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シリアス軍事SFから来たメカ娘、かわいいがわからないので日常コメディを破壊する 〜死の擬人化とマブダチになる模様〜   作者:
一章 マキナ、大地に立つ

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第5話 こちらエージェントJ

 天草はフードコートから出てきた二人を離れた柱の陰から監視しつつ、ジャケットの襟に口元を寄せた。


「こちらエージェントJ、対象が移動を始めた。追跡を続行する」


 返事はないが、天草は気にしない。それもそのはず、どこにも通信は繋がっていないのだから。


 50メートル先の通路では、きょろきょろと周囲を見回すマキナに、タナちゃんが右手を差し出していた。


『ご飯のお礼に、お買い物付き合うよぉ』


『知見をいただくのです』


 マキナはそれを受け取り、手を繋いで二人は歩き始めた。

 繋ぎ目がブランコのように揺れる。タナちゃんは足を大きく上げ、歩幅を広く進んでいった。

 後ろからだと、マキナがリードされているように見える。


 仲良しの姉妹みたいだ。本当に最終兵器なのか怪しくなってくるぜ。

 腰を低く、柱から柱を渡り、天草はその後を追った。


「なにあれー?」「ヤバい人いるんですけど」


 たとえ民間人に後ろ指を指されようとも、足を止めなかった。


 プロとして。


『わからないなら全部試してみたらいいんだよぉ』とタナちゃんは言った。

 おいやめろ馬鹿と天草は胸の中で叫んだ。

 マキナは立ち止まり、偶然そこにあったアパレルショップを見上げた。


『試してみる価値はあります。タナちゃんの全て試してみるという方法論には、一定の合理性が見受けられるのです』


「ねえよ!」

 思わず天草が叫ぶと、瞬時にマキナが振り向く。

 マズイっ。咄嗟に天草は膝から力を抜いた。


 マキナは首を振って周囲を見回した。


『どうしたの?』


 タナちゃんに手を引かれて、マキナは答える。


『いえ、不審な声を検知したのですが、足を滑らせただけのようです』


『ふぅん』


 タイルの地面は苦かった。襟がめくれて、ジャケットはずたずただ。

 鼻痛い。

 天草は地面に這いつくばっていた。倒れ込んだのはいいが、勢い余って額を強打した。


「……く」そがぁ、とぼやこうとして、慌てて口を押さえる。


 腕だけで前に進み、柱の陰から片目を覗かせる。マキナは向き直って、アパレルショップの方を向いていた。


 へっへへへ、お前の高性能センサーよりも、俺の直感とテクのほうが上だったみたいだな。なめるんじゃねえ。


 天草がにやけながら笑っていると『とりあえず全部買ってみるのです』マキナは店へと入っていった。


『さんせーい!』


 タナちゃんのハイテンションが、イヤホン越しに伝わってきた。


 従業員に見送られて店から出てきたマキナは、パンパンに詰め込まれた袋を両腕にぶら下げていた。バランサーがよほど優秀なのか、紅白歌合戦の衣装みたいになっているのにふらつく素振りもない。


 一歩前に出ていたタナちゃんは、正面のスポーツウェア店を指差して飛び跳ねた。


『次はあっち、行ってみよぉー』


『はいなのです』


 マキナが頷いて、休むまもなく二人娘は進軍を開始した。


 15分後、袋を倍以上に増やして店を出てくる。

 首の前後ろにもぶらさげているから、いよいよ通行人の注目を集めるようになっていた。


『次はそっちぃ!』


 入って、出てきて。


『そこの電気が暗いお店は大人だからぁ、こっちにしよ!』


 ハイブランドを避けて、若者向けの店へ。

 タナちゃんナイス、と天草はぐっと拳を握った。


 そこから出てくる頃にはもう、五重塔さながら袋が積み重なっていた。マキナだけではなく、タナちゃんも同じ状態だった。


『あっ、クレープ! 食べよぉ!』


 また食べて。


『風船だぁ、買って買って!』


 いらんものまで買って。

 誰もが二人にひれ伏すようになった頃に、ようやくマキナは言った。


『これ以上、持てないのです』


 ようやくだよ。天草は胸に手を置いて、軽く息を吐いた。


 タナちゃんは言った。


『サービスカウンターで郵送手続きしてくれるよぉ』


 おい、得体のしれないガキ、なに急に現実的なこと言ってんだ。やめろマキナ、真に受けるな、それ以上どこに置く気だ、家は広くないんだぞ、やめろ!


 マキナは一瞬だけ沈黙して、軽く頷いた。


『確認が取れました。新居の住所は把握済みなので、そちらに配達するよう手配しましょう』


『えぇ、マキナちゃん引っ越してきたんだぁ』


『はい。タナちゃんも近隣にお住まいですか?』


『うん、パパとママと、大好きなお兄ちゃんと、四人家族なんだぁ』


『マキナは二人家族です』


『今度お家に遊びに来てよぉ、お兄ちゃんにも紹介したぁい』


『前向きに検討しますです』


 などと雑談を交わしながら、階段を上ってサービスカウンターに向かっていった。

 天草は頭を抱えこんで、重い足取りで後を追った。

 いいかげん止めるか。そろそろ約束の2時間は経つはずだ。そうだそうしよう、少佐だってあんまり目立ちすぎるのは望んでないはずだ。


 よし行こう、そう思ったその瞬間に、イヤホンからタナちゃんの笑い声が聞こえてきた。


『お買い物、楽しいねぇ』


 マキナは見上げるタナちゃんに顔を向けて、5秒ほど間を開けてから答えた。


『はい。タナちゃんのおかげなのです』


 その横顔が、ほんの少しだけ緩んだように、天草には見えた。


 はぁ、とため息を吐いて、もう少しだけ付き合ってやるか、任務だしな、と天草は思い直した。


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