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病弱王子は私の漏れ出る癒しの魔力から離れられない  作者: たんぽぽ


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8/30

08 終わりと始まり

ここからしばらくしんどいお話になりますが、絶対ハッピーエンドになりますので、お付き合いいただけますと嬉しいです……!!

 あるところに、身体の弱い王子様がいました。

 子供の身体には余りある大きな魔力を持って病気で苦しむ王子様は、辺境の貴族の家で療養することになりました。

 そこで同じ歳の貴族の娘と出会い、友だちとして平和な日々を過ごしました。

 何年かをともに過ごし成長とともに少しずつ王子様の身体が強くなってきたころ、王子様を邪魔に思う悪者から命を狙われました。

 屋敷に火をつけられて、悪者に刃物を振りかざされて。

 王子様は大怪我をしましたが、癒しのチカラを持っていた娘の魔法で、何とか命をとりとめました。

 そして王子様は荒れた国をたてなおすため、王と兄王子を倒すため立ち上がったのです。






 「おうじさまは、おうさまをやっつけられたの?」

 「王子様は最強の英雄だからね。そして王子様は王様になり、優しい国を作りましたとさ」


 薄暗い部屋の隅。小さい義弟を膝に乗せて、ぎゅっと抱きしめながらお話を語り聞かせる。

 叶わなかった、本当になったら良かった願望のお話。

 

 義弟はあまり食べられていないので、子供ながらも骨張っていてとても小さい。

 私も似たようなものなので、人のことは言えないのだが。

 

 バンッ、と乱暴に扉が開く。

 ボサボサの灰色の髪の男が部屋に入ってきた。名前はバスコという、今の名目上の義父だ。

 私は素早く義弟を下ろして、2、3歩離れる。

 ズンズンと大股で歩いてきた義父に、乱暴に腕を引かれた。


 「今日もロクでもねェ日だったのに、ちょっくら金を取りに帰ってきたらこの態度かよ」


 逆上させないように気をつけつつ、何を言っても結果は変わらないので、目を合わせずに黙り込む。この男はただ鬱憤ばらしをしたいだけなのだ。


 「おい、こっち向けよ。お前のその薄気味わりィ人形みたいな顔がいつも気に食わねェんだよっ」


 固く大きな拳が振りかざされる。

 衝撃に備えて目をギュッと目を瞑った。


***


 屋敷が燃え崩れてから、怪我が治るまで衛兵医務室で手当を受けていた。ケイフォード辺境伯家には近しい親戚はいなかったのだが、遠縁が見つかったとかで引き渡される事になった。

 元ケイフォード領の隣、バーンズリー男爵領にある大きな街ロルカトル。その中の治安の悪い最下層の地域に親戚は暮らしているという。

 衛兵達は住所を聞いて顔を顰めていたが、今は国が荒れていて孤児院も良いとはいえない。

 子供の人数も多く、栄養的にも衛生的にも状態が悪い孤児院よりは、治安の悪い地域とは言え親戚の方がマシだろうと判断された。


 衛兵に連れられてやってきたロルカトルは人も多く栄えていて、道には沢山の屋台が並び、小物や服を売るエリア、果物や食材のエリアを通り過ぎ、いい匂いをさせた食事を売るエリアに差し掛かった。

 手を繋いでゆっくり歩いてくれている衛兵さんが、肉の串を3本買注文し、そのうち2本を渡してくれる。


 「これから新しい生活が始まるんだから、食べておけ。新しい家族が、良い家族だと良いな」


 その後、臭い匂いのする、人が地面に転がっているような路地を通り、辿り着いた先は高い塀のある小さな家だった。

 衛兵が扉をノックすると、出てきたのはくすんだ灰色のボサボサの髪、淀んだ赤茶色の目をした髭面の男。

 話が通っているらしく衛兵が2、3言話して、その男に引き渡された。

 衛兵が別れ際に、頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。



 「思ったよりきれェなガキじゃねェか。いくぞ」


 腕を掴まれ家に入ると、埃が溜まり服が脱ぎ散らかされた部屋に連れてこられた。

 小さな赤ん坊が床でずっと泣いていて、離れた所で身支度をしているのは赤茶の癖っ毛の女。


 腕を強く引っ張られて、床に放り投げられる。肩から床に倒れ込んだ所を、足で蹴り上げられる。

 ボールのように身体が浮いて床に落ちて転がった私に、男は言った。


 「お前の仕事は、掃除と洗濯。そこのガキの世話だ。サッサとやれ」


 頭上では赤ん坊が泣き続け、女は何も無かったように部屋から出て行く。

 新しい生活の始まりだった。




 衛兵は遠縁の親戚と言っていたが、ケイフォードの血を引いているのはどうやら義父のバスコの方らしかった。

 ケイフォードの血筋はプラチナブロンドが多く生まれるらしいので、その申し訳程度の灰色の髪にケイフォードが混じっているのだろう。

 義母のヌアラは小さな赤ん坊に乳だけ含ませ、興味なさげに外に出かけて行く。

 どうやら義父も義母も、それぞれ別の相手がいるようだった。


 生まれてすぐに興味を無くされた赤ん坊は、名前をクリスという。頭にちょこんと生えた髪の毛は白に近いプラチナブロンド。

 義父よりクリスの方がよほどケイフォードの色をしている、キレイな青紫の瞳の男の子だ。

 

 義母はクリスに乳だけは含ませていたので、私の仕事は食事以外の世話と、掃除と洗濯。

 家の外には高い塀に囲まれた狭い庭と井戸があり、水を汲んでは掃除や洗濯をし、自分やクリスの身体を拭いたりした。

 

 義両親は二人ともほとんどの時間を外で過ごし、時々別々に帰ってくる。

 義父が帰ってくると気まぐれに拳を振り上げ、気が済んだら幾らかの硬いパンを床に投げ捨て、また外に飲みに行く。

 小さな義弟に手を上げないのが唯一の救いだった。




 義父が出て行ったのか、扉が閉まる音がする。

 緊張の時間が終わった事にホッとしつつ、殴られた時に床に転がされたまま、起き上がる気にもなれずにボンヤリする。


 私は、両親とミーシャと一緒にケイフォードで死んでいて、今いるのはぬけがらのただの人形なんだから、殴ったって意味がないのに。

 生きている人間だと思っているのが実はからっぽの人形なんて、殴り損だね。ざまみろ。


 心の中で文句を言いつつ、寝転がってる頭の上から、ホギャァ、ホギャァと赤ん坊の鳴き声がする。


 薄暗い部屋、汚れた壁に、親に見放されて泣く赤子。

 これぞ地獄の三拍子。


 地獄の三拍子って、なんだそれ…!と、妄想の中の元気なミーシャが笑う。


 しょうがないなぁ、と痛む身体を何とか起こし、泣き続けるクリスの元ににじり寄る。


 「クリス、クリス。はいはい、よしよし」


 壁にもたれ床に座り込みながら、クリスを抱き上げ揺らしてあやす。


 「大きな声が出せてえらいね。ミーシャは動くことも話すことも中々できなかったよ。小さいうちから動いて泣いて、クリスは大物になるよ」


 話しかけながら、クリスの小さい手を握る。

 キュッと握り返されて、ミーシャが弱々しく握り返したはじめの頃を思い出し、腕の中の温もりにそっと額をすり寄せた。




 クリスが這い出す頃には、義母のヌアラは全く姿を見せなくなっていた。義父が私を殴った後に放り投げる少ない食糧をクリスとふたりで分けて食べる。


 「ねね、ねぇね、ねね」


 クリスが這い寄り私の胸に抱きついてくる。癒しが漏れていて気持ちが良いのかもしれない。

 脇の下に両手を入れてクリスを持ち上げ、目の前でプラプラ揺らす。クリスはキャッキャと喜んだ。


 「クリスと私はすごーく遠い親戚で、少ししか血が繋がってないんだけど」


 お爺ちゃんの更にお婆ちゃんの、そのまたお爺ちゃんの妹の…みたいな気の長い話を聞いた気がするが、忘れてしまった。

 そんなことより大事なこと。


 「私もひとりぼっちだし、クリスもひとりぼっち。血の繋がりとか関係なく、私、クリスの本当のお姉ちゃんになるからね」


 クリスはせめて、ちゃんと大人になって欲しい。

 大人になれなかった、ミーシャの分まで。

 ミーシャと一緒に死んでしまって、ぬけがらの人形になってしまった私の分まで。


 お姉ちゃんが、頑張るから。

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