第7話:休日の駅前集合と、不器用な勝負服
「……お待たせ、高橋くん」
連絡先を知らないまま、昨日の放課後に「土曜日の午前10時に駅前ロータリー集合」とだけ決めて迎えた休日。
約束の場所で待っていた僕の前に、彼女が姿を現した。
思わず、息を呑んだ。
いつもの制服姿や弓道着の凛とした佇まいとはまるで違う、清楚で少し大人っぽい私服姿。オフホワイトのブラウスに、風に柔らかく揺れる淡いブルーのフレアスカート。白銀混じりの金髪が初夏の眩しい日差しを反射して煌めいており、通りかかる人々が思わず立ち止まって振り返るほどの、圧倒的な美しさだった。
「……なによ。そんなにじろじろ見て。変かしら?」
結衣は居心地悪そうに自分のスカートの裾を指先でキュッとつまみ、蒼い瞳を不器用に泳がせた。
「ううん、全然。すごく……可愛いよ、白川さん」
「っ——! べ、別にあなたに褒められたくて選んだわけじゃないんだから! たまたまクローゼットの一番手前にあった服を着てきただけよ!」
ぷいっと横を向く結衣。
だが、その真っ白な耳たぶはすでにリンゴのように真っ赤に染まっている。
当然、『たまたまあった服』なわけがない。
«Έκανα τρεις ώρες να διαλέξω τι να φορέσω... Χαίρομαι τόσο πολύ που του άρεσε...»
(服を選ぶのに3時間もかかったんだから……可愛いって思ってもらえて、本当に良かった……)
――やっぱり、すべて丸聞こえだった。
3時間も悩んで服を選んでくれたのかと思うと、胸の奥がギュッと締め付けられるように甘く痛む。
「……じゃあ、行こうか。まずは予約しておいた映画館に向かおう」
「ええ、そうね。あなたがしっかりエスコートしなさいよ」
強気な口調で先を歩き出す結衣。しかし、休日の人混みで賑わう駅前通りに出た瞬間、周囲の視線や行き交う人々の波に少し気圧されたのか、彼女の歩幅が小さくなった。
「……わっ」
通りすがりの人と肩が触れそうになり、結衣が小さくバランスを崩しかけたその時、僕はとっさに彼女の手首を優しく掴んで自分の方へ引き寄せた。
「大丈夫? 人が多いから気を付けて」
「あ……うん、ありがとう……」
僕の手が触れると、結衣の体がびくっと強張った。
そして、離そうとした僕の指先に、彼女の細い指がぎこちなく絡みついてくる。
「……あ、あのね、高橋くん」
「ん?」
「は、迷子になったら困るでしょう? もしはぐれたら……連絡先も知らないんだから、探しようがないじゃない」
少し不安そうに、けれど必死に理由を作る結衣。
昨日、生徒会室で意地を張ってLINE交換を断ってしまった手前、それを理由に手を繋ごうとする彼女の不器用さが、愛おしくてたまらなかった。
「……だから、手、繋いで歩いてもいいかしら?」
「了解。絶対離さないよ」
僕が優しく微笑みながら彼女の手をしっかりと握り返すと、結衣の顔が一気に沸騰したように真っ赤になる。
「……っ」
繋いだ手のひらから、結衣の体熱と、規則正しくない速い鼓動が伝わってくる。
彼女は真っ赤な顔を俯かせ、聞こえないと思ったのか、またいつものように小さくボソボソと外国語を呟き始めた。
«Το χέρι του είναι τόσο ζεστό και μεγάλο... Δεν θέλω να το αφήσω ποτέ...»
(彼の手、すごく温かくて大きい……絶対に離したくないな……)
«Σήμερα... πρέπει οπωσδήποτε να ζητήσω το LINE του...!»
(今日こそは……絶対に彼とLINE交換するんだから……!)
初夏の澄み渡る青空の下。
ぎこちなく手を繋いだ二人の影が、アスファルトの上に並んでゆっくりと伸びていっていた。




