第133話 蒼麗の魔物
ここから先の雪があまり積もってないってだけで、こうもすんなり進めるとは思わなかった。
恐るべし雪道……
見通しのきいていた高原のごつごつとした岩々が広がっていた景色も通り過ぎて次木々の大群が一面に広がる森へと入る。
少し前まで青々と茂っていただろう眠ってる森。
でも所々の木々は雪を乗せ、つららを垂らしながらも葉をつけているものもある。
そういう種類なのかな。
一本一本が同じように見えるけど異世界の木はどこか見たことの無い違和感があるのだから不思議だ。
実際見たことなんてあるわけないんだから当然なんだけどさ。
そんな景色の中をひたすら歩いていると薄い白い膜と煙が上がっているのを見えてくる。
ルクサーラ神の教会から聖女や聖人の祈りにより展開される守護の結界だ。
ようやく近くまでこれた。
「ここが魔物使いの勇者が眠る地。シルヴァヘイローの森か……」
「はい。雪があまり降ってないおかげかすんなりと来れましたね?」
「ああ、本当に雪道は厄介だ」
そんなことをリィナと話している最中。
ざざざっと何かを引きずる異音がするのに気づいて振り向くとザンカが何かを引きずっていたのだった。
それをよく見ると寸胴体系で手は長く足は短い魔物だった。
哺乳類系を思わせるような体毛。
尻尾はちょこっと短く可愛らしいものだが顔が豚とトラを足してトラ成分を若干薄めたような……得体のしれない魔物だった。
「ザンカ……それいったいなんだ?」
「ん? なんかいた」
「ザンカさん! それピゴーラですよ?!」
「ピゴーラ? なんだそれ?」
右に同じく。
なんだその魔物。
全然いたの気づかなかったし音一つたたなかったぞ。
ニャーも何もなかったみたいに静観してるだけだし。
「ピゴーラは主に北東のトランドノート領の奥地。この森林に生息している魔物で縄張り意識が強く凶暴な性格をしていると聞きます」
待って、ここへ入る前にとりあえず知っておかなきゃまずい魔物なんじゃないか?
「じゃあ、いきなり要注意の魔物と出会ってたって事?! というか今もう倒されちゃってるけど結構強いの?」
「……はい。分厚い毛皮は騎士の鎧よりも固く普通の剣や槍なんかでは通らないので強力な魔法や大剣で倒すのがセオリーだと聞いてます」
「普通に強そうだな……」
「はい。それに今の時期は地中で冬眠をしているはずなので遭遇することはないと思ってました……」
あ、冬眠をしているからまず見るような事はない魔物だったんだ。
「なんか……とんでもない魔物だったのな……って、え? 襲われたの?」
「んー、なんか来たから殺した」
「殺したって……いやせめて襲われたのなら襲われたってさ……」
「ん? ああ、すまん。俺なんかやったか? 大したことなさそうだし向かってくるからやっちまっただけなんだけど」
無自覚系無双主人公みたいなことを言いやがって……
縄張り意識が強いってことは単独で生息しているのだろう。
なら倒せばそれで終わりか。
俺は一応、注意深く周囲に目をこらす。
しかし、何か近づいたりしているような感じとかそういう違和感は特になかった。
「なんかまずいことになるようなことはなさそうだからいいか……」
それから見えていた光の壁を潜り抜けて俺達は無事にトランドノート領のアニマリア村へとたどり着いた。
森の中にある小さな村と聞いていたけれど……
俺の想像していた村とは違った。
何故かと言うと木材でつくられた屈強な壁や門があったのだった。
「結構、頑丈なつくりをしている村なんだね」
「そうですね。光の壁もちゃんと顕現されているのにどうしてこんな防壁が築かれているのでしょうか……」
「まさかとかは思うけど……」
あまり考えたくはないな。
俺は一旦その予想から目をつぶる。
光の壁は魔物を寄せ付けないし防壁のようになって入れない。
けれど、こうして俺達が入って来れるように人や他の七種族には干渉しない。
つまり中にこうやって防壁を築く理由というのは、魔物以外の襲撃に備えているということだ。
その予想は着実に、そして淡々とそうであることを物語るように事実が積み重なっていく。
人通りが少ない。
警備をしているだろう兵士が多い。
俺達は門を通りかかろうとしたところで兵士から呼び止められた。
「そこの馬車止まれ!」
ニャーが手綱を操ると馬もそれに応じてしっかりと止まる。
兵士が足早にやってきてじっと観察するような鋭い目つきで俺達に問う。
「身分などを明かせるものはあるか?」
そう言われリィナが懐から家紋のついたペンダントを取り出し兵士に見せると兵士はすぐさま態度を改めるのだった。
「アメリア家の?! こ、これは、申し訳ございません! 領主貴族様の馬車であったとは知らず、とんだ無礼を働きました。お許しください」
それにリィナは毅然と答える。
「警備ご苦労様です。問題はありません。私はリィナ・ルナレ・アメリア。アメリア領の領主、レジナード・イル・アメリアの娘です」
「なんと!! ……もしやあの噂の?!」
「噂……ですか?」
「はい。葉っぱ一枚だけでアメリア領を救い幾多の凶悪な魔獣を討ち王都転覆を謀った神父をも倒して国の危機を救った勇者様とアメリア様は旅をされていると伺いました! もしや……そのお隣のお方葉っぱの勇者様ですか?!」
葉っぱの勇者様呼びに話に尾ひれどころじゃなくて羽がついてる気がする。
するとリィナは俺を見てから鼻で笑いかけるのが見えた。
「え? 今鼻で笑わなかった?」
小声で俺へとリィナ。
「すみません。露骨に嫌そうな顔をされてたので」
「ぬぅ」
表情に出てたのはなおさないといけないけれども……
しかし、そんな俺を他所にリィナはハキハキと兵士へと答える。
「はい! このお方が王都の危機をお救いくださった勇者様です! 葉っぱの勇者様です!」
その二つ名本当に不服なんだが。
「おお!! 葉っぱの勇者様にお会いできるとは、なんと光栄なことでしょうか!! あ、握手をおねがいしても?!」
「ああ、大丈夫ですよ。いやどうも」
握手をした途端兵士は笑顔を浮かべていた。
いや、こそばゆい。
こそばゆくて落ち着かないぞ。
しかも、そんな大声を出すのだからわらわらと他の兵士達が集まってきてしまったじゃないか。
柄じゃなく俺もこんなに称えられて嬉しいけどさ……なんか肌に合わない。
それから挨拶はこれくらいにと言わんばかりにリィナは、この木造の門を見上げて続ける。
「この簡易防壁といい……どうされたのですか?」
「はい。ここ最近のコルネリア王国の情勢悪化に伴った治安の悪化が原因にございます」
「そうだったのですね。ここも、その影響に晒されているのですね……」
「そのためかコルネリア王国兵士と思われる者達を筆頭に盗賊へと身を落とし徒党を組んでトランドノート領へと落ちのびて略奪や犯罪行為が横行しているのです」
「そんな状況だったのですね……それなら、この防壁も頷けますね」
「簡易的ではありますが、ないよりはましです」
「そうですね。ただ、村の状況はあまりよくなさそうですが……」
「はい。この村は、ほぼ林業で成り立っております」
「ということは村の外での仕事が大半でしょうに……」
「そうなのです。加えて冒険者は離れていってしまい街道の魔物も増える一方でして……輸送に使っている牛車も遊ばせている始末。我々でなんとかできればいいのですが手が回らないんです」
「なかなか厳しいですね……」
「これもいつまで続くのか……すみません。こんな愚痴を言ってしまって」
「いえ、頑張っていらっしゃるおかげで村の皆さんがまだ安心してとどまっていられます。ありがとうございます」
「そんな感謝のお言葉をいただけるとは光栄です。してアメリア様方はどのようなご用件でこちらへ?」
「私達は魔物使いの勇者様のお墓へと行くためにここへ立ち寄りました」
「魔物使いの勇者様のお墓へ……そうだったのですか」
兵士は、何故か俯き一呼吸、間を開けると話を続けた。
「それはおやめになられた方がよろしいかと存じます」
「やめるってどういうことだ?」
「はい。ここ一月ほどの話になりましょうか。魔物使いの勇者様のお墓にとんでもなく恐ろしい魔物が巣くうようになったのです」
「とんでもなく恐ろしい魔物?」
「はい。遭遇した者は皆口々に、その魔物の事を赤目の鬼獣と呼んでいます」




