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婚約破棄も国外追放も望むところです ~王妃より魔道具師になりたいのですが~  作者: 白キツネ


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13/24

13.聖女様からの手紙

 卒業まで、あと一か月。


 そんな時期になって、私はアルベルト殿下が私との婚約を破棄しようとしているらしい、という話を耳にした。


 それも卒業パーティーという大勢の貴族が集まる場で、私がソフィアへ行ってきた数々の嫌がらせを明らかにし、その場で婚約破棄を宣言するつもりなのだという。


 最初にその話を聞いた時、私はさすがに腹が立った。もちろん、アルベルト殿下との婚約を失いたくないからではない。

 むしろ解消されるというのなら歓迎したいくらい。

 

 けれど、問題はその方法。私と殿下の婚約は私たち二人だけの意思で結ばれたものではない。王家とヴァレンティア公爵家との間で決められたものだ。

 ならば婚約を解消したいのであれば、まず王家から公爵家へ正式に申し入れ、両家で話を進めるのが筋だろう。

 少なくとも、卒業パーティーの場で突然私を断罪し、その勢いで婚約破棄を宣言するようなものではない。

 

「……どうして、わざわざそんな面倒なことをするのかしら」

 

 普通に婚約を解消したいと申し出てくれれば、喜んで応じるというのに……

 それをせずにわざわざ私を悪者に仕立て、大勢の前で婚約を破棄しようとしている。しかも本人は秘密裏に準備しているつもりなのだろうけれど、こうして私の耳に入っている時点で、その計画がどれほどいい加減なのかもよく分かる。

 

 怒るというよりも考えれば考えるほど呆れてくる。殿下が何を吹き込まれて、そんな考えに至ったのか。ソフィア自身はどう思っているのか。一度きちんと話したいと思っていたその時だった。


「レティシア様」


 一人の令嬢が私の名前を呼ぶ。


 放課後の人が少ない時間帯、空いているこの教室を借りている事を知る人物はほとんどいない。

 それなのに、彼女は私がいる事を知ってこの教室に入ってきた。


 同じ学園の制服を着ているけれど、普段親しくしている相手ではない。何よりも彼女を見た覚えもなかった。


「……何かしら?」


 彼女がどんな動きをしても対応できるよう、席から立ち上がり、廊下までの道のりを確認する。

 そんな私を気にする事なく、彼女は周囲を確認し少しだけ私との距離を縮める。


「ソフィアちゃ――あっ、コホンッ。聖女様からお手紙を預かっています」


 あまりにもわざとらしい咳払いだった。私は思わず彼女の顔をまじまじと見る。


「あなた、ソフィアと親しいのね」

「えっ。そ、ソンナコトナイデスヨー」

「今、ソフィアちゃんって言いかけたでしょう?」

「……聞こえていましたか」

「はっきりとね」


 令嬢が気まずそうに視線を逸らす。

 

「あなた、ソフィアとは昔から親しいの?」

「え?」

「『ソフィアちゃん』と呼ぶくらいだから」

 

 令嬢は少し迷ってから、観念したように頷いた。

 

「……子供の頃からの友人です」

 

 その言葉を聞いた瞬間、遠い記憶の中で明るい少女の声が蘇る。

 

『クッキー、どうだった?』

 

 あの日。庭園で泣いていた幼いソフィアと出会い、私が生け垣の陰へ隠れたあとに聞こえてきた声。

 

 私は改めて目の前の令嬢を見る。

 

「もしかしてあなた、昔ソフィアにクッキーを作ったことがある?」

「……え?」

 

 令嬢が目を見開く。その反応だけで十分だった。

 

「やっぱり」

「どうしてレティシア様がそれを知っているんですか!?」

「少し事情があってね」

「まさかソフィアちゃん、あの時のことを……」

 

 そこまで言ってから、彼女ははっと口元を押さえる。

 

「またソフィアちゃんって言ったわよ」

「……もう聖女様っていうのは諦めます」

 

 肩を落とし、少し拗ねた様子の彼女に思わず笑ってしまう。昔は顔をまともに見ることもなかったけれど、あの日クッキーを作った少女と今もソフィアの付き合いが続いているらしい。

 それならソフィアが彼女に手紙を託したのも納得できる。

 ソフィアの友人なら問題ないだろうと思い、私は警戒を解くことにした。

 

「それで、その手紙をいただける?」

「あっ、はい!」

 

 彼女も本来の目的を思い出したらしく、彼女は慌てて一通の封筒を差し出した。

 

 受け取って封を開く。中の便箋に書かれていたのは、たった一文だけだった。

 

『このまま殿下と婚約したいですか?』

 

 しばらく文字を見つめる。今日耳にしたばかりの殿下の馬鹿げた計画が頭をよぎった。

 

「冗談じゃないわ」

「あー、ではこちらですね」

「……こちら?」

 

 彼女は当然のように鞄へ手を入れ、ガサゴソと音を立てながら二通目の封筒を取り出した。

 

「ソフィアちゃんから、レティシア様が『冗談じゃない』と答えたら、これを渡すように言われています」

「私の返事まで予想されていたの?」

「はい」

 

 何とも複雑な気分になりながら、二通目を受け取る。

 

 『でしたら、殿下との婚約を終わらせませんか? 詳しいお話をしたいので明日の放課後、旧図書塔まで来てください』

 

 読み終えたところで一つ気になることがあった。

 

「ちょっと待って」

「はい?」

「さっき、私が『冗談じゃない』と答えた場合はこの手紙と言ったわね」

「はい」

「では、別の答えだったら?」

「ああ、それでしたら――」

 

 彼女は再び鞄へ手を入れた。

 一通。

 さらに一通。

 そして、もう一通。

 次々と出てくる封筒を見て、私は思わず目を瞬いた。

 

「……何通持っているの?」

「さあ?」


 つまりソフィアは、私が最初の質問へどう答えるかを何通りも想定し、それぞれに別の手紙を用意していたらしい。

 バサバサと出てくる手紙の中で、たまたま私の近くに来た手紙を取る。


「これは?」

「レティシア様が『仕方がない』と答えた場合です」

 

 ……嫌な予感がする。

 

「読んでも?」

「もちろんです」

 

 『また「仕方がない」と言うつもりですか? 本当にそれでいいのか直接お話ししましょう。旧図書塔で待っています』

 

「……」

 

 私は黙って次の封筒を開封する。


『決まっていることと、レティシア様が望んでいることは別ですよね。旧図書塔で待っています』

 

 思わず額へ手を当てる。他の手紙を見てみても、結局旧図書塔へ連れていかれるではないか。


 ここまで用意周到なら、逆に確認したくなる事もある。

 

「ちなみに、一つ聞きたいのだけれど」

「はい?」

「私が『このまま殿下と結婚する』と答えた場合の手紙は?」

 

 令嬢は一度だけ瞬きをし、不思議そうに首を傾ける。

 

「ありませんよ?」

「……ないの?」

「ソフィアちゃんが、『レティシア様が本心からそう答えることは絶対にないから、用意しなくていい』って」

「あの子は……」


 まったく、私が何と答えるのかすっかりお見通しということね。


「……最初から私に選ばせる気なんてないじゃない」

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