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病弱王子は私の漏れ出る癒しの魔力から離れられない  作者: たんぽぽ


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05 責任

 柔らかい朝日がミーシャの頬とサラサラの金髪にふりそそぐ。優しい光に包まれて天使のようにキレイなミーシャは、その金色の髪に光を反射させてキラキラしている。瞼を縁取る長いまつ毛が頬に影を落とすさまは、さながら芸術品のようだ。

 昨日は熱が高かったミーシャだが、今朝はすっかり下がったようで呼吸もすよすよ安定していた。


 「おはよう、ミーシャ」


 起きてるかな、まだ寝てるかな。小さい小さい声で目の前の顔に囁いてみる。


 「むにゃ……おはよ、エリー……」


 半分夢の中にいるような返事が返ってくる。

 昨日は熱が高かったから、まだ疲れているのかな。

 優しく頭をなでていると、またすよすよと眠りに落ちた。




 私たちは7歳になり、ミーシャはまた少し背が伸びた。

 背が伸びたと言っても、長い間食事を取れずに伏せっていた身。平均身長の私よりは随分小さく、細くて、軽い。それでも時折、完全に熱が引く日が出始める。

 熱が下がった時はベッドから降りて、ゆっくり歩くこともできるようになったが、それでもやはり高熱が出ることも珍しくはなかった。


 昨日のミーシャも熱が高くて、相変わらず私の腰に力無く両腕を回し、お腹に頭を埋めていた。昨日は少し暑い日で、熱の高いミーシャがくっついて私も汗をかいていたので「私、汗臭いよ」と言ったのだが「エリーが、くさい、はず、ない……」と言ったっきり、眠ってしまった。


 ケビンや両親、使用人たちは、5歳の頃から毎日毎日、朝も夜もふたりでくっついてる光景に慣れすぎて、もはや風景の一部と化しているようだった。

 夜も変わらず一緒に眠っている。夜中に急激に具合が悪くなることもあるし、やはり元気な時も一緒にくっついて眠った方が翌日の体調が良いからだ。




 熱の無い日は、家庭教師にふたりでお勉強を教えてもらうようになった。

 ミーシャはとても頭が良くて、スイスイとお勉強を理解し覚えていく。私と言えば、ミーシャに比べたら凡才も凡才なので、よくミーシャに教えてもらっていた。


 お勉強が終わったら庭園に行きたいと言うので、ミーシャと一緒に手を繋いで庭に出る。

 お勉強ではミーシャに負けるが、庭園ではまだまだ私の出番だ。体力作り真っ最中のミーシャに合わせて、ゆっくりと天気の良い庭園を散歩した。


 「ミーシャがこの調子で元気になったら、王都に帰れる日も近いかもね」


 喜ばしくて、でもちょっとだけさみしいやら心配やらで、何とはなしに話しかけてみると、ミーシャが繋いでる手をぎゅっと握る。

 出会った頃の力の入らない握り方より、大分力が強くなった。


 「僕は、まだ王都には帰らないから」


 拗ねたような声で、ボソッと話す。

 そんなこと言っても、ミーシャは王子様だし。


 「だってミーシャは王子様でしょ。元気になったら王都に帰るんじゃない? ここは田舎だし、王都にはキレイなご令嬢もたくさんいるでしょ。ミーシャはキレイだから人気者だよ」


 首を傾げて話を続けると、ミーシャが真っ直ぐ私を見つめ、肩を両手で掴まれる。


 「僕は、エリーとずっと一緒に眠っているし、責任取るって言ったじゃないか」

 「そんなこと言ったっけ……? 責任って言っても、漏れ出る癒しの魔力で療養してただけじゃない?」

 「…………! それも、あるけど……! それだけじゃなくて……!!」


 ミーシャが顔を赤くして、視線を逸らす。

 どんな表情でもミーシャはキレイだ。苦しそうな赤い顔ばかり見てきたから、それ以外のどんな表情でも見せてもらえると嬉しくなる。


 「漏れてる癒しの魔力は、エリーの優しい魔力に包まれて、気持ちが良くて身体も楽になるから好きなんだけど、それだけじゃ、なくて……」


 いつもとちょっと違うミーシャ。彼の真剣な表情に、私もしっかりミーシャの顔を見つめる。


 「癒しがなくても、エリーの握ってくれる手や、一緒に眠ってくれる温かさも、手放したくなくて……」


 真っ赤になったミーシャが、目を逸らしたまま片手で口元を隠す。


 「何年も一緒に寝たのは責任取らなきゃいけないけど、責任だからエリーと一緒にいたいわけじゃなくて……」


 私は、ストンと理解する。


 「ミーシャは、私のことが、好き…………なの……?」


 真っ赤になったミーシャは唇を引き結んで、こくりと頷いた。


 「ミーシャ。私もミーシャは大好きだけど、婚約とか結婚になると、辺境の田舎娘には敷居が高いわ」    

 「僕は王位に興味もないし争うつもりもないから、ケイフォードに婿にくればいいじゃないか」

 「えぇ……? そんな簡単にはいかないよ……」

 

 ミーシャは今は熱を出して寝込むけど、もう少し大きくなればその大きな魔力も身体に馴染んで元気になる。

 もう、あれほど焦がれていた健康に過ごせる未来は、すぐそこにあるのだ。

 

 キレイで優しくて賢いミーシャ。

 ミーシャがどう思っていても、王都の高位貴族や令嬢たちが彼を放っておくとは思えない。

 そもそも、今はまだお互い子供同士だ。何年も先、立派な大人になったミーシャが、王都で私を覚えていてくれるのかさえわからない。


 「16歳。成人して、まだミーシャの気持ちが変わらなかったら考えるわ」

 「……わかった。絶対、王位継承権放棄してケイフォードに婿に入るから。絶対! エリーも16歳まで恋人も婚約者も作っちゃダメだよ……!」

 

 少しくすぐったいような気持ちと、呆れと、絶対無理だと思う気持がごちゃ混ぜになり、半ばヤケになって心の中で毒づいた。


 やれるものなら、やってみろ……!



 その夜、案の定ミーシャは高熱を出した。

 汗ばんだ熱い身体ではふはふしながらくっついてきて、私の胸に顔を埋める。


 「ほらぁ、感情動かし過ぎると、熱が上がるって」

 「エリーが、はなれるって、いうから……せきにんとって、くっつかせて……いや、ぼくが、せきにんとるぅ……」

 「あほなこと言ってないで、ほら、寝よう」

 「ケイフォードに、むこに、くるぅ……」


* * *


 私達の住むケイフォード辺境伯領は、クリスナリス王国の端、隣国との境目にある領地だった。

 森や丘、平原が広がる大地で、農業や林業で成り立っている領地であり、のどかで温暖、のほほんと平和な雰囲気の過ごしやすい土地である。

 隣国リデオケレスト王国とは4年前までは親交があったのだが、現在は途絶え国交は断絶している。

 しかし、私の母であるケイフォード辺境伯夫人はリデオケレスト王国の侯爵家から嫁いでおり、内々に微妙なバランスで均衡を保っていた。


 私とミーシャの情勢的な立ち位置は、似たようなものだった。

 ミーシャは、お母さまが隣国リデオケレスト王国の王女。

 私は、お母さまがリデオケレスト王国の侯爵令嬢。

 ミーシャのお母さまと私のお母さまはお友だちで、その縁でミーシャがケイフォードで療養しているのだ。

 

 半分隣国の血を引く第三王子と、半分隣国の血を引く私。

 そして、隣国の侯爵令嬢と婚姻を結んでいるケイフォード辺境伯領。

 今のクリスナリス王国では、隣国と関係が深いことは何をするにも心証が悪かった。


 そんな国の実情を体感することもなく、大人たちに守られて、私はのんびりと国の端の辺境伯領で過ごしていたのだ。

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