30 エピローグ
王城の、王と王妃の夫婦の寝室で、ミーシャよりも先に目が覚める。
ミーシャがまだ小さかった頃、朝に中々起きられないのは具合が悪いからだと思っていたが、そもそもミーシャは朝に弱いようだった。
解放軍が旧王政派に勝利してからそんなに日が経っていないので、まだ私達の結婚を考えられる状況ではないのだが、ミーシャはこれだけは譲れないと王様の権限で、ひと足先に夫婦の寝室と共寝を強行した。
もちろん一緒に寝るだけの清い仲だが、元解放軍の皆もいつもの見慣れた光景だという、苦笑を滲ませた反応だった。
ここ毎日のルーティンとしては、私が先に起きて治療師体操をし、その間にのそりと起きてきたミーシャが朝の癒しをかけてくれる。私もミーシャに癒しを返して、一日のスタートだ。
若き王のミーシャは、元解放軍幹部と共に執務や視察をしている事が多い。
私も時々視察には同行するが、主な仕事はデイジーをはじめ元解放軍治療師チームと、各地の希少な癒しの魔力持ちの発掘及び確保、見習い治療師達の教育である。ゆくゆくは、王都をはじめクリスナリス全土の医療体制の整備を進めたいと思っている。
隙間時間に、ミーシャは鍛錬と帝王教育、私は王妃教育が入る。今の王宮はほとんどが解放軍のメンバーなので気安いノリで過ごしているが、先々の国交にはちゃんとした作法や教養が必要不可欠だ。なにせ、私達は8歳で教育が止まっているのだ。
教師は、リデオケレストの高貴な方々が良き先生を派遣してくれた。
王妃になるにあたって気になっていた私の身分だが、ケイフォード辺境伯の名前と領地が復活する事となった。クリスも弟として、一緒にケイフォードの籍に入った。
私はこのまま王都で過ごす事となり領地運営には携われないのだが、取り急ぎケイフォード辺境伯領の隣、南の解放軍があった領地のヤコビーニ伯爵が、自領と合わせて治めてくれる事となった。
ミーシャの側にはいつも変わらずケビンが控え、ナザーレも王宮騎士団に所属する事となった。
私の側には、ナザーレの妹、クァントレルのスジェンカが側に控える事となり、スジェンカ曰く「エリシアお姉様と姉妹になり損ねたので、その分お側でサポートさせていただきます!」と言う事だそうだ。私に足りない貴族的振る舞いのサポートをしてくれていて、とても心強い存在だ。
一日が終わりふたりでこの寝室に戻って来たら、ミーシャがもちもちと私の保湿をし始める。自分でやると言っているのに、中々譲ってくれることは無い。
その後、お互いにおやすみなさいの癒しをかけてひとつのベッドで就寝するのだが、時折ミーシャに晩酌に誘われる。
初めてミーシャに誘われた時は、お酒は好きだが弱いのと、変な酒癖があるらしいので一緒に飲むのは難しいと説得を試みたのだが、デイジーをはじめ治療師チームも説得済みだという事で、断りきれなかった。
それからは度々晩酌に誘われるのだが、翌朝のミーシャは少し切ないような覚悟を決めたような顔をしているので、やはり自分の酒癖は中々悪いようだった。
私を抱き込んで眠っているミーシャは、相変わらずとてもキレイだ。曲線を描いて枕に広がる長い金色の髪、目元に影を落とす長いまつ毛。柔らかい朝日を反射して、キラキラと光っている。
整った顔に、キレイな形の鼻と唇。小さい頃より大人っぽく丸みが減ったその頬に、そっと手を伸ばしてみる。
温かくて手触りの良い頬を気が済むまでなで続け、そろそろ起きようかと背中に回るミーシャの腕を外そうとしたのだが、ミーシャの腕に力が籠りぎゅうっと抱きしめられる。
ゆっくりと瞼が開き、そのキレイな碧の瞳がぼんやりと私を映した。
「おはよ、エリー」
「おはよう、ミーシャ」
朝、隣にミーシャがいて、おはようの挨拶ができる。当たり前の日常ではなく、ずっと願ってきた光景だ。
一言ひとことを大切に紡ぎ、この幸せに感謝しながらミーシャにおはようの癒しをかける。
碧の瞳に虹色が混ざり、朝の光をキラキラと反射する。何回見ても美しい光景だ。
ミーシャを癒し終わったら、碧の瞳に戻ったミーシャにふわりと癒しをかけられる。ミーシャの温かさが、優しさが。その気持ちがそのまま染み込んでくるようで、とても気持ちがよくて大好きだ。
幼い頃に私に抱きつき顔をすり寄せていた小さなミーシャは、病気を克服して強く大きい大人になれた。
王子様のミーシャと一緒にいられる未来が想像できなくて、一緒にいられる時間を大切に過ごして来たが、今もすぐ隣にミーシャの温もりがある。
ケイフォードの襲撃で、私の幸せも、私自身も、全てあの場所に置いて来たつもりで生きて来たが、生き延びていてくれたミーシャが私の全てを取り戻してくれた。
私もミーシャにぎゅうっと抱きつき、その逞しい胸に頬をすり寄せる。
私の幸せ。私の全て。
私は、ずっと彼と一緒に、これからを生きていくのだ。
この後、クリス視点とミハイル視点の番外編で完結となりますので、最後までお付き合いいただけますと幸いです。




