23 番外編4 ※ミハイル視点
「ぐ……っ、うっ……」
左肩の肩当てと鎧の繋ぎ目から、敵の刃が肩を貫く。
しくじった……! と思いながらも、頭をフル回転させて状況の打開策を模索する。
氷の魔法は、相手を氷漬けにできるものの、肩に刺さっている刃まで凍って抜けなくなる。それなら。
躊躇無く、魔力を炎に変えて、目の前の敵を焼き払う。
間近の炎に敵だけでなく、肌が見えている顔も、鋼鉄製の己の鎧も、剣が刺さっている肩も、共に高熱に晒される。
己も焼けるが、まずは目の前の敵の殲滅が最優先だ。
解放軍の活動を始めてから4年。王都の隣の領地、アーヴァイン侯爵領から解放軍参加の約束を取り付けた。
アーヴァイン侯爵は、現王の兄の血縁だった。魔力過多症だった当時の第一王子は、病弱ながらも聡明で優秀だったという。やはり、病気の克服辺りで第二王子だった現王の派閥に暗殺され王政から手を引いた、現王政に恨みを持つ大領地だ。
これにより、解放軍中央の拠点を手に入れ、ヤコビーニ伯爵領の南の拠点に帰る途中だった。
中央から南に渡るには、王政派筆頭、現第一王妃のワイズミラー公爵領を通らなければならない。
案の定、襲撃を受けることとなった。
「殿下っっ!!」
ケビンが火だるまの敵を蹴り払い、俺の肩の剣を抜く。
「…………ッッ!!」
衝撃に歯を食いしばり、何とか悲鳴を噛み殺す。
そのままケビンが俺を抱えて、後衛の治療師達の元へ走り出そうとする。
「ケビン……待て」
ケビンが、ピタリと止まる。
「あいつらを、一掃していく。どれがいい……?」
使う魔法の事だ。魔力属性が多い俺は、火、水、風、土、どれでも使える。氷は、水魔法の温度調整で顕現させている。
ここは草原だ。大規模な炎を使っても周囲に燃え広がる心配は無いし、風でも、土でも良いのだろうが。
「足止めも兼ねて、氷で」
早口でケビンが言う。
ケビンに抱えられたまま、右の手のひらを敵に向ける。
大きな魔力を、解放した。
「こおれ」
バキバキバキ……ッ、と周囲から大きな氷が顕現する音が聞こえた。
敵方は、人も、地面も。大きく凍りついている。
そのまま、俺達は足早にその場を撤退した。
「殿下ぁ。刺し傷深くて、治しきれませんよぉ。」
今回の遠征は、目立たないように30人ほどの移動だった。治療師の数も多く無いので、癒しの魔法を使うにも治療師達の体力の限界がある。
重症者の傷の程度を軽減させることを優先するので、全快は難しい。
「問題ない。死ななければ、いい」
治療してくれているのは、治療師デイジー•ビアード。
ビアード子爵家の次女だ。
「重症者も数人いますが、致命症ではありません。殿下の魔法のおかげで、死者もゼロですよ!」
デイジーの言葉に、ほっと息をつく。
周りを見渡して目に入るのは、白い包帯に血を滲ませて、仰向けに寝て呻いている仲間の姿。
エリーのおかげで、魔力過多症を克服した今の強い魔力なら、どれだけ魔法を使っても体力が減ることは無い。
刺されていない右手を上げて、魔法を使う。
部屋全体が、温かい光に包まれる。
エリーほど優しくて温かくはないと思うが、力技でまとめてかける、大雑把な癒しの魔法だ。
癒しはあまり上手くはないが、無いよりはマシだろう。
ついでに、働き詰めの治療師達も、少しは疲れが取れていればいい。
「ありがとうございますぅ。でも、殿下も重症なんですよ。明日、私や他の治療師達の体力が回復したら、もう少し癒しをかけさせていただきます。今も発熱していますが、これからもっと熱が上がるかもしれませんので、今夜はこの解熱剤と鎮痛剤を飲んでおいて下さいね」
段々とデイジーの声が遠くなり、瞼が重くなってくる。
「エリーの、幸せのためなら、熱も、痛みも、我慢できる……から……だい、じょ、ぶ……」
デイジーの「12歳は我慢ぜずに、泣き喚いていいんですぅ」と言う半泣きの声が遠くに聞こえた気がしたが、朦朧としたまま意識が落ちた。




