第136話 依頼は唐突に
「あ、頭を上げてください。依頼……というと先ほどの……そのシルヴィさんが勇者様のお墓に行きたいとおっしゃっていたことですか?」
「……はい」
俺は、そこでリィナと目が合う。
多分……リィナなら、この依頼を受けるだろう。
なぜか勇者の墓にどうしても行きたそうにしているシルヴィの事情はわからない。
わからないけれど、こんなにも必死になって頼み込むからには相当重い理由があるのだろう。
ただ単純に観光がてら行きたいのとはわけが違うに違いない。
うーん。
どうしたものか。
とりあえず……
「シルヴィさんは何で勇者の墓に行きたいんだ? 一度その凶悪な魔物に合っているんだよね? なら、わざわざそんな危険を冒してまで行く必要があるのか?」
その疑問にシルヴィは歯を食いしばると、どこか悲し気に答えるのだった。
「あるんです。みなさんにはわからないと思いますけれど……」
「わからないって言われてもなぁ」
いや、そこを聞きたいんだけどさ。
「今も感じてるんです。この辛くて狂いそうなほどの悲しい気が……だから私は行かなくちゃいけないんです」
え、なにそれ。
気?
気配の事?
わからないってそういうこと?
「待って、辛くて狂いそうなほどの悲しい気ってなんだ? シルヴィさんは何が目的なんだ?」
すると何かに気づいた様子でシルヴィはそっと深呼吸してから続けた。
「すみません。順を追って説明します。私はエルフの国、エルフェニア王国の臣下エルナリアの巫女の一人なんです」
こりゃまた冒険心くすぐるような場所が出てきたな……
しかし臣下? エルナリアの巫女? それってかなり大層な人なんじゃないか?
それがエルフの護衛もなしに冒険者に頼み事?
もっと謎が増したぞ……
下手に介入したら厄介ごとに巻き込まれるんじゃないか?
それにリィナと大して年齢は変わらないように見えるけどエルフだから三桁は超えてたりするのだろうか。
とりあえず俺はそんな疑問を置いといて話を続ける。
「巫女? それと勇者の墓に行きたいって言う事と何か関係が?」
「はい。巫女の役割……それは行き場のない魂を鎮めることにあるんです」
「魂を鎮める……」
「そうです。私のような選ばれた巫女は生まれつき魂の気配を感じることができるんです。これは樹霊の賜り事と呼ばれてます」
「だからさっき悲しい感覚って……」
「はい。ですが巫女の役割の中でもエルナリアの巫女は古くから音楽の勇者様との約束で、この世界に現れた勇者様の迷える魂を鎮める役割を担ってきました」
「へぇ……え、勇者の?!」
すると俺の言葉を言いなおすようにシルヴィ。
「勇者様です。なので今……この辛く悲しい気が溢れている状況で私は絶対に魂を鎮めないといけないんです」
もしかして、この騒動の発端に魔物使いの勇者の魂が関係しているとか……
現れた未知の魔物もそれが原因だったりして……いやでもなんで今。
「鎮めないと……どうなるんだ?」
「わかりません。暴走した魂が各地に災いをもたらすと聞いたことがあります」
「災いか……」
すると目の端にリィナがどこか悲しい表情をしているのが見える。
そんなリィナと目があった。
同じ勇者として……俺はきっとシルヴィに手を貸すのが人として最善の行為なのだろう。
けれど、一時の感情に任せてまた危険なことに首を突っ込むのはどうだろうか。
「私に……勇者様の魂を鎮めないという選択肢はありません」
「ああ、シルヴィの気持ちと目的はわかった。うーん……」
俺が考え込むとシルヴィはさらに続けた。
「だって……だって、こんなに辛そうにしているのに何もしてあげられないだなんて……それに多くの勇者様は別の世界から無理矢理こちらに召喚された方々なんですよ? 用が済めば捨てられて……忘れ去られて、こんな目にあっている。こんなに悲しいことはありません。終わらせてあげる……必要があるんです」
用が済めば捨てられ忘れ去られる……か。
「……ソラさん」
隣に座るリィナはそっと俺の羽織の袖を引っ張った。
ほんとになんて悲しい顔をしてるんだ……
「ああ、わかってる。ニャーとザンカはどうする?」
「勇者の一件……ニャーとソラに関係のない話じゃないのにゃ。ニャーはこの話、捨ておけないにゃ」
「まぁそうだね」
「関係のない話じゃない?」
ニャーの一言に首を傾げるシルヴィ。
その疑問を遮るようにザンカ。
「強い魔物と殺し合えるんだろ? 楽しそうじゃん。やろうぜ?」
「お、おう……」
ザンカのザンカらしい言葉。
本当にこいつはこいつでぶれないなぁ……
「そうだな。よし! 決まりだ。シルヴィさんの依頼、受けますよ」
「ほ、本当ですか?!」
「はい」
「ありがとうございます。まさか白金級の冒険者さん達にお受けいただけるなんて思いもよりませんでした。それと報酬ですが……」
あ、そうか依頼だからそりゃ報酬を受け取る流れにはなるな。
すっかり忘れてた。
するとシルヴィは固まった。
恐る恐る俺はシルヴィに聞く。
「どうしたんだ?」
「ああ、えっとその……すみません! 白金級の冒険者の方々に依頼するとなると、その……相場ってどのくらいになるのでしょうか?」
「あぁ……ニャーわかる?」
「ニャー?」
ニャーもよくわからないらしくお手上げ状態に。
まあ貰わなくても別にいいっちゃいいけど、そうなると安請け合いするパーティだとおもわれたりしないかな?
そんなことを考えている間にリィナは言う。
「先ほどの冒険者の方々に提示された額で私は良いと思います」
「えっと、それでよろしいのですか? 先ほどの方は銀級の冒険者の方々なんです。お一人5万ルクスでお受けいただいてたのですが……」
「5万ルクスかぁ」
トランドノート領、領主の街にギルドがある。
多分そこから来たに違いない。
そこからここへ来るのに大体1日はかかるくらいの距離だ。
想定だと2~3日の雇い期間と考えると一日あたり日当1万6000ルクスくらいか。
アーグレンの食事代はだいたい一食1000ルクスやら宿代4000ルクスくらいの相場を考えるとそこそこ多めに思える。
それとシルヴィさんの懐事情も今の反応から察するに……あまり良くないと思われる。
もらわなくてもいいけど……
あー、わからねえ。
どうすりゃいいんだこれ。
すると俺が考え込んでいるせいかシルヴィは俯いて不安げに、こちらをチラチラと見始めた。
「少ない……ですよね……」
恐る恐る言った台詞。
悪い人とかそんなじゃなくすっごい良い人そうなんだよなぁ……
俺はリィナ、ニャーの目を見て二人が頷くのを確認した。
「いや、考えていたのは……それとは別件です。報酬は、それで充分ですよ」
「え? いいのですか?」
「何か……まずいのなら話てほしいけど、大丈夫?」
「いえ! ありがとうございます!! 本当にありがとうございます!」
「それに俺達も実のところを言うと勇者の墓に寄ろうとは思ってたところではあったんだ」
「そうなのですか?!」
「ああ、そこが危険地帯になってるって聞いて行くのをやめようかどうか考えていたんだけどシルヴィのおかげで行こうって決心できたよ。とりあえず出発は明日でいい?」
「はい!」
そしてリィナはどこか張り切るように「今日は、ここの宿屋に泊まってゆっくり休むとしましょう! 英気を養わなくちゃいけません!」
久しぶりにベッドで寝れることを楽しみにしているのだろうか。
ほんとかわいいなぁ。
けど俺も夜中も安心して寝ていられるというのは嬉しい。
野宿は魔物が寄り付かないかとかずっと気を張ってないといけないからちょっと疲れてたんだよな。
それから俺達は、ここの店の店主に借りられる部屋がないかを相談しに行くのだった。
そこで婚約しているのだからリィナと一緒の部屋にいたいなぁって言うのはわがままだろうか……




