21 英雄と聖女
高貴な貴婦人方に手を引かれて、リデオケレスト国王と王子達、そしてミーシャが打ち合わせをしている会議室に連れて来られた。
「ダブリニヤ陛下。お時間をよろしいでしょうか」
第一王妃と第二王妃が、国王に声をかけて部屋に入る。
「アデレード、フランシス。それに皆してどうしたのかね」
「クリスナリスの解放軍につきまして、ご提案がございまして。まずは、キャサリンの姪、ケイフォードの忘れ形見をご紹介させてくださいませ。さあ、エリシア」
心の中で、ひぇっと思いながら、8年前の作法を思い出しつつ自己紹介をする。
「お初にお目にかかります。クリスナリス王国元ケイフォード辺境伯が娘、エリシア・ケイフォードと申します」
「国王である、ダブリニヤ・リデオケレストだ。面を上げよ。話は聞いている、よく無事に生き延びた」
ゆっくりと顔を上げる。
初老の髭を蓄えた、体格のがっしりした国王様だ。隣に並ぶのは、リデオケレストの王太子と第二王子だ。第二王子は、ミーシャの伯父にあたる。
「王太子、サヴェーリオ・リデオケレストだ。よろしく頼む」
「第二王子、ナタニエル・リデオケレストだ。かの事件から今まで、よく頑張ったね。解放軍以外でも、系列の身内として必要な時には手を貸そう」
「お初にお目にかかります。エリシア・ケイフォードと申します。ありがたいお言葉、嬉しく存じます。よろしくお願い致します」
近くにミーシャもケビンもいて、知った顔に少し安心した。
第一王妃と第二王妃が交互に話し始める。
「エリシアちゃんとお話しいたしましてね。私達、可愛いエリシアちゃんを応援する事にいたしましたの」
「癒しの魔法を使ってもらったのですが、魔力も精度も素晴らしいのですよ」
「それで、私達3人連名で、エリシアちゃんを『聖女』認定いたしましたの。いかかでしょうか」
「『救国の英雄、第三王子』と『国を救う為、解放軍に身を投じた悲劇の聖女』は、解放軍の良い旗印になりませんこと?」
聖女の名前に、ミーシャがポカンとした顔をする。
あれよあれよと進む話に、私も心の中では同じ気持ちだ。
「反王政派のイメージ戦略としても、とてもいいね」
「『英雄』と『聖女』なんて、国民の支持も集めやすいしね」
王太子と第二王子も、次々に賛同する。
国王が口を開く。
「リデオケレスト王家は、ミハイルを『英雄』、エリシアを『聖女』として、解放軍は元より、正式にふたりの後ろ盾となろう。まずは、クリスナリス王国の王政派排除が最優先課題だ」
大仰な肩書きに、ミハイルとふたりしてピッと背筋が伸びる。大物達の決定に、意見をする事は許されない。
この瞬間から、ミハイルは「英雄」、私は「聖女」となった。
そのままの流れで、私達も一緒に会議に参加する。
今打ち合わせているのは、最終的な王都への侵攻の流れだ。
解放軍は、王政派の大領地が国土を分断している為、現在拠点が3ヶ所にある。北と、中央と、南の拠点だ。
中央の拠点は王都の隣にある大領地。
最終的に、北と南の兵力を中央に集めて王都に侵攻する予定だが、中央の拠点に南北の拠点の兵を移動させるには、南の拠点はクリスナリス第一王妃の大領地、北の拠点は国王の実母、王太后の広大な領地を通らなければならない。
王政派も必死なので、領地の通過時には戦闘は必須だろう。その戦闘時に強大な魔力を持つミーシャがいれば、人的被害をかなり抑えられる。
しかし、ミーシャと共に南の兵力を中央に移動している間に集中的に北の拠点を攻められる恐れがあり、また逆も同様だ。南北同時に中央の拠点へ移動する必要があった。
そこで、南の拠点に接している、リデオケレスト王国に助力を仰いだのだ。
ミーシャが北の拠点に合流し、北の兵と共に中央へ移動する。
同時に、ミーシャの戦力が無い分、リデオケレスト王国の大軍と共に南の兵力を中央に移動させるのだ。
「南の兵力の移動補助は、我がリデオケレストに任せてくれて構わない。クリスナリス王国全体を落とすつもりで助力しよう」
第二王子がにこやかにおっしゃった。
「可愛い甥とエリシアの為に、私が直々に兵を率いてクリスナリスへ赴こう。我らが身内へのあのような仕打ち。その身を持って思い知るべきだからね」
家族や身内を弑された彼らに、王政派への容赦は無い。心強すぎる味方だった。
ミーシャは北の兵力を中央に移動させる。
リデオケレストは、南の兵力を移動させる。
王都への侵攻計画が、またひとつコマを進めた。
リデオケレストへの訪問は、慌ただしく時が流れた。
王妃達や王女、キャサリン伯母様に甘やかされ撫でくりまわされ、その隙間時間で高位貴族の世渡りポイントを教わり、大量のお菓子をお土産に持たされた。
キャサリン伯母様は、心配してクリスナリスとの国境ギリギリまで見送ってくれた。
「殿下。お強いとは思いますが、油断のなきよう、どうぞご無事で。ケビン、殿下を頼みましたよ」
「もちろんです。全力を尽くしてお守りいたします」
クリスナリス王国に妹を送り出し、そして亡くしているキャサリン伯母様は、その娘の私を見て更に心配そうな顔をする。
「本当は、癒しの魔法が強いとはいえ、苦労ばかりしてきた年若い貴方を戦場に送り出したくはないのだけれど。それでも貴方は、殿下と共に行くのよね」
「はい。ミーシャとは、もう離れないと決めているんです」
お母さまと、どこか似た雰囲気のキャサリン伯母様に。心配をかけないように、ハッキリと答えを返す。
「お土産は沢山持たせましたからね。よく食べて、よく寝て、無事でいるのですよ」
乗っている馬車が、国境を越えてクリスナリス王国のヤコビーニ伯爵領に入る。南の拠点に戻るのだ。
「私、キャサリン伯母様に会えて良かったわ」
隣に座るミーシャに話しかける。
「近しい血縁に会えると、何だか安心するよね。俺達、クリスナリスで、そういう人いないから」
「そうそう。義父は近しい血縁でも味方でもなかったし」
「俺も、国にいる血縁は命を狙う敵ばかりだし」
クスクスとふたりで笑い合う。お互い、中々の境遇だ。
「クリスだけは血のつながりは遠いけど、唯一の血縁かしらね。側を長く離れたから、砦に帰ったら甘やかさなきゃ」
「エリーは、今夜はクリスと休むよね。うん、ちゃんと、我慢する……」
ミーシャが、ぎゅむっと抱きしめてくる。
「今夜は我慢するから、今は我慢しなくて良い?」
もうすでに、くっついている。
いいよ、と言いながらミーシャの頭をなでなでする。
そのままミーシャは私を膝の上に乗せ、顔を擦り付けてくる。
角度的にミーシャの耳が目に入るが、キレイな彼は耳の形も美しい。
何となく、ミーシャの耳に軽くキスを落とした。
ピタッとミーシャの動きが止まり、ひと呼吸おいて、すごい勢いで耳を押さえて飛び退る。
「エエエ、エ、エリーーーっっっ!!?」
両手でその耳を押さえて、顔が真っ赤だ。
「くすぐったかった? 驚かせてごめんね。ミーシャは耳の形もキレイだったから、つい。クリスと同じようにしちゃって」
「……クリスには、耳にキスしてるの……??」
「頭とか、ほっぺとか? ほら、家族の大好きのちゅとかしない? ミーシャは小さい頃具合が悪かったから、知らないかしら……?」
「…………じゃあ、俺も、エリーの頬に家族のちゅとかして良いの…………?」
「いいよ。ミーシャは家族だもの」
「エリー、そう言うところ……」とかボソリと聞こえた気がしたが、ミーシャの美しい顔が近付いてきて、ほっぺにちゅ、と唇が当たった。
想像以上に顔が近くて、ミーシャが美しくて、思った以上に恥ずかしい。
「ミーシャ……、ちょっとミーシャのは、恥ずかしいかも……」
「家族のちゅだから。いつしても良いよね」
嬉しそうにニコニコしながらミーシャに言われたが、反論は難しそうだった。




