表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【日間コメディー〔文芸〕連載中5位入り】シリアス軍事SFから来たメカ娘、かわいいがわからないので日常コメディを破壊する 〜死の擬人化とマブダチになる模様〜   作者:
一章 マキナ、大地に立つ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/21

第10話 これは深刻なバグなのです

 新居――街での生活拠点となるセーフハウスは、六畳二間の古いアパートだった。部屋は両方畳で、ところどころささくれている。

 2階建ての2階で、歩けば床が振動し風が吹けばトタンの壁がカタカタと揺れた。データによると家賃2万円、築45年の建物だという。

 選定者である天草は、窓枠に肘を置いて外を眺めながら、このように説明した。


「潜入任務ってのはそういうもんだぜ」


 よくわからなかったが、合理的な理由に基づく選定ではなさそうだった。


 マキナは畳に正座し、少佐に連絡を入れた。定時にはまだ早いが、今日は任務の完了を伝えなくてはならなかった。

 例によって1秒もせずに受話器は取られた。


『やあマキナ、おめでとう。無事中尉を救出したようだね』


「ありがとうございます。ですが、お褒めの言葉は返上させていただきます。この度は大変ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」


 マキナは、深く頭を下げた。

 少佐は即答した。


『それこそ返上させてもらうよ。謝罪など必要ない、君は君の思ったままに行動すればいいんだ。面倒な事後処理は、全てこちらで受け持とう』


「しかし」


 マキナの言葉を少佐は遮った。


『ならば命令だ。任務についている間、金輪際、人の顔色を伺ってはならない。君はその男と一緒に、毎日を自分で選び取るんだ。わかったね?』


「……はい、最優先命令にインプットしておくのです」


「よし」


 短い一言ながらも、その声色から少佐の機嫌が良さそうなのがわかった。


「それじゃあ、初日の報告を聞こうか。色々とあったが、世は事もなし。全ては丸く収まった、責任など感じずに、素直な気持ちを話してごらん」


 膝の上に置いた手に、なぜか力が入った。

 ぎゅっと拳を握りしめて、マキナは頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。


「かわいい、という感情を理解する目標は未達成ながらも、代わりに別の感情を知ることができた……かもしれません。タナちゃんと出会えたこと、一郎を助けられたこと……マキナの誤解でないのなら、本日は嬉しい日だったと思うのです」


 また、まただ、胸の奥に正体不明の熱源を感じる。

 エラーの一種だろうか、機械的な不良だろうか。診断プログラムは異常を発見できず、原因は判然としない。

 ただ、主観的には悪くない、どころか、心地いいとすら思えてしまう。


 これはとても深刻な、バグなのです。


『そうか……それはそれは……なにより……う』


 小さなうめき声を漏らしたかと思うと、少佐は黙り込んでしまった。

 10秒、20秒、30……時折鼻をすする音が聞こえるだけで、一向に発言してこなかった。

 2分が経過。少佐は深く息を吸って、ようやく声を発した。


『すまない……風邪の治りが悪いようだ……』


 初耳だった。対面時にもそのような兆候は一切見られなかったが、見落としていたのだろうか。

 マキナが身を案じると、少佐は平気だと答えた。


 通信を終えようとして、突如、思い出したというように少佐は付け足した。


『ああ、そうだ、その男にも話がある。悪いが、天草に繋いでくれ』


 マキナは通信を天草の端末に転送した。すぐに二人の会話が始まった。

 いくらか社交辞令的なやり取りの後に、少佐は言った。


『マキナを、よろしく頼む。さんざん厳しい言葉をかけてしまったが、本当は君にも期待しているんだ、ぜひとも彼女に社会というものを教えてやってくれ』


「へ? あ、は、はい。プロとして、誠心誠意任務を遂行する所存です、ハイ」


『頼む。本来であれば自身で努めを果たさねばならなかったのだが、立場がそれを許してくれなかった。君だけが頼りだ、君だけが……とにかく頑張ってくれ』


「は、はあ、そいつはどうも」


 天草は眉間にシワを寄せて、ちらちらとマキナを見た。ばつが悪いといった様子だった。

「なんで泣いてるんだよこの人」と小声で聞かれたので、「風邪なのです」と事実を伝えた。


 しばらく会話が続いた。20分以上にもなって、ようやく少佐は締めに入った。


『うむ……今日はこのあたりにしておこう……』


「お忙しい中、いやぁ、本当に少佐の気持ちはよく伝わりました。ええ、安心してください、今日はちょっとヘマしちまったんですけど、明日からは、期待に、いや期待以上に働いてみせます」


『ああ……そうだそうだった……その件なんだが』


 少佐は言った。


『君は減給だ……では、引き続き励んでくれたまえ』


 ガチャ、と受話器を置く音が響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ