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第135話 本物は唐突に

 その騒動に俺達はすっと足を止めた。


 怒鳴り声の後に女性の声。


「待って!! お願いします! なんとか……なんとか勇者様のお墓に行きたいんです!」


 その声を聞いてニャー。


「賑やかだにゃ?」


「お? 喧嘩か?」


 楽しそうにザンカ。


 なんだか喧嘩って感じじゃなさそうだけど……


 そして宿屋に併設されてる飲食店から出てきたのは冒険者風の男達。


 盾と重そうな槍を背負い腰にナイフがちらり。


 それに続いているのは重そうな杖を持ったフード付きのローブ姿の男。


 いかにも魔法使いだといった風貌。


 そのローブの男は冷徹に言う。


「俺達はおりるぞ」


 そして、その後に長剣を持った男が店から出てくる。


 しかし、その男の表情はどこか申し訳なさそうだった。


 それでだ。


 俺はありのまま今起こったことを話す。


 続いて後から出てきたのは……


 ニューハーフでおねえ口調のごっついエルフじゃない。


 本物の可憐なエルフのしっかりした女の子が出てきたのだ!!


 金色の結われた髪をなびかせ華奢な細い体つきはしなやか。


 しかし、金髪というと前のリィナの髪型のような感じだ。


 とても綺麗だ。


 矢筒を腰に下げてロングボウ? かどうかはわからないけど弦を外した状態で背負っている。


 それに短い弓とナイフといくつかのポーチを腰に下げていた。


 深緑色のコートに革のブーツ、皮鎧を着用していて軽快に動けるように工夫がされているような装備をしているが想像通りのエルフって感じがしてなんだかとても……エモい。


 しかし、エルフは男達との体躯の差があるにも関わらず槍持ち冒険者の大男を通すまいと立ったのだった。


 そしてもう一度……さっき言った台詞が続く。


「お願いします!! 何とかして勇者様のお墓に行きたいんです。お願いします!!」


 必死の懇願。


 しかし、その懇願は跳ね返されるのだった。


「だから! 契約は終わりだって言ってるじゃないか!! 報酬だって……もらってねえだろ? 俺達じゃ、あんな……あんな化け物どうにもなんねえよ! 生きて帰れたのだって……奇跡みたいなものじゃねえか……」


「で、ですが!! あの魔物……会った時おかしかったじゃないですか?! 犠牲になった人が出たって言うのも聞かないですし……まだ!」


「うるせえ!! もう終わりだ!」


「で、でも!!」


「俺はな! このパーティリーダーとして、こいつらの命も預かってるんだ。もうこんな依頼は受けられねえ。話は終わりだ」


 聞いている限り、とんでもない正論だ。


 この冒険者、いろいろと考えてるし俺も見習わなくちゃならないだろうな……


 しかし、なおも立ちはだかるエルフの女性を避けて通ろうとする男。


 そんな正論をぶつけられてもエルフは続ける。


「ま、待ってください!! お願いします! もう……もうあなた方に頼るしかないんです」


 それに苛立ちを覚えたのか冒険者。


「この!!」


 瞬間、男があろうことか可憐なエルフに手をあげようとしたのだ。


 その時だった。


 呆気にとられた。


 割って入るべきかと迷っていた最中、前へ出たのはリィナだった。


「リィナ!!!」

「リィニャ!!」


 割って入ったリィナの「ま!」と途切れる声。


 間一髪……拳はリィナの眼前で止まった。


 まるで時が止まったかのような空間。


 おかげで俺の心臓がすごくうるさい。


 まさか……リィナが前へ出ると思わなかった。


 それ以上に。


 無意識だった。


 俺の体が前へと動いていた。


 脱力。


 同時に体が落ちる感覚。


 それは戦うときの……前へ出る感覚だ。


 これが……この方法が斬りあう時に一番早く潜り込める。


 重心を一瞬で前に出しめいいっぱいの力で蹴る。


 左手で鞘を持ち……それを前に押し出している。


 抜刀寸前の体勢。


 行くところまで行っていたら……斬っていたかもしれない。


 待ってよ……


 俺……どうかしているんじゃないか?


 相手は手を上げようとしただけで……まだ何もしていなかっただろう?


 何で……何で俺は斬ろうとしているんだ?


 リィナの危機だから?


 この刀の軌道の先には、あの男の腕。


 俺は……俺は……


 自然と息ができなくなる。


 すると後ろからポンっとやわらかい肉球が俺の足に触れた。


 ニャーだ。


 ニャーと目が合うと「落ち着くにゃ」と声をかけてくれた。


「そ、そうだな」


 荒れ狂う息を整えて姿勢を直した。


 一端、深呼吸をしよう。


 だめだ。


 考えすぎるな。


 覚悟を決めていたはずだ。


 こんなにも大切なんだ。


 これはリィナを守るためだ。


 体がそこまで無意識に動けるまでに達してるってことだ。


 むしろいいこと……なんだ。


 俺はリィナを守ると決意したんだ。


 だから……


 俺は、この狂気について何度も自分に良いように言い聞かせた。


 そんな俺の心境とは裏腹に沈黙する場でリィナ。


「ぼ、暴力は!! い、いけないと……思います……思うんです……」


 最初の威勢はどこへ行ったんだよ……


 すっごいしりすぼみな小声で言い終えるリィナ。


「な、なんだよ。あんた?」


「いきなり……すみません! 確かに、このエルフの方もしつこかったかと思います。でも、それ以上は……」


 すると男は一歩距離を開けて拳を下げた。


「わ、わかってる! わかってるよ……すまなかったな」


 その冒険者は、そのままリィナとエルフの横を通り過ぎていく。


 しかし、男は立ち止まると申し訳なさそうな顔をして「俺達だって……なんとかしたかったよ。すまないな」と強く拳を握っていた。


 その様は彼らが真面目な冒険者であることを教えてくれるのに十分だった。


 そしてエルフの女性は、それを見てしゃがみ込んでしまうのだった。


 それからというもの俺達はエルフたちが出てきたお店の中に場所を移していた。


 心地良い木製の綺麗なテーブルはどこかノスタルジックな感じを演出している。


 並べられた5脚の椅子に俺達は腰を落ち着けて旅の疲れを癒したいけれど困り顔の店員が、このエルフと男達が手を付けていたであろうグラスを下げていくのだった。


 沈黙。


 さすがのリィナもどうしようと言った具合にチラチラと俺に目が泳いでいる。


 そこで『おいおい、俺に何かを期待しても無駄だぞ?』と視線を返した。


 リィナが優しいのは最初からわかっていたけど、まさかこういう行動に出るとは思わなかった。


 でもそれがリィナらしい。


 本来ならさ……勇者である俺が真っ先にやらないといけないことなんだろうな。


 その……よくわからないけど巷の英雄像とでもいうのかな?


 残念ながら俺は、そんな大層なやつじゃない。


 あんな現場でリィナのような正義感を持って行動することはまずできない。


 社会も知ってるし、ある程度その残酷な一面も知ってるつもりだ。


 見捨てるべき人もいれば救いあげられる人もいる。


 加えてどうにもならない人もいる。


 このエルフはいったいどっちなんだろうな。


 こういう天秤にかけている時点で勇者として俺は失格なのだろう。


 とりあえず、わくわくした目で俺達を見つめるザンカにいろいろ物を申したいところはあるけれども……


 そんなザンカに俺は大きくため息をついてしまった。


 するとエルフは勘違いしたのかうつむいたままに口を開く。


「うぅ……ご迷惑をおかけしてしまってすみません!!」


 頭を下げるのだった。


「まぁ……一応無事でよかったよ。介入したのはうちの方だからさ。気にしないで?」


 俺はリィナをじっと見つめる。


 するとリィナは視線を逸らした。


 まったく……


 そんなやり取りの中でエルフは続ける。


「私はエルナリア・シルヴィエ・エレトレーナです。シルヴィとお呼んでください」


 なんだか、すっごいエルフって感じの名前の響き。


 いやまぁ……自分の感覚でそう感じているだけなんだけれども。


 すると、さっきの挙動不審っぷりとは打って変わってリィナも挨拶を返すのだった。


「はい! 迷惑というほどのことではありません。シルヴィさんが無事でよかったです! 私はリィナ・ルナレ・アメリア。私もリィナと気軽に呼んでくださいね? それでこちらが」


 話しやすい雰囲気になった途端、掌を返すんだからなぁ。

 

 挨拶の流れがリィナの手のひらで俺の方を指す。


「俺はカタナシ ソラ。俺も適当にソラでいいよ」


 それから横に並んでいる順に「ニャーはニャーだにゃ。よろしくにゃ」


 するとリィナ。


「ロイ・アスラ・ニャステンブルクさんです。私達はニャーさんって呼んでます」」


 そこでわくわくした目で俺達を見守ってるザンカに、リィナはそっと小声で「ザンカさん! 自己紹介です!」


 しかし、ザンカの頭上に?が浮かぶような表情で俺達を見る。


「ザンニャの番だにゃ」


「俺の番? なんだ? これからなにするんだ?」


「自己紹介だって、ほら決闘する時とか名乗るじゃん?」


「ああ! わかった。俺はケンジョウ ザンカだ。ザンカでいいぞ? よろしくな!」


 するとシルヴィは頭を下げて「よ、よろしくお願いします」と挨拶を終えると「みなさんは冒険者の方々ですか?」と話を広げてくれた。


「はい。私達は旅の途中の冒険者です。私が白金級でソラさんが金級、ニャーさんとザンカさんは銅級の冒険者です」


 リィナが自分のタグを取り出して見せるので俺も同じように見せることにした。


 冒険者同士の挨拶ってこんなものなんだなぁ。


 するとシルヴィは目を丸くした。


「白金級?!! ということはリィナさんってかなりの実力者なんですね……」


 しかし対するリィナはばつが悪そうに言う。


「実力者……という程の者じゃありませんよ」


「そんなご謙遜を……白金級なんて早々なれるような物じゃありません。ですが銅級の方が二人……というのは?」


「そうですね……確か冒険者の方々は同じ等級で固まってパーティを組みますよね?」


「普通は……そうですよね?」


「ですが実力で言えば金級のソラさんや銅級のニャーさんとザンカさんの方が私より遥かに上の実力を持っています」


「そ、そうなのですか?!」


「ちょっと不思議かもしれませんがそうなんです」


 なんだかシルヴィさんは、かなり驚いているようだけど、そうか。


 冒険者の等級って銅級、銀級、金級ってきて白金級が一番上だからな。


 それ以上は英雄レベルの真銅あかがね級、真銀しろがね級、金剛こんごう級ってなってたっけ。


 同じ実力者同士でパーティを組んで依頼を遂行するって言う点については確かに俺達って異質だよな。


 しかし、アカガネやらシロガネって同じ銅と銀なのでは? って思いたくなるけどなんなんだろうな。


 呼び方が変わってそれっぽさはあるからいいのかな。


 するとシルヴィは胸に手を当ててつぶやいた。


「これは樹霊じゅれいのお導きなのかな……」


 じゅれい?


 そんな疑問を遮りシルヴィは急に立ち上がって頭をテーブルにつける程に下げるのだった。


「みなさんにご迷惑をおかけして、あつかましいのは重々承知してます!! 白金級冒険者であるリィナさんに依頼をさせてください!!」


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