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病弱王子は私の漏れ出る癒しの魔力から離れられない  作者: たんぽぽ


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31 番外編5 ※クリス視点

 子供の頃の僕の記憶は、ほとんどが薄汚れた暗くて狭い部屋の中だ。

 

 その薄暗い景色の中で、唯一の光のように優しくて温かい存在がねえねだった。

 いつもぎゅっと抱きしめていてくれて、暗くても、お腹が空いても、ねえねがいれば辛くなかった。

 ねえねはいつも温かくて、ねえねの優しい気持ちがふんわりと身に染み込んでくるようだった。胸やお腹のあたりが特に温かい。


 ねえねの他には父しか知らなかったが、身体が大きくて力が強い父は、いつも僕の大事なねえねをその拳で叩いていた。ねえねは、父が乱暴な時は動かず喋らずおとなしくしているように言っていたが、ねえねは叩かれすぎてしばらく動けなくなる事もあり、とうとう我慢ができずに声を出してしまった。


 それからは、ねえねに癒しの魔力がある事が父に見つかり外に働きに行く事になったが、僕はその方が良いと思った。少しでも家から離れて、父に叩かれる時間が減った方が良い。その分、その拳は僕に向けられたが、ねえねが叩かれるよりは僕の方が良いと思った。ねえねは、自分の怪我は治せないのだ。


 父がいつも以上に拳を振り上げ、気を失うくらい叩かれたあの日、僕達の日常が一変した。

 ねえねがいつも話していたねえねの幼馴染、キラキラ王子様のミーシャ様が現れ、ねえねに甘えて独り占めしようとしていた。

 父はもちろん、ミーシャ様からも。ねえねを守るのは僕の役目。そう思って、いつも目を光らせていた。


 「エリシア様を守りたいのなら、将来は護衛騎士になったらどうですか? ずっと側でお守りできますよ」

 「ごえいきし……僕にも、なれますか?」

 「今から頑張れば、なれるかもしれませんね。よく寝て、よく食べて。体重が増えて来たら、私も剣を教えてあげます」


 「私の教えは厳しいですよ」と言うケビンさんに、嬉しくて抱きついた。

 僕の目標はねえねの護衛騎士!! ねえねを側でずっと守れるなんて、これ以上のものはなかった。


 相変わらずミーシャ様はねえねを独り占めしたがるが、僕は大人の対応でミーシャ様に譲ってあげた。

 ねえねと本当は一緒に寝たいが、僕には大きな目標がある。駄々をこねるミーシャ様に付き合っている暇は無いのだ。


 頑張ってたくさん食べて、しっかりと寝る。たくさんご飯が食べられるのは、とても幸せな事だ。ベッドも柔らかくて、床で寝ていた時のように身体が痛くならない。


 ねえねやミーシャ様が解放軍で忙しくして、南の本拠地フェリナセアの砦を留守にする事が増えて来た頃。

 僕は砦の戦士達に、剣を教えてもらえる事になった。

 タイミング良くケビンさんがいる時は、ケビンさんも教えてくれた。


 「威勢も良いし、根性もある。打たれ強くて粘り強いのも良い」

 「クリス。お前、結構バネが強いよな。器用だし剣筋も良い。結構イケるかもしれないぞ」


 王子様と一緒にいる、ねえねの護衛騎士になりたいのだ。

 結構イケるではなく、とても強くならなければ難しい事は僕にでもわかる。

 あんな、ねえねに甘えて独り占めしたがるミーシャ様は、あれでも解放軍最強のリーダーで、身分も王子様なのだ。


 「ねえねは癒しの魔法が使えるけど、僕は魔法は使えないのかな?」


 解放軍の戦士達は、魔力属性の検査をしてくれた。割と希少な「雷の属性」だと言われた。天気の雷みたいに、ピカッとしたり、バチバチしたりできるのだそうだ。


 「剣に雷を纏わせて戦うのもカッコイイよな。魔力量的に中々そんな事出来ないけどな」

 「魔力がたくさんいるのですか?」

 「まあまあ魔力量が必要だな」

 「魔力量を増やすのに、毎日体力の限界まで魔法を使えば良いと聞きました。やってみて良いですか?」

 「はあ!? どんなスパルタだよ!? 普通はそこまでして魔力を上げないぞ?」

 「ねえねは5歳の頃からやっていたと言っていました。僕も8歳なので、やってみて良いですか?」


 「いや、まあ……俺、怒られないかなぁ」と歯切れの悪い返事だったが、大人と一緒にやる条件付きで、許可をもぎ取った。

 それからは、剣と魔法に没頭する毎日で、砦や解放軍の皆が慌ただしくなった後「解放軍が王政派に勝利した」と砦が喜びに包まれ、僕は王都の王宮でねえねの弟として暮らすこととなった。



 キィン、カキィン、と、剣を打ち合う音が鳴り響く。

 王宮で暮らし始めて、新しく出来た騎士団の騎士養成学校に通わせてもらっている。

 ねえねに「剣をしっかり学びたい」と伝えたら「クリスのやりたい事をやればいいよ」と頭をなでてくれた。本気でねえねの護衛騎士を目指す事は、恥ずかしいからねえねには内緒だ。

 ニヤニヤしてるミーシャ様をキッと睨む。目標はねえねの護衛騎士と共に、打倒ミーシャ様だ。ミーシャ様は剣もとても強いと言うので、大分頑張らなくてはならない。


 「あっはっは……!! ミーシャより強くなりたいって!? そりゃあ面白い、協力してやる!!」


 王宮騎士団設立に尽力しているナザーレ様が味方に付いてくれた。ナザーレ様はミーシャ様と同じくらい剣が強いと言うので、これ以上無い強い味方だ。

 魔力も、毎日体力ギリギリまで使っていて、段々増えて来たような気がする。


 ねえねとミーシャ様が長い間想い合っていたのも知ってるし、ミーシャ様が魔法も剣も強い立派なリーダーで、ねえねを大事にしている事も知っている。

 ただ、甘えと独占欲がひどい。


 僕は、一生懸命剣も魔法も強くなって、ねえねの護衛騎士になり、何者からも、ミーシャ様からも、ねえねを守るんだ……!!

この後、番外編6のミハイル視点で完結となりますので、最後までお付き合いいただけますと幸いです。

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