24 中央の拠点
数回の戦闘を経て第一王妃の実家ワイズミラー公爵領を無事に通り抜け、アーヴァイン侯爵領の解放軍中央の拠点に辿り着いた。
現王は、先王の第二王子で、第二王妃の息子だった。当時の第一王妃が先代アーヴァイン侯爵の姉であり、第一王子は甥だった。
当時の第一王子も魔力過多症だったが、無事に成長し病気を克服しつつあった。魔力も強く属性も多い、賢く真面目な第一王子は将来を期待されていたが、第二王子は周囲にチヤホヤ甘やかされて育ち、性格は高慢、能力は平凡だった。どちらが王に相応しいかは一目瞭然だったが、やはり第一王子と第一王妃は当時の第二王子派に暗殺された。
それ以降、王都の隣に大領地を持つアーヴァイン侯爵家は、王政から距離を取りながら当時の第二王子、現王及び王政派と対立している。
解放軍中央の本拠地は、アーヴァイン侯爵家の敷地内に設けられていた。
「殿下、よくいらっしゃいました」
アーヴァイン侯爵家当主、ネメシオ・アーヴァインと、先代当主、トールヴァルド・アーヴァインが出迎えてくれる。
「お久しぶりです、アーヴァイン殿」
ミーシャも挨拶をする。
「まず、彼女を紹介させてもらう。情報は共有出来ていると思うが、リデオケレストから認定された聖女、エリシアだ」
「お初にお目にかかります。元ケイフォード辺境伯が娘、エリシア・ケイフォードと申します」
「ケイフォード……! メルヴィン・ケイフォード殿のご息女か……! あの事件から、よくぞ生きて……!!」
アーヴァイン親子に手を握られる。
「父をご存知なのですか?」
「ああ。この荒れた国での領地経営の手腕やそのお人柄に、人望の厚い方だったのだよ」
現侯爵様が、懐かしそうに目を細める。
「エリシアは、魔力も、癒しの魔法の精度もすごいのですよ! ここに来るまでの戦闘でも、大活躍でした!」
デイジーが後ろからひょっこり出てくる。
「デイジーも久しぶりだな、健在か? デイジーがそう言うのならばそうなのだろう。まさに名実共に『聖女』と言うわけだな」
デイジーにぐりぐり頭をなでられながら、恥ずかしくて下を向いた。
それから、中央の拠点の会議に同席し紹介されて、解放軍の兵力を中央の拠点に集める、最終的な打ち合わせを行う。
その後デイジーに連れられて、中央の治療師達にも紹介された。
「かわいーーっっっ」
女性の治療師達に頭をなでまわされる。男性の治療師達は一歩下がって微笑ましげに眺めている。
「解放軍治療師チーム、最年少じゃない!? 可愛いーっ!!」
「エリシアちゃんが南に所属なんて、ずるーいっ!!」
「……こっそり中央でもらっちゃおっか?」
中央の女性の治療師達が、キャッキャと私をなで回す。
「ダメダメ!! エリシアはあげないわよっ!! 所属は、南!!」
デイジーがグイグイと割って入ると、中央の治療師達が口を尖らせて「ちぇー」「けちー」と文句を言う。
「あ! 王政派に勝ったら、エリシアちゃんは殿下に付いて王宮勤務じゃん!? ここ、南よりも王都に近いから、その時エリシアちゃんを愛でれば良いんじゃない…!?」
「それそれ!! 私達と仕事する機会、多くなるかもしれないし!!」
またキャッキャとし始める治療師達に、デイジーが釘を刺す。
「その時は、殿下がエリシアちゃんを側から離さないと思うわよ」
「……そうかしら、そうだよねー」
「念願だものねー」
皆が納得顔で、うんうん頷く。
ミーシャは、解放軍で私の事を何と言い続けていたのか
分からないが、とりあえず中央の治療師達に歓迎してもらえているようだ。
「改めまして、エリシアと申します。よろしくお願いいたします」
「私達は中央の治療師チームよ。治療師チームは、南北中央、3ヶ所合わせてひとつのチームのようなものだから、気楽に話してね!」
夕食は、中央の拠点ないしアーヴィン侯爵邸の広い庭園で、合流した南の解放軍と中央の解放軍での立食形式となった。
夕焼けの帷が落ちはじめ、各所に置かれたランプに火が灯される。
ミーシャはアーヴィン侯爵達をはじめ中央の幹部の方達と行動を共にしており、私は治療師チームに引っ張っていかれた。
今日はそのまま、明日の朝までミーシャとは別行動だ。
「エリシアちゃーん、このお肉美味しいわよ!」
「この色々なハムとチーズが挟んであるサンドイッチも美味しかったわよ!」
「治療師は体力仕事なのに、こんなに細いのはいけないわ。沢山食べて!」
中央の治療師達に囲まれて、甲斐甲斐しくお世話されるように食べ物を渡される。
デイジーは横で、うんうんと頷いている。
「エリシアちゃん、お酒って飲んだことある?」
「ないわよね。エリシアちゃん、16歳でしょ? 成人したし、試しに飲んでみたら良いんじゃない?」
「これからお付き合いで飲むこともあるかもしれないしね。具合が悪くなったら、私達が癒してあげるわ!」
確かに、これからお付き合いとかでお酒を飲む機会が増えるのだろう。治療師達も側にいるし、味見をしてみることにした。
遠目でミーシャを見てみたら、ミーシャもお酒を手にしている気がする。
「はい、エリシアさん。これは飲みやすいですよ」
男性治療師にお勧めのグラスを渡された。
グラスを傾けて、ちびりとひと舐めしてみる。
「……!!? 美味しい……!!!」
上品な甘さの果実酒だった。飲みやすくて、喉を通った後にふわっとくるアルコールがまた好みだった。
グラスの中で揺れる果実酒は、澄んだ金色。
ミーシャのサラサラの髪と同じ色だった。
「あ、エリシアちゃん、気に入った? それなら次も飲んでみようか! 明日二日酔いしたら癒してあげるから、好きなだけ飲んでみたら?」
治療師達に勧められて、食事をしながらお酒も飲んでみる。
「これで、好みや限界、酒癖も分かるから、これからのお付き合いも安心だしね! 今日はデイジーが寝るまで付き添うし」
「もちろん! 任せて!」
デイジーと治療師達が何やら話しているが、結構ふわふわしてきた。
お酒の味は好きだけど、あまり強くないのかもしれない。
夕方から夜になり、上を向けば広い夜空が広がっている。
濃い藍色の空には、柔らかい光をまとった三日月とキラキラと瞬いている満点の星。
まだ、王政派との戦いは控えているが、今、とても幸せだ。
今、とても幸せだが、これは本当に現実だろうか?
ミーシャが強く、大きく、大人になれた。大人のミーシャ出会えた今は、本当に現実だろうか?
本当はまだ、ロルカトルの最下層にいて、明日もダルドの診療所に行くのではなかったか。クリスは怪我をしていて、義父が帰ってくるのではないだろうか。
全ての幸せは、あの日ケイフォードに置いてきたままで、今、ミーシャに出会えて治療師達に良くしてもらえるこの幸せは、私の都合の良い空想ではないだろうか。
夢、ではないだろうか。
「エリシアちゃん、大丈夫ー?」
「あちゃー、お酒に弱そうだね」
そこまでは覚えているが、その後に話した内容は覚えていない。
目が覚めたらベッドに寝ていて、朝になっていた。
窓から入る朝日がキラキラと目に眩しい。
何がどうなったのか分からないままキョトンとしていると、隣のベッドから声がかかる。
アーヴァイン侯爵邸で、デイジーと相室だったのを思い出した。
「エリシア、二日酔いは大丈夫? 具合は悪くない?」
「具合は悪く無いけど、私、あれからどうなったの?」
「お酒に弱くて、記憶をなくすパターンね」
デイジーが少し渋い顔をした。
「エリシア、お酒は美味しかった? また飲んでみたい?」
「とても美味しかったから。……迷惑をかけないようなら、機会があれば……」
「うん、わかったわ……」
寝起きのデイジーが自分の額に手を当てて、難しい顔をする。
「まずね、エリシア。お酒に弱くて記憶を無くすみたいだから、公式の場ではやめておいた方がいいわ」
「うん……。もう飲まない方がいい?」
「お酒を飲むのは好きそうだから、飲みたかったら飲んで欲しいと思うけど、私達治療師チームで食事をする時だけにした方が良いと思う。もしかしたら、昨日の酒癖が毎回出るかもしれないし……」
「……酒癖が、悪かった……?」
「……悪くは無いけど特徴的だから、特に殿下の前ではやめておいた方がいいと思うわ」
ミーシャの前では特にダメ。暴れたり、服でも脱いだりしたのだろうか。
「私達はね。エリシアに、もっともっと遠慮なく、好きなものを食べたり飲んだりして欲しいと思っているの。今まで食べられなかった分も」
デイジーや治療師達の気持ちが、温かくて嬉しくなる。
「だから、治療師チームで食事をする時は、遠慮しないでわがまま言ってね。お酒もね」
パチンとデイジーがウインクする。
「うん、わかった。ありがとう、デイジー」




