幕間『魔導変形剣 百足姫』性能評価試験
「ヨナス、そこ! もう一回見せて!」
魔導記録鏡に映る黒い騎士が、長大な刃を振り抜く。次の瞬間には、あんなに頑丈に造ったオートマトンの胴体が綺麗に切断されていた。使った金属の硬度も、加工に費やした時間も、全部覚えている。普通の三等級冒険者が持つ武具くらいじゃ傷一つ付けられないはずなのに、ルクスの剣は何の抵抗も受けていないみたいだった。
「ねえ、これ絶対おかしいよ! 切断面が潰れてないもん! どうしてこんなに綺麗に切れちゃうの!?」
「主任、残骸は回収してありますから、詳しい調査はあとでできますよ。それより、次の試験の準備が整ったそうです」
「ほんと!? じゃあ早く呼んできて!」
「ルクスさんはすぐそこにいらっしゃいますが……」
ヨナスに言われて振り返ると、当の本人はわたしのすぐ後ろに立っていた。
「随分熱心に見てるな。何かわかったか?」
「ぜんっぜん! だからもっと調べたいの!」
「威張って言うことか、それ?」
ルクスは呆れたように言ったけど、わたしは気にしない。わからないものがあるなら、わかるまで調べればいい。それに今日は、調べたいものがもう一つある。
「ねえルクス! 今度はわたしの造った武器を使ってみない!?」
「昨日からずっとそう言ってたな。何を用意したんだ?」
「えへへっ、とびっきり元気な子だよ!」
「……嫌な予感しかしないんだが」
そんなことを言いながらも、ルクスは運び込まれてきた大剣を見るなり近づいてきた。やっぱり! ルクスなら絶対に気に入ってくれると思ったんだ!
「じゃーん! 魔導変形剣 百足姫!」
分厚い刀身には、根元から切っ先まで何十もの節が並んでいる。金属の外殻を重ねた姿は、巨大な百足の背中にちょっと似ていた。
「百足姫、か。確かに変わった形だな。これは普通の大剣じゃないだろ?」
「もちろん! 刀身の中に小型の駆動術式を入れてあるの。ほら、ここ!」
鍔の中央に収めた魔石と、柄の脇にある操作桿を見せる。ルクスはわたしが指示した部分を順番に確かめ、試しに大剣を持ち上げた。
「なかなか重いな。これだけ金属が詰まってたら当然か」
「……ねえ、平気なの?」
「持つだけならな。随分凝った造りだぞ、これ」
よかった。やっぱり普通に持てるんだ。以前、力自慢の兵士に試してもらったことがある。持ち上げるところまではできたけど、刀身を伸ばした途端に振り回されそうになって、試験を中止することになっちゃった。固定架台を使えば予定した動作は再現できる。それでも、架台に取り付けられた百足姫を見るたび、何のために柄を付けたんだろうって思っていた。
「この操作桿で刀身を伸ばせるの! しかも、ただ伸びるだけじゃないんだよ。節が一つずつ動いて、振った方向へ追いかけてくるの!」
「鎖剣みたいになるのか。自分で曲がるなら面白そうだな」
「でしょ!? そこがすっごく難しかったんだから!」
「主任、説明の続きは試験区域でお願いします。こちらで展開範囲を設定しますので」
「はーい!」
ヨナスに呼ばれて、わたしたちは石柱を据えた試験区域へ移動した。ルクスが操作桿を入れると、刀身の節が根元から順番に開いていく。内部を通る導魔線が伸び、金属の刃が連なって地面へ垂れた。
「おお……本当に伸びたな。こいつはなかなか壮観だ」
「もっと長くなるよ! でも最初はそのくらいで振ってみて!」
「わかった。周りに人はいないな?」
「職員は全員退避済みです。ルクスさん、お願いします」
ルクスが大剣の柄を振ると、長く伸びた刀身が波打った。根元の節から切っ先へ、駆動の指示が順番に伝わっていく。記録盤の反応も正常。継ぎ目の動きに引っかかりはなく、刀身はルクスの振りに合わせて大きな弧を描いていた。
「すごい! ちゃんと追従してる!」
「なるほどな。振ったあとも先端が動こうとするのか。こいつ、力任せに扱うより、少し待ってやった方がいいな」
「そうそう! そこなの! 普通の剣と違って、刃が自分で曲がろうとするから――」
「主任、説明は結構ですが、石柱の巻締試験へ進めてもよろしいですか?」
「あっ、そうだった! ルクス、次はあの柱に巻き付けて!」
ルクスは石柱との間合いを確かめると、百足姫を横薙ぎに振った。刀身が石柱の縁に触れたところで、節が内側へ曲がり始める。後続の刃まで次々と回り込み、あっという間に柱を取り囲んだ。うん、綺麗! すっごく綺麗に動いてる!
「そこで巻締! 操作桿を切り替えて!」
「これか? ……おっと、結構引っ張られるな」
金属の節が石柱を締め上げると、表面に細かい亀裂が走った。内側の刃が食い込み、柱の抵抗が柄へ返る。今までの試験では、この段階で人間の使用者が支えきれなくなっていた。でも、ルクスは姿勢を崩すどころか、柄の位置さえほとんど変えていない。
「ルクス、そのまま! もう少しだけ!」
「わかった。柄を押さえておけばいいんだな」
彼が百足姫を保持したまま力を加えると、石柱の亀裂が一気に広がった。崩れる石の音に重なって、拘束していた対象を失った刀身が勢いよく跳ね上がる。巻締の力が解放されるのはわかっていたけど、こんな大出力での試験は初めてだ。
「あっ、ルクス! それ――」
叫び終えるより早く、ルクスが柄を押さえ込んだ。暴れる刃の勢いを受け止め、そのまま地面へ伏せさせていく。金属の節が砂を削りながら動きを止め、収束機構によって元の大剣へ戻っていった。
「いま押さえた!? 戻りの動きを、腕だけで!?」
「お前の剣、獲物を倒したあとも元気だな」
「だから百足姫なの。ちょっとお転婆でしょ?」
「ちょっと、の範囲は今度話し合おう」
ちゃんと動いた。巻締も成功したし、石柱だって砕けた。あとは各節に損傷がなければ、今回の試験は大成功だ。
そう思っていたら、ルクスが百足姫を持ち直し、柄の操作桿を確かめながら口を開いた。
「でも、今のは少し使い方を間違えたな」
「えっ!? どこか変だった?」
「いや、武器の方じゃなくて俺の使い方だ。今回は跳ねた刃を力で押さえ込んだが、あれも無理に止めない方がいいな。反動を姿勢制御に活かせば、そのまま次の動きへ繋げられる」
「……えっ、あの反動を使うの!?」
「そういうことだ。癖はあるが、使い手が御しきればいいだけの話だしな。威力は折り紙付きだ。なかなかいい武器じゃないか、これ」
反動を利用する?
わたしは記録鏡に残った、石柱が割れた直後の動きを見直した。巻締を解除したあと、どうやって刀身を安定させるか。そればっかり考えていたけど、ルクスの言うとおりなら、戻ってくる力で身体の向きを変えることだってできるかもしれない。
「ねえ、ルクス! それ、もう少し詳しく聞かせて! どんな動きができそう!?」
「例えば、相手を締め上げたあと、その反動で身体の向きを変えて次の一振りに移るとかだな。刃の勢いを全部殺すのは、もったいないだろ?」
「すごい! そんな使い方もあるんだ! ヨナス、今の話も記録して!」
「はい、主任。ただし、その運用を試すのは機構の点検を終えてからですよ」
「わかってるってば! でも早く試してみたいなぁ!」
ルクスはもう一度大剣を眺めてから、柄をこちらへ差し出してきた。
「それにしても、よくこんなものを造ったな。面白い発想だと思うぞ」
「えへへっ! でしょ!?」
百足姫を受け取った職員たちが、点検台へ運んでいく。わたしはヨナスの記録用紙を覗き込み、反動を利用するというルクスの言葉が書き留められているのを確かめた。
「ねえヨナス、あとでこの部分の記録も見せてね! 次はもっと上手に動かせるかもしれないんだから!」
「ええ。まずは百足姫の点検結果を待ちましょう。主任にも確認していただきたい箇所があります」
「はーい! ……あっ、そうだ。次の子も準備できてるよね?」
「そちらも予定どおりです。ただし、今度は装着の確認に少し時間がかかりますよ」
「わかってるってば!」
そう返事をしながら、わたしは運搬台を押していく職員を見送った。早く記録を調べたいな。あの反動、次はどんな使い方ができるんだろう。




