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【日間コメディー〔文芸〕連載中5位入り】シリアス軍事SFから来たメカ娘、かわいいがわからないので日常コメディを破壊する 〜死の擬人化とマブダチになる模様〜   作者:
第二章 となりのタナちゃん

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16/21

第16話 きっと今日のお食事会は、マキナの人生においてもっとも喜ばしい日になります

 近場のスーパーで手短に買い物を済ませ、タナちゃんの家を目指した。


 市街地を抜け、住宅街を並んで歩く。空はすっかり暗く、月も星もない夜空が広がっていた。

 ジーと音を鳴らす街灯が、やや前を歩くタナちゃんの影を映し出している。

 両手両足を大振りし、ネギの飛び出たレジ袋が振り子のように揺れていた。


「おにっくにおやっさい、みーんな楽しいご飯のじっかん。マキナちゃんふっくら、いずみ姉さんちょっとぱっつり、ぱっつぱつ」


 即興と思わしき歌を口ずさむタナちゃんの足取りは軽やかだ。


「ふふ、あんなにはしゃいで、よっぽど嬉しかったのかな」


 真横を歩いていたマキナが、いずみを軽く見上げた。


「ご飯を食べるのは、タナちゃんにとって嬉しいことらしいのです。以前、教えてもらったことがあります」


「あー、見たまんまって感じだね。けど、ふふ、タナちゃんと一緒は楽しそう」


「いずみ先輩も、やはりそのように感じるのですか?」


「え? うん、そうだけど、マキナちゃんは違うの?」


 マキナはタナちゃんの背中を見た。


「楽しいと思えたら、嬉しいのです。ですから、今日の夕食会には期待しています、です」


 いずみも後を追うように、タナちゃんの背中を見つめた。


 マキナちゃんも、やっぱりちょっと変わってる。楽しいと思ったことがないってことなのかな。雰囲気だけじゃなくて本当にロボットだったりして。

 まさか、そんなことあるわけないよね。でも無感情少女が悩んでるなら、一言くらいアドバイス。


「ねえマキナちゃん、楽しみたいなら、期待したり頭で考えたりするよりも、その場の雰囲気を感じたらいいんだよ。居心地がいいなって思えたら、それは楽しいんだよ」


 笑顔を向けると、マキナはいずみをじっと見つめた。


「いずみ先輩、それは武士道の精神なのですね。感服いたしました。やはり、只者ではないのです」


「解釈おかしくない?」


 マキナは小さく首をひねった。


 武士道精神。そんな重いものじゃないんだけどな、この子はほんと生真面目さんだ。


 いつのまにか歩調がゆっくりになっていて、振り向いたタナちゃんが「はーやーく」と手招きをしていた。



 そのような雑談を繰り返しながら、20分ほど歩き続けた。また景色は変わり、交通量の多い国道沿いに出てきた。


 それにしても、いつになったら着くんだろう。マキナに聞いても知らないと言われたので、いずみは直接タナちゃんに尋ねた。


「んーとねぇ、もうちょっと!」


 それからさらに15分も歩いた。だんだん車通りは少なくなっていき、山間へと近づいていた。

 いずみはまた尋ねた。ちょうど視界の奥に迫りくるタクシーが見えていた。もしあと30分とか言われたらあの車を止めよう。痛いけど、ちょっとくらいなら見栄張ってもいい。まあ、15分なら我慢しようかな。


「えっと、結構歩いてるけど、もう少しってどのくらいなの?」


「さぼりーまんのコーヒーブレイクくらぁい」


「わからないような、わかるような……いやわかんない、時間だとどのくらい?」


「2時か――」


 いずみは車道に踏み出し、迫りくるヘッドライトに片手を上げた。


「へいタクシー!」


 ハザードランプが点灯するのを見届けてから、いずみはタナちゃんに向き直った。

 自分の頬がひくついているのは、今は気にしないことにした。


「こ、ここからは車で行こっか。私が、お金は出すから、ね?」


「おぉー! さっすが姉さぁん」


「太っ腹なのです」


 パチパチと、マキナの拍手が響き渡った。

 徒歩で2時間、となると車で何分? 距離は? メーターは? お財布は?


「……よし、歩くよりはマシ……歩くよりはずっと……」


 目の前でタクシーが停車して、自動でドアが開いた。


 ぽつん、と雨がひと粒落ちてきたのは、その時のことだった。



 平地を抜け、車は山道を進んだ。

 暗黒の森林を、ヘッドライトの光だけが照らしている。路面は荒れ放題で、窪みを超えるたびに車体が大きく上下した。


 膝に両手を置いて後部座席で小さくなっていたいずみは、木々の合間から見える地上がもはや遠くにあることに気づき、自分はなにか過ちを犯したのではないかと考えるようになった。

 タナちゃんは陽気に道案内をしているが、行き着く先は誰にもわからない。


 雨足は徐々に強くなっていった。

 時折、曇天の空がまたたき、遅れてゴロゴロと雷鳴が聞こえた。


 やっぱり、今日は遠慮しておこうかな。このままタクシーと一緒に帰ったほうがいいかもしれない。帰りのこともあるし、時間も遅くなっちゃったし、それから、それから他にも理由はあるはず。門限があるとかで――


「いずみ先輩」


「ひっ、って、あ、ま、マキナちゃんか、どうしたの?」


「到着したようなのです」


 マキナが言うと同時にタナちゃんも「とーちゃーく!」と叫んだ。


 カチカチと音を鳴らして、車は路肩に停車していた。

 いつの間にか森を抜けているようだった。リアウインドウから外を見ると、ガードレールのすぐ奥が絶壁になっていた。

 闇のせいで、今いる場所がどれほどの高さなのか見当もつかなかった。


 運転手がメーターを止めて、乗車料金を告げてきた。

 今、今この瞬間しかない、一緒に下山するって伝えよう。タナちゃんには悪いけど、この状況は生きた心地がしない。


「あの、すみません、やっぱり私は」


「会食……いいえ、お食事会、楽しみなのです」


「え、あーそうだね、でも私は」


 頬を緩ませたマキナが、シートに手をついていずみに顔を寄せた。


「いずみ先輩に伝授していただいた武士道の心得を、是非実践したいと思うのです。正確に言えば、既に高揚感というものを認識し始めています、聞いてください、マキナは楽しみですと発言しました、自然に口から出たその言葉は、きっと人間らしい感情の発露に他ならないのです」


 いずみの喉が詰まった。純粋な子どものような視線が、胸にグサグサと突き刺さった。


 運転手が、お金の受け皿にとんと指を乗せた。


「ごめんなさいねえ、お話は降りてからにしてもらって、お代よろしいでしょうか?」


「す、すみません、えっと、う……じゃあ現金で……それと」


 マキナのことを思って、肝心なところで言い淀んでしまう。


 言おう、言うんだ、言え、雨は強くなるぞ、今日中に帰れるかわからないぞ。


 そのマキナが、胸元に両手を置いて、堪えきれないというように小さく笑った。


「きっと今日のお食事会は、マキナの人生においてもっとも喜ばしい日になります。こんな気持は、はじめてなのです」


「うっ、そ、そうなんだ……」


 なんでそんな重いことを言うの、なんで。


 マキナは身体が密着するほどに、顔を寄せてきた。


「早く、早く車を降りましょう。もう、待ちきれないのです」


 目を座らせた運転手が、とんとんと受け皿を叩く。

 いずみは目だけで二人を交互に見る。


「お金」


「さぁ、さぁ、早く行きましょうです」


 目が回る。思考が定まらない。自分を慕う後輩、家に送り届けてくれるおじさん。

 どっち、どっちを選ぶの、どっち。


「…………よし」


 いずみが決意すると同時に空が光って、車内が明滅した。


 その直後、ズンと轟音が轟いた。


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