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第134話 旅の醍醐味

「赤目の鬼獣きじゅう……」


「はい……」


「なんかこう……詳細とかってわかったりします?」


「そうですね……私も聞いた話なのですがよろしいですか?」


「構いません」


「わかりました。遭遇した冒険者が言うには、すごく綺麗な青白い体毛をなびかせ、暗闇の中に光る赤い目を見た途端襲撃は終えられていた……だそうです。その恐ろしさたるや遭遇した者全てをいたぶり悪夢を見せると……」


「ずいぶんと強そうな魔物ですね……」


「はい。白金級冒険者でさえボロボロの状態になりながら、この村に引き返してきてましたから……」


 白金級というと……あれ、リィナと同じ等級だったかな。


 いやしかし、なんだかとんでもない魔物のようだ。


 かつて戦ったエンドルプスとどちらが強いんだろうか……


 すると「なんだか楽しそうな話だな?」とザンカが目を輝かせて聞いてくる。


「楽しそう……ですか?」


 それにキョトンとする兵士のこいつ何を言ってるんだと言わんばかりの顔が同意せざる負えない。


「あぁ……すみません。ザンカは一旦おいといて……」


「それで、その魔物はなんていう魔物なんですか? 種類とか?」


 さすがに二つ名だけじゃなくて魔物の種類とか名前くらいはあるだろう。


「すみません。それがわからないんです……私がじゃなく皆だそうで……」


「わからない?」


「はい。報告されるどれもが既知の魔物ではなく新種の魔物ではないかと噂されています」


「へぇ……」


 そんなこともあるんだな。


 しかし、どうしたものか……せっかくここまで来て立ち寄らないのもなぁ。


 とりあえず俺達は兵士にお礼を言ってからアニマリア村へと入ることにする。


 どこかのどかでさびれた家々。


 そのさびれ加減については、きっと今の情勢のせいだろうというのが大半を占めるとうな雰囲気がただよってる。


 通り過ぎたお店には並べられていただろう陳列台に食料品がまったくと言って良いほど並んでない。


 雑貨店っぽい所も……きっと店主か店員が中に一人だけいるような感じで寂しい。


 飲食店と思われるお店は、日もでているのにクローズドの文字。


 そんなお店の中に人がいるのが見える。


 けれど、どこかやる気なくただただ、ぼーっと空を眺めているのだった。


「せっかく来たけど結構やばそうだね。これからどうやって生活するんだろ……」


 その疑問にリィナ。


「そうですね……こういう時は領主の街からの配給があるはずです」


「配給?」


「はい。こういう状況の時のための一時的な措置として減税と物資を有償で提供する制度があります。その中に食料品や日用品の配給もあるんです」


「へぇ、そんな制度があるんだ。でも有償かぁ」


「無期限なので後々復興した時に少しずつ徴収して立て直す場合がほとんどですね。大体の領はそういう機能をしていると思うのですが、ここはアメリア領ではないのでどういうことになっているのかはわかりません……」


「そうか……まあ、でも兵士の人達が結構いるし領から見捨てられたわけじゃないっていうのがわかってよかったよ」


「はい。国境沿いの村というのもあるので、なくなるのは領主としても避けたいでしょうからすくなくとも……」


 まあ、こうしてあれこれ考えたところで俺達にはどうしよもないんだけどさ。


 無尽蔵にいる略奪者を叩いて回るのもいいのかもしれないけど時間がいくらあっても足りないんじゃないだろうか。


 それに情報が少ない。


 魔物使いの勇者の墓の一件もそうだ。


 あの兵士が言うようにそんなに危険なのなら……


「魔物使いの勇者の墓……立ち寄るのはやめておく?」


「え、ソラさんはそれでいいのですか?」


「いや、行ったら勇者の事が何かわかるかな? なんて考えてただけだし……こんな危険に自ら飛び込む必要はないと思うんだよ」


「それもそうですが……」


 俺の言葉に、どこかリィナの表情は曇る。


 言わずともわかる。


 本当に優しいんだリィナは……さすがは聖女様だよ。


「リィナの言いたいこと……なんとなくわかるよ。でもさ、俺は学術国家セイエンティアに安全に辿り着くって目的を優先したい」


 勇者として……こういった問題を放置するのはどうかってさ。


 俺も思う。


「はい……ソラさんがこういった事に介入する危険性についてよく考えてくださるのは、とてもありがたいです。でも……」


 するとリィナは何かを言いたそうにしていた。


 言いたくても言えないって、そんな顔をしている。


 だから俺はリィナの手を握って答えた。


 すると、緊張していた表情が和らぎ俺の目を見てゆっくりと話してくれた。


「私自身……ソラさん達がいないと何もできないくせにこんなことを言うのは違うかもしれません。でも……村の皆さんが困ってるのを何とかしたいんです」


 ああ、もう。


 そんな困り顔で言われたらなんとかしたくなるじゃないか。


 まったく、リィナの信念というかなんというか……まっすぐとその心を前にすると俺は本当に情けないやつだと思えてしょうがなくなる。


 異世界で旅を重ねたところで、まだ性根って言うのは変わらないんだと思い知らされたよ。


 でも根底では……俺だって。


「……そうは思う。話してくれてありがとうね」


「いえ……」


 そこで多数決の時間だ。


 多分手っ取り早いだろう。


「ニャーはどう思う?」


「ニャーはリィニャの意見に賛同だにゃ」


 やはりと言わざる負えない。


「ニャーはリィナ派ね? すごいニャーらしいよ」


「そうにゃ。どうして魔物使いの勇者様のお墓に、その魔物がずっといるのかわからないにゃ。もしかしたら……この村をその脅威が襲うかもしれない……それだけは絶対に阻止したいのにゃ」


「確かにそうだな……今は、ここっ安全っぽそうだけどそうとは限らないよな。わかった。ザンカはどうだ?」


「ん? そうだなー。ワカメのカジュウってなんだか強そうなやつだし殺してみたい! 最近体動かしてないしな!」


「赤目の鬼獣キジュウ……な?」


 この世界にワカメってあるのかな……


 それと体を動かしてないって……いやまあ確かに劇的な戦いは特にしてなかったけどさ。


 でも、これでまとまりはした。


 ニャーの心情を考えればこの件は見過ごせないのは俺もわかる。


 俺がここで寄るのをやめようって言ったところでニャーは一人でも行くだろうな。


 さて、ほぼほぼ戦いに行くのは決定しているのだけど……この決定一つでどうなるかがかかってる。


 村へ着いてまだそんなに時間も経ってないしなぁ。


 急いて決める必要もないだろう。


「よし!! 一旦この話は保留にしよう。さすがにまだ情報が足りない。聞き込みがてら宿を探しに行こうよ」


「そうですね……久しぶりにベッドで眠れます!」


「ルロダンから出てずっと宿なし野宿の旅だったからね。今日はゆっくり休もうとしよう」


 それから俺達は宿を探すべく、そのまま道のりに歩いていくと道行く年配のおっちゃんとすれ違う。


 唐突に俺は聞いてみた。


 「あの! すみませんが宿屋ってどこにあります?」


 すると振り向いてくれて「こっから奥に行ったところに宿屋あるよ」と教えてくれた。


「ありがとう」とお礼を言うとおっちゃん。


「冒険者かい? それとも旅の人?」


「あ、ああ。一応冒険者だ」


 こんな感じにフランクでいいかな?


 内心不慣れなことをしたせいでそわそわしてる。


 でも、異世界で旅をしているみたいな……そんな会話の流れに少しわくわくしてしまった。


「一応? 変なことを言うね?」


「そ、そう?」


「ああ、あんたら旅の途中で、ここに立ち寄ったってところかい?」


「そうだよ。学術国家セイエンティアを目指してるんだ」


「はぁ、セイエンティアねぇ? ずいぶん遠くに行くんだな。大変そうだけどがんばりなよ?」


「おう、ありがとな」


「しかしなぁ……こんな時に、ここに来ちまうってとんだ災難だよあんた達」


「災難……というと?」


「普段ならもっと活気のある町なんだ。ここは今はさびれてしまってるけど隣国のヴィスグレイズ帝国との交易品で溢れている観光地でもあるんだよ」


「へぇ、そうだったんだ……これは残念だ」


 村って言うには分不相応な程、大きな規模をしているから最初は街かと思ったのも、ここが理由にありそうだ。


「治安は悪化するし勇者様の墓地で凶悪な魔物も巣くってるせいで交易も止まる……もう踏んだり蹴ったりだ。俺もやることが無くてこうして暇してるってわけさ」


「え? その凶悪な魔物が出たことと交易が止まることに何の関係があるんだ?」


 するとおっちゃんは親切にもそれにこたえてくれた。


「あぁ、それはな。勇者様の墓地は、ここを出て北東にあるんだ」


「地図だとそう遠くはなかったね」


「そうだな。デュラス山とフィサ山のちょうど谷にあたる所だな。隣国へは山を越えればいいが山の魔物はおっかない。だから勇者様の墓の近くを通らないとヴィスグレイズ帝国へ入国できないんだ」


「ほぉ……」


「それでこんな閑散としちまってるってわけよ。冒険者もギルドがないからここから隣国へ抜けてくか王都へ行くかのどっちかよ」


「でも、依頼とかそう言うのを出したらいいんじゃないのか?」


「村長だって出してはいるだろうさ。でも情報が出るのも速けりゃ皆の足も速いってもんだ。はっはっはっは!」


「まぁ、それは……」


「なぁにあんたが暗い顔してるんだ? 誰だって自分の命が可愛いに決まってんだろ? 噂の葉っぱの勇者様でもいてくれたら話は別なんだろうけどさ」


「そ……そうだね」


「ま、いい旅を! 光の女神さまの導きがあらんことを祈ってるよ!」


「ありがとう!」


 おっちゃんと別れた後にリィナ。


「言われちゃいましたね?」


「そうだね」


 俺は自然と刀を握る手が強くなるのを感じる。


 自分だけよければそれで終わりじゃないんだ。


 しかし、こりゃいい情報を得たな。


 兵士から村の状況を聞いた時にリスクを冒してまで立ち寄りたい場所じゃないし、せっかく来たけど勇者の墓は避けて通る方がいいと考えてた。


 そんな俺の保守的な思惑を……砕く情報だ。


 旅と言うのは思い通りにいかないのが常とはいえなぁ……


 けど宿を探しがてら通りがかりの村人に話を聞く。


 ほんと、こういう何気ない瞬間が旅してるって感じがしてなんだかこう……わくわくするな。


 こういう状況じゃなかったらきっと……もっと楽しんでただろうな。


 日本にいたらタブレット端末一枚で、いろいろと情報が出てくるから忘れてしまいがちだったけど、こうやって人伝に情報を得ていくのってなんだか楽しい。


 それからしばらくして、アニマの宿街と書かれた宿の街に辿り着いた。


 村なのに中に街があるのか……


 とりあえず、さっきの場所よりは賑やかだ。


 その理由はすぐにわかる。


 大多数が多分派遣された兵士。


 そして度々見かけるのが、この惨状で依頼を受けただろう冒険者達だ。


 皆ここで寝泊まりしているんだ。


口々に兵士達からは「さて、見張りの交代だ」だの「いつまでここに派遣されなくちゃならないんだろうな?」だったりと兵士ならではの会話が端々に聞こえる。


 そして俺達が、とある宿の前を通りかかった時だった。


「もう、これ以上は付き合いきれねえって!」


 怒鳴りつけるような大声が通りに響いたのだった。

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