切る。


 ローディンはようやく小さく息を吐いた。


「これで試験に出せる」



 ◇



 《風穿ちの鷹》は、最後まで地中にいた。


 硬い岩盤へぶつかってから、掘削速度は目に見えて落ちていた。


 それでもイリーナたちは止まらない。


 岩質を確かめ、支柱を増やし、崩落しそうな場所を避けながら少しずつ掘り進んだ。


 残り十日。


 出口までは、まだ届かない。


「強く爆破すれば、一気に抜けるかもしれない」


 仲間の一人が言った。


 誰も簡単に口にしたわけではない。


 可能性はある。


 だが、強く崩せば天井まで持っていかれる危険もある。


 せっかくここまで掘った坑道そのものが埋まるかもしれない。


 イリーナはしばらく岩壁を見つめていた。


「……やめる」


 仲間が振り向く。


「いいのか?」


「良くないわよ」


 イリーナは悔しそうに笑った。


「ここまで来たんだもの。死ぬほど悔しいわ」


 それでも首を振る。


「でも、試験の日だけ通れて、そのあと誰かが埋まる道なんていらない」


 誰も反論しなかった。


「負けるのは嫌い。でも、人を殺してまで勝つ趣味はないわ」


 《風穿ちの鷹》の挑戦は、期限内には届かなかった。


 賭けには負けた。


 だが、最後まで冒険者として守るべき一線は越えなかった。



 ◇



 そして《黄金獅子》。


 期限が近づいても、旧街道では戦闘が続いていた。


「終わったら三日くらい寝るぞ、俺は」


 グレンが拳についた魔物の血を振り払う。


「私はお風呂」


 レティシアが即答した。


「ちゃんとした宿の。温かいやつ」


「俺だって風呂くらい入るぞ」


「あなたの場合、その前に食事でしょう?」


「両方だ」


 ユリウスは二人の会話を聞きながら槍を構えた。


「その前に終わらせよう」


 旧街道の最後の危険区域。


 魔物はまだいる。


 疲労も蓄積している。


 それでも九牙は九牙だった。


 ユリウスの槍が群れを切り崩し、グレンの拳が大型種を真正面から打ち砕く。


 レティシアの長い羽衣が空を舞い、逃げようとした魔物を絡め取り、そのまま別の個体まで薙ぎ払った。


 だが、戦っているのは三人だけではない。


 その後ろでは《黄金獅子》の支援部隊が、確保された区間へ次々と入っていた。


 荒れた路面を補修する者。


 橋を点検する者。


 六年間放置されていた宿場へ物資を運び込む者。


 危険区域には巡回の人員も配置されていく。


 前で九牙が道を奪い返し、後ろからギルドそのものが街道を蘇らせていく。


 期限目前。


 最後の魔物が倒れた。


 ユリウスは、山の向こうまで続く旧街道を見た。


「……繋がったな」


 グレンがその場へ座り込む。


「終わったぁ……!」


 レティシアも近くの岩へ腰を下ろした。


「もうしばらく魔物は見たくないわね」


「似た依頼が来たら?」


 ユリウスが聞く。


 レティシアは少し考えた。


「報酬次第ね」


「やるんじゃねえか」


「仕事だもの」


 三人の前には、六年間人の物流を拒んでいた旧街道が、再び一本の道として伸びていた。



 ◇



 《白樫の枝》も、最後の確認を終えた。


 期限を翌日に控えた夕方。


 試走を終えた荷車が戻ってくるのを見届け、親方がぽつりと言った。


「……終わったな」


 その一言で、張り詰めていた空気がほどけた。


「本当に間に合った……」


「途中で魔物まで来た時は終わったと思ったぞ」


「誰だよ、二日なら取り返せるって言ったの」


「俺だよ。取り返しただろうが」


 笑い声が上がる。


 ノアは周囲を見渡した。


 職人、運送業者、ラグナートから何度も山へ通ってくれた人々。そして《灰色の翼》の仲間たち。


「皆さん、ここまで本当にありがとうございました」


「何だよ、急に」


 親方が照れ臭そうに眉を寄せる。


「ちゃんと言っておきたくて。俺たちだけじゃ、絶対にここまで来られませんでした」


「そりゃ、お互い様だろ」


 運送業者の男が笑う。


「最初は仕事になるならってくらいだったけどな。途中からは、最後まで見届けたくなってた」


「こっちだって、久しぶりに面白い仕事だったよ」


 親方も笑った。


「毎日無茶ばっかり言われたけどな」


「それはノアさんに言ってください」


 フィーネの言葉に、リゼットまで頷く。


「それは本当にそうね」


「え、俺?」


 セラが胸を張った。


「まあ完成したんだからいいじゃない。途中で可愛いヒロイン三人が魔物まで倒したし」


「まだ言ってるの?」


「一生言うわよ」


「やっぱり言うんですね……」


 また笑いが広がった。


 ガルドは完成した道を眺め、短く言う。


「いい仕事だ」


 親方が嬉しそうに笑った。


「ああ。そうだろ」


 九十日。


 長かった。


 それでも、全員で最後までやり遂げた。


「明日、成功させましょう」


 ノアの言葉に、親方が拳を上げる。


「当たり前だ!」


 いくつもの声が、それに続いた。



 ◇



 九十日目。


 工事期間が終了した。


 《黄金獅子》――旧街道を再開通。


 《翠嶺の砦》――新街道と吊り橋を完成。


 《白樫の枝》――新たな物流路を完成。


 《風穿ちの鷹》――トンネルは期限内開通に届かず。


 だが、まだ勝敗は決まらない。


 王都から派遣された監督官が告げる。


「これより、最終輸送試験を行います」


 指定された貨物を実際に運ぶ。


 所要時間、輸送量、安全性、必要人員、運用費、そして継続性。


 最初に示された条件通り、最後は実際の輸送で決まる。



 最初に試験を終えたのは《翠嶺の砦》だった。


 新街道そのものは安定している。


 最大の難所である吊り橋では、大型荷車を一台ずつ渡らせるため時間を使った。


 それでも事故はない。


 指定された貨物は、すべて無事にラグナートへ届いた。


「《翠嶺の砦》――十一日」


 結果が発表されると、街から歓声が上がった。


「十一日だってよ!」


「今の道より全然速いじゃないか!」


「十分すげえよ!」


 現在の迂回路なら片道十四日から十八日。


 ローディンたちの仕事は、間違いなく成功していた。


 本人は派手に喜びこそしなかったが、仲間たちと顔を合わせ、静かに頷いた。



 次は《黄金獅子》。


 その日になると、ラグナートの城門周辺にはさらに多くの見物人が集まっていた。


 商人。


 宿屋の主人。


 職人。


 家族連れ。


 世界最高峰のギルドが、どんな結果を出すのか。


 ちょっとした祭りのような騒ぎだった。


「旧街道って、一番短い道なんだろ?」


 若い男が尋ねると、近くにいた年配の男が答えた。


「ああ。俺が若い頃は何度も通った」


「何日くらい?」


「荷を積んで、何事もなけりゃ十日前後だな」


「じゃあ《黄金獅子》もそれくらいか」


「いくら道を直したって、馬と荷車の速さまで変わるわけじゃねえ。まあ、その辺だろ」


 十日前後。


 それが見物人たちの間で一つの目安になった。



 だが、三日目。


 途中経過を聞いた人々が騒ぎ始める。


「……速くないか?」


「もうそこまで行ってるのか?」


 《黄金獅子》は、ただ旧街道を開いただけではなかった。


 復旧させた宿場を中継地点として使い、馬を交換する。


 護衛も区間ごとに交代する。


 誰か一人へ無理をさせるのではなく、ギルド全体で輸送を繋いでいた。


 五日目。


 予想以上の進み方に、城門前には早くも人が集まり始める。



 そして七日目。



「……おい」


 遠くを見ていた男が声を上げた。


「あれ、旗じゃないか?」


「まさか。まだ七日だぞ」


「でも……《黄金獅子》の旗だ」


 街道の先。


 小さく見えていた旗が、徐々に近づいてくる。


 その後ろには、指定された貨物を積んだ荷車の列。


「本当に来た……」


 城門前が静まり返った。


 やがて最後の荷車まで門をくぐり、監督官が貨物と記録を確認する。


「《黄金獅子》――所要、七日」


 一瞬遅れて、どよめきが爆発した。


「七日!?」


「昔より三日も速いじゃないか!」


「こんなに縮むのかよ!」


 旧街道を知る年配の男まで目を丸くしている。


「……こんな運び方があるのか」


 世界最高峰は、ただ強かったわけではない。


 圧倒的な戦力で旧街道を取り戻し、そのうえで組織力を最大限に使い、かつての街道以上の物流速度まで引き出してきた。


「これ、もう《黄金獅子》で決まりじゃないか?」


「七日だぞ。これより速くできるのか?」


「《白樫の枝》も立派な橋を造ったって聞いたけど……」


「橋が立派でも、荷車の速さは変わらないだろ」


 そんな声が、あちこちから聞こえてくる。


 ノアも七日という数字を静かに聞いていた。


「さすがね」


 リゼットが息を吐く。


「ああ」


「世界最高峰って看板、伊達じゃないわね」


 セラも素直に認めた。


 予想以上だ。


 それでも――。


 監督官が次の名前を読み上げる。


「続いて――《白樫の枝》」


 周囲の視線が集まった。


 七日。


 多くの観客が、既に勝敗は決したと思っている。


 ノアは立ち上がった。


「行こう」


 リゼットが頷く。


 セラも、フィーネも、ガルドも続いた。


 次は、《白樫の枝》の輸送試験だった。

【あとがき】


今回の異世界マーケティングは、「制約が生むアイデア」です。


セラは本来、大型魔獣を倒せるだけの火力を持っています。


ですが今回は、すぐ後ろに守らなければならない石橋があり、周囲には職人たちもいる。


「強い魔法を撃てば倒せる」という、いつもの方法が使えませんでした。


そこで生まれたのが、


セラの魔力をリゼットの剣へ集め、

フィーネの結界で拡散を防ぎ、

三人分の力を一本の斬撃へ集中させる。


という新しい戦い方でした。



仕事でも、自由に何でもできる時より、


「予算がない」

「時間がない」

「人が足りない」

「この設備しか使えない」


といった制約がある時の方が、意外なアイデアが生まれることがあります。


使えるものが限られているからこそ、


「今あるものを、別の使い方ができないか?」


と考えるようになるからです。



今回も、


セラの魔法、

リゼットの剣、

フィーネの結界。


どれも新しく手に入れた力ではありません。


今まで持っていた三人の強みを、これまでとは違う形で組み合わせただけです。



……まあ本人たちは、


「可愛いヒロイン三人の、友情と絆の超必殺技!」


と楽しんでいましたが。


それも含めて、三人らしい新しい必殺技になったのではないでしょうか。



そして王都指定案件はいよいよ最終輸送試験へ。


世界最高峰《黄金獅子》が叩き出した記録は――七日。


次はいよいよ《白樫の枝》です。



ここまで読んで面白かったら、評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。


次回もよろしくお願いします。

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